射出成形機にもオープンアーキテクチャ採用の波、工場に柔軟性をもたらすPC制御技術「つながる工場」へ

射出成形機専門メーカーである三菱重工プラスチックテクノロジーは、次世代射出成形機の開発に当たりオープンアーキテクチャ採用へと大きく舵を切った。工場用機械として、柔軟性と品質のバランスが求められる中、同社はどういうことを考え、決断を下したのだろうか。

» 2016年02月22日 10時00分 公開
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高まる「つながる工場」への流れ

 「つながる工場」などへの関心が高まる中、工場機械の制御装置にもオープンアーキテクチャ採用の波が巻き起こっている。工場内の自動化領域拡大の動きから、工場機械の制御は他機器との連携が要求される部分が数多く存在した。しかし、現在要求されていることは稼働データや生産品の品質などのデータを取得し、状態監視や予知保全を行うような一歩進んだデータ活用の動きだ。これらの、稼働データの取得や工場外でのデータ解析などを実現するためには、工場機械といえども、全てのハードウェアとソフトウェアを自社内で内製するには限界がある。そのため既存のICT(情報通信技術)を、オープンアーキテクチャを使って取り込むことが求められている状況である。

 三菱重工プラスチックテクノロジー(MHIPT)が開発する射出成形機を取り巻く環境もこうした変化の流れの中にある。同社は、三菱重工業グループの射出成形機専門メーカーだ。

 射出成形機とは、加熱して溶かしたプラスチックなどを金型内に射出注入し、冷却および固化することによって成形品を生産する機械である。同機械は型締め部と射出部の主に2つの仕組みで構成されるが、型締め力の大きさがそのまま機器の大きさや性能を示す場合が多い。MHIPTではこの型締め力が350〜4000トンクラスまでの射出成形機をラインアップとして用意している。

 MHIPTは、射出成形機の中で特に超大型、大型クラスに強みを持っている。同クラスの電動・油圧射出成形機を自動車・産業資材・家電、PCなどを生産する企業に向けて、販売しているという。社員数は約150人で国内外に約30の拠点・代理店を持ちグローバルで射出成形機の展開を進めている。超大型機市場では半数近いシェアを持つとしており、製品の7割は海外へ輸出している。

新製品「MEIIIシリーズ」で目指したもの

 このMHIPTの射出成形機の新製品となるのが「MEIIIシリーズ」である。射出成形機には型締めを油圧で行う油圧式と、電気で行う電動式があるが、「MEIIIシリーズ」は電動式で、550〜850トンをカバーする中型射出成形機である。MHIPTにとって今回の「MEIIIシリーズ」は従来の開発方針を転換し「大きく舵を切った」(MHIPT 取締役 技術部 部長 水野貴司氏)製品だという。ポイントは制御装置部分にオープンなPCベース制御システムを採用したということだ。

photo 射出成形機の新製品となる「MEIIIシリーズ」と同製品の開発担当者たち

 射出成形機を含む工場用機器には全て制御機能が必要になる。同社の射出成形機も従来は制御基板などを内製していたという。しかし、新製品である電動射出成形機「MEIIIシリーズ」に搭載する制御装置「MAC IX」では初めてベッコフオートメーション(以下、ベッコフ)のPCベース制御システムを採用した。

photo MHIPT 取締役 技術部 部長 水野貴司氏

 オープンアーキテクチャを採用した理由として水野氏は「従来は制御基板を内製していましたが、数年間隔でハードウェアなどを開発することがどこまで差別化につながるのかが見えにくくなってきていました。そのため、開発目標の差別化のポイントを決めた時点で、ハードウェアについてはオープンな機器を使い、設計リソースをソフトウェア開発に集中するという方針を定めました。差別化つまり射出成形機専門メーカーのノウハウを全てソフトウェア化した上でオープンなハードウェアの性能を完全に引き出し最終製品としての評価につなげていくというビジョンです」と述べている。

 すなわちオープンなハードウェアの採用がコモディティ化を意味する訳では無い。同社の射出成形機「MEIIIシリーズ」は、前シリーズの「MEIIシリーズ」から引き続き、射出ユニットに自社開発したDD(ダイレクトドライブ)モーターを採用。このモーター2つを同期駆動する射出の仕組みがこの製品の大きな特徴となっている。DDモーターは少ない回転数でより大きな力を発揮することができるため減速機を必要としない。そのためレスポンス良く射出の駆動が行える他、プーリーやベルトなど消耗部品が無いためメンテナンスが容易という利点を持つ。さらに2つのDDモーター間のメカニカルな連結機構を完全に排し電子制御による連結機構に大きな価値を持たせたデザインとなっている。電子制御の安全性、信頼性、精度が製品評価に直結することになる。オープンアーキテクチャの使いこなしによって、より高度でシビアな独自応用が可能というわけだ。

photo 「MEIIIシリーズ」の射出部。2つのDDモーターの同期制御で高精度の射出を実現する

信頼性と品質を両立した他、拡張性などの利点も

photo MHIPT 技術部主査の滝井卓氏

 新製品開発のプロジェクトリーダーであるMHIPT 技術部主査の滝井卓氏は「もともとの課題として、市場での主導権を持つ制御装置メーカーが独自仕様や独自規格による囲い込みを行う動きが強く、望まない形での装置メーカー依存がより高くなる危険性があり、それを回避したいという狙いもありました。しかし、一方で柔軟性の高いオープンシステムは完成度が低く、求める品質が維持できないという課題を抱えていました。これらを両立させるオープンな機器やシステムを求めていたという状況があります」と滝井氏は述べる。

 その状況下で選ばれたのがベッコフのPCベース制御システムである。ベッコフは「PCベースの産業用オートメーション」を主力に据え、PCベースのオープンな自動制御システムを提供しており、産業用PCから各種フィールドバス対応I/O、ドライブテクノロジー、制御ソフトウェアなどの製品を展開。また、産業用オープンネットワークであるEtherCATの開発元であり、独自技術を保有した上でオープン仕様を追求している点が特徴である。滝井氏は「ベッコフのPCベース制御システムは、柔軟性と信頼性を高いレベルで両立していることから採用を決めました」と述べている。

photo 制御盤内で使用されているベッコフのI/O機器。オープン技術のEtherCATを活用し、機能拡張の幅広さで高精度と柔軟性の高さを両立する装置が実現した。EtherCAT開発元であるベッコフのEtherCAT I/Oシリーズは、世界で最も多く使用されている

 実際にオープン仕様によるPCベース制御システムに切り替えたことにより、射出成形機の性能や開発環境などにおいて、さまざまな点で向上させることができたという。

photo メインコントローラーとなるパネルPC CP6216-1xxx。ニーズに合わせてカスタマイズされた操作ボタンに、ソフトウェアPLCのTwinCAT画面もカスタマイズされ、美しさと分かりやすいHMIを実現できたのもベッコフPCベース制御の特徴だ

 製品面では、ベッコフの産業用PCの柔軟性や拡張性を生かし、約200種類のカタログオプション仕様を制御装置内に搭載することに成功。従来の制御装置の約3倍の仕様規模を実装可能なレベルとなっており、従来であれば追加コストで対応していた仕様でも標準的な価格や納期で供給できるようになった。また、オープン規格を採用することで、顧客指定のセンサーやサーボモーターなどへの柔軟な対応力を高められたという。さらに、従来、機械動作のバラツキ低減のため、制御データフローを均一化するのに非常に大きな手間が発生していたが、EtherCATとTwinCAT(ソフトウェアPLC)によるシステム全体を同期する技術(集中制御装置)により均一な制御データフローを容易に実現でき、機械動作の繰り返し精度向上に大きく貢献したという。

 一方、製品製造においても「従来の工程を大幅に効率化できる革新へとつながりました」と滝井氏は述べる。EtherCATのリモートI/O配置の柔軟性を生かしたモジュール化した盤構成により、製造・解体・輸送・据え付け(再組み立て)の工程の大幅な短縮を実現。安定した短納期対応を可能とした。さらに、350トンから4000トンまで大幅に大きさも型締め力も用途も異なる射出成形機を1つの体系の制御装置で駆動することが可能となり、開発や管理の効率を大きく高めることができた。さらにスケーラビリティを確保した上で成形精度を従来比2倍以上確保しており、多様性と精度を高いレベルで両立することに成功したという。

 射出成形機の多様性、柔軟性を高めるソフトウェアには3万点以上のデータ管理が必要であり、オラクルデータベースを使いソフトウェア設計構成管理を行ってきた。しかし、従来装置メーカーのソフトウェア開発ツールがオープンで無いため、データベースと密にリンクできないことがソフトウェア設計効率向上の障害となっていた。今回、ベッコフのソフトウェア開発ツールの十分なオープン性によりデータベースとシームレスに接続できることが大きな強みになり、ソフトウェアの自動(半自動)設計構成まで実現できたことは大きな前進であるとしている。滝井氏は「オンラインデバッガやソフトウェアオシロスコープなど開発ツールの機能が充実しており、これらのサポート力の高さも特筆すべき点です」と述べている。

オープンアーキテクチャがもたらす価値、新たなビジネスモデルも

 これらの製品面や開発面でのメリットは、ビジネス面でも好影響をもたらすという。「超大型、大型射出成形機はある意味少量多品種生産の典型例のような製品で、2つとない“高級住宅”を提案・建築するようなビジネスであり、顧客の要望1つ1つ全てを満足することが理想です。従来の制御装置ではその制限からビジネスチャンスを失っている場合が少なからずありました。オープンアーキテクチャを生かしたMAC IXは効率的かつ柔軟にソフトウェア設計が行えるので高い顧客満足を得られるレベルになったといえます。一言で言うとQCD(品質、コスト、納期への対応力)を大きく高めたといえます」と滝井氏は効果を語る。

 さらに、これらの取り組みは今後の製造業を取り巻く環境の変化にも即したものだという。滝井氏は「EtherCATやTwinCATによるオープンで柔軟な制御データフローの可能性は射出成形機の範囲内だけにとどまらず、工場全体のデータフローのモジュール化や均一化にもおよびます。ドイツのインダストリー4.0や米国のインダストリアルインターネットなどが目指す技術にもタイムリーに対応できる。」と述べている。

 将来的には射出成形機から外へのデータフローの確立した上で取得したデータを活用した新たなサービスやビジネスモデルの展開なども視野に入れる。「平均故障間隔(MTBF)の延長、平均修復時間(MTTR)の短縮を今以上の水準に引き上げるためには、ビッグデータの活用は不可欠になると考えます。それは『自分たちの製品がどういう経時間変化をするのか』『どう使われているか』『異なる環境下で取得したデータを規格化・比較するにはどうするのか』について、まずは大量のデータを集めて見る目を養う必要があります」と滝井氏は将来の方向性について述べている。

photo 新製品の開発を行ったMHIPTとベッコフのプロジェクトメンバー。下段が左から滝井氏、ベッコフ代表取締役社長の川野俊充氏、水野氏。上段は左からMHIPT技術部主務の梅田知宏氏、ベッコフの青石理氏、小幡正規氏、MHIPTチームマネージャの鮎澤努氏、技術部開発チームの甲斐康寛氏

 製造機械にも訪れる大きな環境変化の波。ICT活用など自社のノウハウだけで実現が難しい状況になる中、重要になるのは差別化のポイントをどこに置き、そうでない部分をより早くオープン化するかということである。これらの動きを考えると製造機械を中心とした製造現場革新を実現する最初の1歩には、実はPCベース制御によるオープンアーキテクチャの採用があるのかもしれない。そして、それを支える存在として、高い制御性能とオープン仕様による柔軟性を持ったベッコフのPCベース制御システムは、大きな助けになるといえるだろう。

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提供:ベッコフオートメーション株式会社
アイティメディア営業企画/制作:MONOist 編集部/掲載内容有効期限:2016年3月21日

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