完成車の不適切検査をはじめ品質問題がクローズアップされた2018年の国内自動車市場だが、グローバル市場では2018年後半から2019年にかけて大きな地殻変動が起こりつつある。今回は、自動車市場にとって大きな潮目となるであろう2019年以降の展望として、グローバルの自動車生産動向と販売動向に基づく分析をお送りする。
完成車の不適切検査をはじめ品質問題がクローズアップされた2018年の国内自動車市場だが、グローバル市場では2018年後半から2019年にかけて大きな地殻変動が起こりつつある。本連載「IHS Future Mobility Insight」では、自動車市場にとって大きな潮目となるであろう2019年以降の展望を2回に分けてお送りする。今回は、IHS Markit Automotiveで自動車の生産動向を担当する濱田理美氏と、販売動向を担当する川野義昭氏、両名による市場環境予測を紹介しよう。
まずは、濱田氏によるグローバルの自動車生産動向に基づく分析を紹介する。
グローバルにおけるライトビークル(LV:一般的な乗用車や、SUV、ピックアップトラックなどのライトトラックを含めた広義の乗用の自動車)の生産動向を見ると、市場拡大は鈍化のフェーズに移行している。その背景にあるのは、米中間の貿易戦争や、英国のEU離脱決定などの貿易環境悪化だ。短期リスクは増大しており、消費者心理は冷え込んでいる(図1)。
2018年のLVのグローバル生産台数(予測値)は、前年比0.5%減少の9468万台となる見込みで、リーマンショック以来のマイナス成長に陥ることになりそうだ。IHS Markit Automotiveの最新の調査では、2018年のLVのグローバル生産台数予測について、1年前の2017年12月時点における予測から240万台下方修正している。欧米と中国を中心に市場成長にブレーキがかかり、日本以外の地域はほぼ全て下方修正している状況だ(図2)。
例えば、北米――特に米国――では、セダンや小型車両の販売低迷/販売減が続き、それに伴う在庫調整の拡大で下方修正している。また、南米ではブラジルの需要回復は想定を上回ったものの、アルゼンチン市場の減速影響が拡大しており、その結果として直近6カ月で6%(約26万台)の下方修正が必要になった。
一方、欧州に目を向けると、乗用車の新たな排出ガス/燃費試験の国際基準であるWLTP(Worldwide harmonized Light vehicles Test Procedure)の西欧での施行に伴う生産減が影響している。WLTPへの対応で制約が発生し、域内での生産減が続いている状態だ。さらに、トルコの政局不安定による販売急落と、米中貿易摩擦の影響も影を落としている。特に、ドイツは中国市場に対する輸出が同国の経済を支えるようになっていることから、今後の先行きも不透明だ。また、中東市場は、米国の対イラン制裁措置の影響に伴って下方修正となっている。
それでは、近年におけるグローバルの自動車市場の成長をけん引してきた中国市場はどうかと言うと、直近の5カ月で125万台(4.5%)もの下方修正が必要な状況になっている。中国市場がマイナス成長になるのは実に20数年ぶりである。同国については2017年末の小型車減税(1.6l(リットル)以下の車両の減税)の終了により、2018年の市場規模は前年並みになると予想していた。しかし、2018年後半から表面化している米中摩擦をはじめ、経済の不透明感が消費者マインドを一層押し下げている実態が詳らかになった。
中国市場における景気減速、先行き不透明感は、2019年以降も続くと予想している。さらに2020年からは小型自動車(設計総重量3.5トン以下の乗用車と商用車)に特化した新排ガス規制が強化されることを考えれば、2020〜2021年も生産台数の下方修正が必要になる。LV生産台数の地域別比率で世界全体の30%を維持している中国だが、今後の成長は低迷しそうなのが実態である。
そのような状況下で2018年のLV生産台数を唯一上方修正したのが日本だ。その理由は、北米市場を中心としたSUVの輸出増加と、輸入関税引き下げに伴う中国市場向け輸出の加速である。特にSUVは国内でも販売増が続いており、人気の車種は供給が難しい状況になっている。米国で現地生産をしている日本の自動車メーカーも、SUVについては現地の生産が追い付いかず輸出で補っている状況だ。このSUV人気の傾向は、2020年以降も継続するだろう。
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