ソニーの工場に咲く復興の花、東北産業の“ゆりかご”を目指すみやぎ復興パークモノづくり最前線レポート(2/3 ページ)

» 2014年10月20日 09時00分 公開
[三島一孝,MONOist]

ソニーの生産体制の変化とみやぎ復興パークの誕生

 しかし、生産の本格再開まで約5カ月が掛かる中で、ソニーとしても最適な供給ができない状況を続けるわけにはいかず、仙台TECでしか生産できないモノ、研究できないことを除いて、他の工場などに移管を進めた。例えば、テープメディアなどは仙台TECでしか生産できない。ソニーは放送局用のテープメディアではグローバルで圧倒的なトップシェアを誇っているが、震災で放送局用テープメディアが生産できなかった期間は世界中の放送局がテープ不足に困り、ソニーに早期復旧を強く求めたという。

 一方で、リチウムイオンバッテリー電極工程などは、他の工場でも生産を行っているため移管が可能だった。そこで、早期に生産活動を再開できるように従業員の転勤なども含めて、生産や研究体制の移管を行った。最終的に復旧後も仙台TECで生産や研究開発を行う製品は、テープメディア、ディスクメディア、プリントメディアという、記録メディアに絞り込む形となった。

 今まで生産していたモノがなくなれば当然スペースが空く。ソニーでは、この移管して空いたスペースを考慮して、仙台TEC内の再編成を行ったことで、仙台TEC内に全部で7棟の空建屋を創出した。当時は津波の影響で操業停止を余儀なくされた企業や工場などが周辺にたくさんあった。そのため、同社はこの空きスペースを震災復興に役立てるため使用することを検討した。しかし、ソニーが運営を行うと企業同士の関係で問題が発生する可能性がある。そこで「公共性と公益性の観点から行政関連の組織が望ましいと会社として判断」(大崎氏)し、宮城県や東北大学、多賀城市、仙台市、東北経済連合会などとの協議の末、みやぎ産業振興機構に同スペースを無償貸与することを決めた。

 これらの経緯を経て、2011年10月に、みやぎ産業振興機構を運営母体とし、仙台TEC内の空きスペースを活用した「みやぎ復興パーク」が誕生することになる。

植物工場から次世代電気自動車の開発まで

 みやぎ復興パークは、仙台TEC内の空きスペース7棟19フロア、延べ床面積3万2602m2を要する一種のインキュベーションセンターだ。特徴となっているのが、その設備の多様性である。最少10m2の小部屋から、1フロア1500m2の大きな面積の部屋まで選択が可能となっている。さらにクリーンルームなどもあり、事務オフィスから研究開発、製造用途などさまざまな用途で利用可能だ。さらにソニーで実際に製造などを行ってきた施設であるため、電源やダクト、配管など製造に必要な関連設備なども問題なく利用できる。入居負担金は720円/m2・月となっており、周辺の賃料と比べても格安だ。

photo みやぎ復興パーク事務長を務める鈴木登之和氏

 設立の趣旨として「地域被災企業などの事業活動回復につながる場」と「新たな地域産業の創出につながる展開の場」を掲げており、これらに合致する企業が入居対象者となる。現在は、31団体が入居しており、入居率は58%だという。みやぎ産業振興機構 産業育成支援部 産学連携推進課に所属し、みやぎ復興パーク事務長を務める鈴木登之和氏は「震災からしばらくは地域で被災した企業が入居するケースが多かった。しかし現在は東北をベースに新たな事業を展開することを目的に入居するケースがほとんどになっている。被災企業では既に自社の工場を建て直し、巣立っていったケースなどもある」と語っている。

 設備の多様さが示す通り、入居企業も多種多様だ。完全閉鎖型のレタス栽培工場や印刷物工場など、生産拠点として活用しているケースもあれば、東北大学のように次世代電気自動車や3次元LSIなどの研究をするケースもある(関連記事:元ソニーの電子デバイス工場が転身!? 1日1万株のレタスを作る人工光植物工場完成)。また制御システムのセキュリティを研究する技術研究組合「制御システムセキュリティセンター(CSSC)」の演習・研究施設なども同パークに入居している(関連記事:工場の安定稼働が人質に! なぜ今制御システムセキュリティを考えるべきなのか)。

 入居促進についてはみやぎ復興パークでの告知活動を進めている他「宮城県知事も進んでPRしてくれている」(鈴木氏)という。現在も毎月見学の依頼があり「使いたい設備が合わずに入居が決まらないケースも多いが、基本的に引き合いは強い」と鈴木氏は語っている。

 一方で、みやぎ復興パークならではの価値創出にも取り組んでいく方針だ。現在も入居団体同士の交流会などを行っているが、企業交流を通じて新たなビジネス創出なども想定しているという。「みやぎ産業振興機構での取り組みも含めてビジネス面でのシナジー効果が実現することを期待している」と鈴木氏は語っている。

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