「お金がない」「技術がない」「製造・販売できない」「アイデアがない」は諦めるべきか?MONOistミーティング冬レポート(2)(1/2 ページ)

メイカーズのビジネスについて考える「MONOistミーティング」の第2弾が開催された。「アイデアを具現化しよう!」と題したディスカッションでは、「ツールやモジュールの提供者」と「設計・製作の実践者」が語り合った。

» 2014年01月24日 10時00分 公開
[杉本恭子,MONOist]

 2013年12月7日、御茶ノ水 ソラシティ カンファレンスセンターで「MONOistミーティング:MAKERSのアイデアを具現化する! いますぐできる製品開発と3D設計」が開催された。

 1本目のディスカッション「MAKERSのためのWebサービス 個人や小企業がWebを通じてモノづくりができる時代に」については、前回の記事をご覧いただきたい。

「ツールやモジュールの提供者」と「設計・製作の実践者」が語り合う

 今回紹介する2本目のディスカッションは「アイデアを具現化しよう!」と題して、具現化するためにはどのような課題があり、どう解決できるのかを考えた。

 モデレータはビーサイズ 代表/デザインエンジニアの八木啓太氏。機楽 代表取締役の石渡昌太氏、ノルディックセミコンダクター 日本担当カントリー・マネージャー 山崎光男氏、オートデスク 技術営業本部シニアマネージャーの塩澤豊氏が登壇した。

ビーサイズ

ビーサイズ 代表/デザインエンジニアの八木啓太氏

 家電メーカーのビーサイズは、創業から2年間は八木氏1人でやっていたことから、「一人メーカー」と呼ばれることもある。ビーサイズの最初の製品は、LEDデスクライトの「STROKE」。パイプを曲げただけの構造で、先端に触れるとふわっとスイッチが入る、デザイン性と光の性能に特化した製品だ。大手企業のエンジニアだったときに、色の再現性に優れたLEDを紹介されたことがきっかけで、LEDライトを作ってみようと考えた。同氏は、無料の基板設計CADをダウンロードして基板を作り、安価な3次元CADソフトを使って筐体部品を作り、初期ロット100台を自宅で組み立てて、インターネットで販売した。創業から間もなく3年。現在、新たに技術者が仲間に加わり、開発したワイヤレス充電器「REST」も販売開始した(関連記事:「若手エンジニアたった1人のメーカー経営(前編)」)。

機楽

機楽 代表取締役の石渡昌太氏

 機楽は、主に日本の大手の家電、自動車、おもちゃメーカーから試作品の開発依頼を受けて、デザインや技術開発を行っている。プロモーション用や展示用などの依頼も受けている。設立は2011年だが、それ以前からフリーランスとして活動してきた。チームラボハンガー(前回参照)量産の初期ロットの設計を手伝ったり、最近では脳波で動く猫耳の試作にも関わっている。自らもクラウドファンディングで資金を調達し、3DプリントサービスのJMC、葛飾区の金型工場ミヨシ、基板の製造サービスのスイッチサイエンスの協力も得て、かわいいロボットキット「ラピロ(RAPIRO)」を製品化している(関連記事:「“動くプラモデル”を3Dプリンタ×Arduino×Raspberry Piで実現!? 低価格ロボキット「RAPIRO」」)。

ノルディックセミコンダクター

ノルディックセミコンダクター 日本担当カントリー・マネージャー 山崎光男氏

 ノルディックセミコンダクターでは、各国の無線認証付きのBluetoothモジュールを提供している。山崎氏は、特にリーマンショック以降の立ち直りのスピード感や、スマホ台頭による価値観の変化に対して、海外と日本の大きな差を感じるという。「日本の場合は作っているものの価値に目が行きがちで、日本の大手の動きは相変わらずという感じだが、世界では変化している。スマホに代表されるように、そのもの自体よりもアプリやクラウドなどを使うことで価値が生まれる時代。この動きはもっと広がりそうなので自分も関わりたい。新しいメイカーズ系の動きを支援したい」(山崎氏)。

オートデスク

オートデスク 技術営業本部シニアマネージャーの塩澤豊氏

 CADベンダーのオートデスクからは塩沢氏が参加。塩沢氏は自動車のサプライヤでメカ設計をしていて3次元CADに出会い、後にCADベンダーであるオートデスクに転職。オートデスクでは、50万円以上するツール以外に、コンシューマーにも同社のテクノロジーに触れてもらう機会を作ろうと、「123D」、つまり「3Dのいろは」を体験できるソフトウェア「Autodesk 123D」をフリーで配布し始めた。同社では、設計ツールやシミュレーションツール、データ管理ツール、CAMツールを全てクラウド上で動かせるサービスも提供している。

課題1:お金がない

 アイデアを具現化できない理由として示したのは、「お金がない」「技術がない」「製造・販売してくれる先がない」「アイデアがない」の4つ。「ない」から諦めるのか、もしかしたら何か可能性があるのか。

 まず、資金の問題。お金がなくてもできるのか。

石渡氏

「お金がなくてできるか」といえば、多分できないと思いますよ。自分がそれを開発するために他の仕事を断って専念していると考えると、自分の人件費300万円分ぐらい掛けている。そのくらいの自己資金がないと、そもそもクラウドファンディングもできないのではないでしょうか。逆にいえば、300万円で始められる時代ではありますね。その中でも実際に作る労力は、全体の25〜40%程度で、プロモーションや問い合わせへの返事などにも労力を割かなければ成り立ちません。ある程度の苦労と実力は必要だと思います。


山崎氏

Bluetoothのモジュール化が進んだことで、大手メーカーには作れないような、小さくて面白いモノを、自分のアイデアと腕で作れるようになっています。価値観も多様化しているので、たとえ1000個でもペイするならいいと考えれば、資金的にも小規模から始められるようにはなっていると思います。ただクラウドファンディングで成功している方々の多くは、その前準備をしている。ある程度、形があるものにして、ファンディングでお金を集められるようにしなければならないので、「全くお金がない」といわれると、できないのではないでしょうか。


塩澤氏

皆さん「お金が必要」という方向に向かっていますが、ツールに関しては、始める時点では「お金はいらない」と私はいいたいですね。特にCADは、以前まで安価なツールが流通していませんでしたが、最近は変わってきています。使っているともっといいものが欲しくなりますが、その時はその時です。ツールだけではなく、今までは特に製造業は機材などの初期投資が必要でしたが、それも変化し始めている。ソフトも含めて所有するのではなくて、使用量に応じたお金を払っていただくという考え方が広まってきています。


八木氏

イニシャルコストは小さくなって、選択肢が増えてきたということは間違いなさそうですね。


課題2:技術がない

 では「技術がない」という課題は克服できるのか。

石渡氏

技術がない人は、やめた方がいいのではないでしょうか。技術には、作る技術も、売る技術もある。それらがトータルでないとなかなかうまくいかないと思います。各フェーズをサポートしてくれるところは増えてきているので、提供されている要素と要素を組み合わせて、安く商売を始めるということには、テクニックが必要です。その道を見つけ出す「気合い」と「根性」みたいなものさえあれば、できる環境は整ってきていると思います。


山崎氏

確かに、技術がなければできないという気もしますが、一方で日本のメーカーをみると、技術力があればできるものでもないのかもしれません。今技術力がなくても、後から技術力を付けることはできるし、情報も入手できるし、協力者も見つけられます。Bluetoothやスマホ周辺は、一部の人にしかできないという世界から脱却する方向に流れています。むしろ取り組む気さえあれば、現時点の技術力は問われないかもしれません。


塩澤氏

もしも、メカ系エンジニアである自分にすごいアイデアがあって、そのアイデアには電気が必要だと思ったら、私は、それができる人を探すと思います。世の中にはチームで作っている人たちも多いと思うので、自分になければ誰かに補完してもらうのも選択肢の1つです。そういう意味では、いま一番求められている技術は、情報収集能力のような気がします。情報をうまく収集して、うまく加工できれば、「ナンバー1の技術がなければできない」ということはないと思います。


八木氏

大手メーカーのように技術がたくさんあればヒット商品が作れるというものでもないし、仲間を見つけるとか、ネット上の技術をうまく結び付けることで、アイデアを具現化するには十分かもしれませんね。


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