コワーキングスペース「MONO」を利用する中小企業が小さな個人向け3Dプリンタを開発した。設計情報やソフトウェアのコードも公開するという。
スマイルリンクとディビジョン・エンジニアリング(以下、ディビジョン)は2013年10月24日、2社が共同開発した個人向け小型3Dプリンタ「DS1000」を発表した。ディビジョンはCAD/CAMや自動プロ(自動プログラミング装置)の開発、機械設計・デザインなどを行う企業でDS1000の機構設計とソフトウェア開発を担当した。スマイルリンクは金属加工による雑貨の企画販売や経営サポート事業などを行う企業で、実機の製造や販売に携わる。
DS1000は、外形寸法が270×280×255mm(重量は5kg)、造形サイズが105×105×105mmまでの小規模な3Dプリンタで、PLA(ポリ乳酸)、ABS、ナイロンの3種類の材料に対応する。本体価格は17万5000円。11月10日よリ、オンラインストア(ストアは現時点未定)で予約受付を開始予定だ。予約受付時には購入者対象(希望者)の無料体験会も実施する予定だという。販売数は、スタート時で月産約50〜100台で、市場の反応を見ながら徐々に増やしていく計画とのことだ。
DS1000は、板金構造で拡張性を考慮した機構になっており、XYの駆動やヘッド構造などを徹底的に工夫し装置サイズを小型化した。今後は、少し大きめの造形サイズに対応する機種も計画している。
フィラメント(材料)はスマイルリンクから1kg当たり5000円程度(正式価格は未確定)で販売予定だという。汎用品も使用可能だ。
DS1000の主な仕様は以下の通り。「積層ピッチと造形速度に注目してほしい」とディビジョンの代表取締役 大内功氏は言う。
10mmほどの物体の場合、粗めの積層ピッチなら5分もかからず作ることができるという。従来の個人向け3Dプリンタと比較した場合、「違いを十分体感できるほどの造形スピード」とDS1000の設計者であるディビジョンの平出貴史氏は語った。
スマイルリンクの代表取締役社長の大林万利子氏は、「セットアップが簡単で、ノズル詰まりも起きづらくなっていて、手軽に使える。展示会の際、展示品用の部品が追加でほしくなったとき、そこで参考出展していたDS1000で部品を作った」と自身の体験を語った。
DS1000は平面上でヘッドをXY駆動させる「CoreXY」という構造(以下の図)を採用している。
XYの2軸を2つのモーターの回転方向を切り替えることによって小型ヘッドを駆動する。2つのモーターが互いに同じ方向に回転することでX軸方向に駆動する。2つのモーターが互いに反対方向に回転することでY軸方向に駆動する。モーターが反転すれば、反対方向に駆動する。この方式では、バックラッシの心配がなくなり、高速で安定した造形ができる。その機構故に、モーターは「NEMA14」と小さいサイズのものが採用できたという。大内氏は、「ヘッド移動方向の反転が頻繁に起こる3Dプリンタでは有利な機構」だと説明した。
このような構造は筐体のダウンサイジングやコストダウンに寄与するだけではなく、造形の安定性や精度向上にもつながっているという。
なお、サポート材と造形材料は1ノズルで供給する。安定した樹脂送りのために、エクストルーダ(樹脂射出機)には大トルクモータを採用した。
ユーザーサポートとしては、DS1000のコミュニティーサイトをオープンし、日本語によるマニュアルやFAQ、コミュニティーフォーラム、モデルデータ・プリント設定公開広場、開発者ブログなどを展開する。併せて、ユーザー向けの3Dプリンタワークショップや講習も開催していくという。また3Dプリンタを使うには3次元データが必須ということで、3次元CADの講習も実施していく計画だ。
DS1000はオープンソースを活用して開発したという。ハードウェアについては、個人向け3Dプリンタの業界標準の制御基板「RAMPS1.4 Control Board」と高性能ホットエンド「All metal Hotend」を利用、ソフトウェアについてはRAMPS制御用ファームウェア「Marlin Firmware」、日本語対応した3Dプリンタ操作ソフトウェア「Repetier-Host」、プリント用パス/Gコード生成ソフトウェア「Slic3r」を利用した。
DS1000の設計情報はクリエイティブ・コモンズに基づき公開。ソフトウェアのコードもGitHubを利用して公開する。これらの取り組みによって、利用者自身の手でDS1000を改良できるようにしている。装置自身も機能拡張がしやすい設計となっている。海外の開発コミュニティーにも積極参加し、3Dプリンタ開発における日本の地位向上も目指すとのことだ。また日本におけるオープンソース利用時のモラル向上にも貢献したいという。
3Dプリンタを開発しようと思い立ったきっかけについて平出氏は、「趣味で作っているラジコンカーのカスタムパーツを自分で作りたくて、個人的に3Dプリンタを購入していたが、自分の望むスペックで造形しづらかった。購入した3Dプリンタを改造しようとしたが、一から作った方が早そうだと思った」と語った。
スマイルリンクは、モノづくりのためのコワーキングスペース「MONO」内に出張所のような形でオフィスを構えている。「MONOに入居してくださっている企業からの初めての製品発表。製品も3Dプリンタということで、MONOにふさわしく、意義がある」とMONOの代表を務める後藤建築事務所 代表取締役の後藤英逸氏は述べた。
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