組み込みOS業界の黒船となるか、ファーウェイの「HarmonyOS」組み込み開発ニュース

ファーウェイは、マイクロカーネルと分散アーキテクチャを採用した独自開発のOS「HarmonyOS」を発表。同社が2019年後半に発売する予定のスマートテレビで、HarmonyOSのバージョン1.0を採用する計画。今後3年間で最適化を進めて、ウェアラブル端末や車載情報機器など、より広範なスマートデバイスに採用を広げていく方針だ。

» 2019年08月16日 08時00分 公開
[朴尚洙MONOist]

 中国のファーウェイ(華為技術)は2019年8月9日、同国内で開催した開発者会議「HDC 2019」において、マイクロカーネルと分散アーキテクチャを採用した独自開発のOS「HarmonyOS」を発表した。まずは同社が2019年後半に発売する予定のスマートテレビで、HarmonyOSのバージョン1.0を採用する計画。今後3年間で最適化を進めて、ウェアラブル端末や車載情報機器など、より広範なスマートデバイスに採用を広げていく方針だ。

「AndroidやiOSとは全く異なるOS」

 HDC 2019では、ファーウェイ コンシューマービジネスグループ CEOのリチャード・ユー(Richard Yu)氏が登壇し、HarmonyOSの開発の背景を説明した。ユー氏は「全てのデバイスとその使われ方のシナリオにおいて、総合的にインテリジェントなユーザー体験が期待されるようになっている。そのためには、さまざまなデバイスやプラットフォーム、シナリオをサポートするOSが必要になる。そのOSは遅延時間の短さやセキュリティの強固さも求められる。これらを目標に開発したのがHarmonyOSだ」と語る。

「HarmonyOS」を発表するファーウェイのリチャード・ユー氏 「HarmonyOS」を発表するファーウェイのリチャード・ユー氏(クリックで拡大) 出典:ファーウェイ・ジャパン

 ファーウェイは、米中経済摩擦の影響でグーグル(Google)のAndroidを安定的に利用できなくなっており、HarmonyOSはAndroidを代替するOSと報道されてきた。しかし今回の発表でユー氏は「スマートフォン向けのAndroidやアップル(Apple)のiOSとは全く異なるOSである」と明言した。

 マイクロカーネルと分散アーキテクチャを特徴とするHarmonyOSは、内蔵メモリが数KBクラスのIoT(モノのインターネット)機器から、数MBクラスのウェアラブル端末、数GBクラスのスマートフォンやPCに至るまでスケーラブルに適用できる。また、開発したアプリケーションをさまざまな機器にシームレスに展開できるとする。

「HarmonyOS」の4つの特徴

 HarmonyOSは4つの技術的特徴を持つ。1つ目は「史上初」(ファーウェイ)とする分散アーキテクチャと分散仮想バスの採用だ。分散アーキテクチャでは、スマートフォンやタブレット端末、スマートウォッチ、スマートテレビなど、機器ごとの技術的対応が不要になり、サービスロジックの開発にリソースを集中できるという。分散仮想バスは、抽象度の高い通信プロトコルをひとまとめにした仮想バスであり、遅延時間の短縮や高スループット、高い信頼性などの実現を期待できる。

 2つ目の特徴は「確定的遅延エンジン(Deterministic Latency Engine)」と高効率のプロセス間通信(IPC:Interprocess Communication)である。確定的遅延エンジンは、タスク実行の優先順位とスケジューリングの時間制限の事前設定により優先度の高いタスクにリソースを割り当てることで、Linuxと比べてアプリケーションの応答遅延を25.7%削減できる。IPCについても、グーグルのマイクロカーネルベースOS「Fuchsia」の5倍、ブラックベリー(BlackBerry)の「QNX」の3倍の効率を達成するとしている。

 3つ目の特徴は、スレッドスケジューリングやIPCなどの基本的な機能のみを提供するマイクロカーネルをベースとした設計によるセキュリティや信頼性の確保だ。HarmonyOSでは、高いセキュリティレベルを確保できるTEE(Trusted Execution Environment)を形式手法によって実現できるという。数学的アプローチである形式手法により、全てのソフトウェア実行パスを検証できるので、従来の機能検証や攻撃シミュレーションと比べて高い信頼性を確保できるというわけだ。

 4つ目の特徴は、アプリケーションをさまざまな機器にシームレスに展開するためのマルチデバイスIDE(統合開発環境)の提供だ。さまざまな画面レイアウトコントロールとインタラクションに自動的に適応し、ドラッグアンドドロップコントロールとプレビュー指向のビジュアルプログラミングの両方のサポートにより、開発者は複数のデバイスで実行されるアプリをより効率的に構築できるという。コンパイラの「HUAWEI ARK Compiler」は、Androidの仮想マシンと同等のパフォーマンスを発揮できるとしており、C/C++、Java、JS、Cotlinなど複数のプログラミング言語にも対応する。

群雄割拠の組み込みOS市場に割って入る

 ファーウェイはHarmonyOSのエコシステムを拡大していきたい考え。オープンソースソフトウェアとして公開し、オープンソースコミュニティーも構築していく計画である。中国国内ではファーウェイ製品向けのアプリケーション開発エコシステムとユーザーコミュニティーがあり、これを核として中国市場にHarmonyOSの基盤を築き、その後グローバルにエコシステムを拡大させていく方針だ。

 マイクロカーネルベースのHarmonyOSの当面の競合は、組み込みLinuxやAndroidなど高度な機能を備える機器向けのOSではなく、同じマイクロカーネルベースOSとして比較対象に挙げているQNXやFuchsiaなどの、より高いリアルタイム性能を持つ組み込みOSになるだろう。他にも、ウインドリバーの「VxWorks」やGreen Hills Softwareの「Integrity」、2017年11月にAWS(Amazon Web Services)が発表した「Amazon FreeeRTOS」、2019年4月にマイクロソフト(Microsoft)が買収したExpress Logicの「ThreadX」などがある。

 クラウドとの効率的な連携を目指すエッジコンピューティングに注目が集まる中で、これらの組み込みOSの重要度も高まっている。グーグルが、Androidとは異なるマイクロカーネルを持つFuchsiaを開発し、AWSがAmazon FreeeRTOSを発表し、マイクロソフトがThreadXを傘下に収めているように、小さいながらも組み込みOS市場は群雄割拠の様相を呈している。スケーラブル、シームレスをうたうHarmonyOSが、これらの競合OSに割って入ってどこまで浸透できるのか、注目を集めそうだ。

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