CFRP製造技術でカスタム自転車に参入、航空宇宙・自動車向けはAGCなどと展開イノベーションのレシピ(1/2 ページ)

シリコンバレーのベンチャー企業であるArevoは、独自のCFRP(炭素繊維強化プラスチック)素材の設計・製造技術を活用し、新たにカーボンフレームのカスタム自転車ビジネスへの参入を発表した。また、AGCなどのパートナーと協力し、航空宇宙向けや自動車向けのCFRP活用拡大に向けた取り組みを強化する。

» 2020年07月14日 11時00分 公開
[三島一孝MONOist]

 シリコンバレーのベンチャー企業であるArevoは、独自のCFRP(炭素繊維強化プラスチック)素材の設計・製造技術を活用し、新たにカーボンフレームのカスタム自転車ビジネスへの参入を発表した。また、AGCなどのパートナーと協力し、航空宇宙向けや自動車向けのCFRP活用拡大に向けた取り組みを強化する。

CFRPの3Dプリント技術で独自市場を切り開くArevo

 Arevoは「Make The World Lighter(世界中のモノを軽くする)」をコンセプトとし、CFRPによるモノづくりのハードルを下げ、より広く普及させることを目指したベンチャー企業である。CFRPの3Dプリント(積層造形)技術、ハンドを操作し事後処理の自動化などを行うロボティクス技術、そしてこれらを一貫して支えるエンジニアリングソフトウェア技術により、CFRPの設計から製造までのシンプル化を図り、リードタイムの大幅な削減を目指していることが特徴だ。

 ポイントの1つは、6軸型のロボットアームと回転方向に稼働するステージにより、XYZ方向に自由に連続炭素繊維を積層できる点だ。さまざまな向きに積層が可能なために、CFRPの弱点とされるZ方向の強度を補う形で積層することができる。またハンド部分はDED(Direct Energy Deposition)方式とローラーを組み合わせ、1本1本の炭素繊維フィラメントをレーザーで溶かしローラーで隙間なく溶着する仕組みで、1つ1つの積層強度も強いという。

photo Arevoの3Dプリント技術。6軸ロボットと回転ステージ、DED方式とローラーを組み合わせた溶着方式などをポイントとしている(クリックで拡大)

 Arevoの特徴は、この独自の成形方法に加えて、これらを支援するエンジニアリングソフトウェアが充実しているという点だ。6軸ロボットやステージ、さらに成形制御などの複雑な動きを全てプログラムするのは製造現場にとって大きな負担となるが、AI(人工知能)を活用した設計支援や、成形プログラムの自動作成をソフトウェアでサポートしている。また、製造工程の成形の様子もデジタルツインによりほぼリアルタイムでエンジニアリングソフトウェア上で状況を把握でき、トラブル発生時にすぐに対応することも可能だ。

photo Arevoのエンジニアリングソフトウェアの画面例。デジタルツインで成形の様子などもリアルタイムで示すことができる(クリックで拡大)

モビリティ向けでCFRPに期待するAGC

 Arevoのこれらの技術的なポテンシャルは高い評価を受け、世界中の多くの企業から出資を集めている。フランスのエアバスなどの他、日本からはAGCや大林組が出資している。その中でAGCは、航空宇宙業界および自動車業界向けのCFRP部材をArevoとともに開拓する狙いを持つという。

 Arevoとの関係についてAGC 事業開拓部 マーケティンググループ マネージャーの南館純氏は「AGCではガラス製品を基軸としながらも社会の変化に対応しながら必要な製品を提供し成長してきた歴史がある。しかし、社会の変化のスピードが上がる中で自前の開発だけでは対応が難しくなっていた。そこで、オープンイノベーションにより外部との協業も組み合わせてスピードを上げる取り組みを強化している。さまざまなスタートアップとの協創も進める中で、出会ったのがArevoだ。2018年5月に出資した」と語っている。

 AGCではCFRP関連の取り組みとして、フッ素樹脂を用いた「熱可塑性炭素繊維強化プラスチック(CFRTP)改良技術」などの技術開発は進めているが、戦略領域と位置付けるモビリティ分野でCFRP素材を本格導入したケースはないという。「CFRPの用途として自動車や航空機などのモビリティ領域が大きいが、CFRP素材としても既に他の材料メーカーが展開しており、単純にAGCが後発で参入したからといって市場でシェアが得られるわけではない。AGCの独自技術をArevoとともに展開することで、できることがあるはずだと考えている。協業により航空宇宙分野や自動車分野でのCFRPの展開を開拓したい」(南館氏)としている。

 2019年末には、ArevoのCFRP 3Dプリンタ「AQUA」もAGC内に導入し、プロセスの開発や用途開拓などを推進。既にマーケティング向けサンプルは生産できる体制が整っており、航空機関連メーカーや自動車メーカーなどに向けて、提案を進めているという。「5年以内に何らかの事業の方向性を定め、パイロットプロジェクトを形にできるようにしたい。どういう分野でどういうモノを提供する形になるかは、ユーザーに話を聞いている段階だ。部材を提供するのか、プロセスを担うのか、さまざまな方向性で検討を進めているところだ」(AGC)としている。

photo AGC横浜テクニカルセンター内に設置されたArevoのCFRP 3Dプリンタ「AQUA」と、Arevo シニアマネージャーの吉澤文氏(左)とAGC 先端基盤研究所 ガラスプロセス部の宇惠野章氏(右)(クリックで拡大)
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