顔認証より高精度!? 「歩き方」で個人を特定できる「歩容認証」とは 日本科学未来館の新展示(1/2 ページ)

日本科学未来館で「歩容認証」を使った展示「アルクダケ 一歩で進歩」が開催中だ。歩容認証は、遠方から個人を特定できる唯一のバイオメトリクスとして注目を集めている。

» 2015年07月17日 09時00分 公開
[與座ひかるMONOist]

 “歩き姿”で個人を特定する「歩容認証」という研究が進んでいる。同研究を日本国内でリードするのは大阪大学 産業科学研究所 所長で複合知能メディア研究分野 教授の八木康史氏。約40〜50m離れた距離から人間を認証できる技術であり、遠方から個人を特定する唯一のバイオメトリクスとして注目を集めている。「警察庁では既に歩容認証技術使った犯罪捜査が行われ、実際に逮捕まで至ったこともある」と八木氏は解説する。

大阪大学産業科学研究所所長の八木康史氏 大阪大学産業科学研究所所長の八木康史氏

 この技術を使った「アルクダケ 一歩で進歩」という展示が、日本科学未来館(東京都江東区)で始まった。会期は2015年7月15日〜2016年4月11日の約9カ月間。展示内容は、来館者にグリーンバックの通路を歩いてもらい、歩行シルエットから歩き方の個性を8つの指標で計測する「歩容個性計測」と足踏みをしながら計算問題に答えてもらい脳の健康度を計測する「認知能力計測」の2つを用意する。

歩容個性計測に使われるグリーンバックの歩行路 歩容個性計測に使われるグリーンバックの歩行路

歩行シルエットが30画素以上で映っていれば解析可能

 この展示で使われているのは、八木氏らが開発した「歩容鑑定システム」というソフトウェアだ。映像に映る個人の歩行シルエットの連続画像を作り出し、数値化して解析することで、年齢や性別などを割り出して個人を特定することができる。歩行シルエットの撮影に特殊な機材を使う必要はなく、歩行シルエットを30画素以上の画素数で映すことができればよい。「この程度の解像度であっても、撮影した人間の歩き方には『個性』が残っている」(八木氏)。同システムの認証率は94〜95%で、歩行シルエットに加えて頭部情報や身長の情報なども合わせると、認証率は99%に達するという。これは、顔認証よりも高い認証率だ。

歩容による「年齢推定」の説明スライド(クリックで拡大) 歩容による「年齢推定」の説明スライド(クリックで拡大)

 展示ではグリーンバッグの歩行路を使って歩行シルエットを撮影するので、解析時間はさほどかからない。しかし、防犯カメラなどを用いた歩行解析ではさまざまな背景が写り込むため、歩行シルエットだけを自動処理で抜き出すことは困難だ。このため、捜査員が歩行シルエットを捉える必要があり、そういった場合は解析に時間がかかることもある。

「歩容個性計測」の計測結果。印刷には個人情報提供への同意が必要(クリックで拡大) 「歩容個性計測」の計測結果。印刷には個人情報提供への同意が必要(クリックで拡大)

今後は医療の現場にも

 歩容を個人認証に使う研究が世界的にはじまったのは1980年代後半頃。八木氏が研究を開始したのは1993年で、世界的に見るとやや後発。しかし、八木氏らのチームでは現在約4000人の歩行データを保有しており「4000人というデータ数は世界でも最大レベルだ」と説明した。さらに、今回の展示の目的として「個人情報提供に同意した来場者の歩行データ取得」を挙げ、これにより集まるデータ数は約10万人を見込んでいるという。「ここまで大量のデータを、しっかりプライバシーを守りながら得られる機会は他にない。今後の研究の大きな一歩になる」と意図を説明した。

 また、今回の展示では「認知能力計測」も実験的に行われている。これは、感圧センサーを組み込んだ正方形のマットの上で来場者が足踏みをしながら、計算問題に答えていくものだ。感圧センサーから得た情報を歩容認証の技術を使って解析し、歩き方や回答のタイミングから認知能力を測定する仕組みとなっている。「こちらはまだ初期段階の研究で、今後医療分野にも応用できれば」(八木氏)。

 加えて、来場者が認知能力計測で足踏みしている姿は、Microsoftのモーションセンサー「Kinect」で撮影している。この撮影データも、歩行データの1種として収集されることになる(個人情報提供に同意した来場者のみ)。

認知機能計測のデモンストレーションの様子。ディスプレイの上には足踏みしている姿を撮影する「Kinect」が(クリックで拡大) 認知機能計測のデモンストレーションの様子。ディスプレイの上には足踏みしている姿を撮影する「Kinect」が(クリックで拡大)
認知機能計測の説明スライド(クリックで拡大) 認知機能計測の説明スライド(クリックで拡大)
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