現在も欧米ITベンダーがリードしているCADやCAEなどの3次元(3D)技術。数少ない日の丸3次元技術も、世界を相手に奮闘している。3次元技術の開発や標準化、それを巡るビジネスなど、3次元技術のキーマン2人が語った。
「日本は海外と比べ、3次元データの活用が遅れている」。そう言われて久しいが、最近になってこれまでになかった新たな切り口から、3次元CADやCAEが世間の注目を集めている。その契機となったのが、3Dプリンタの登場だ。アメリカのオバマ政権が重要な産業政策の1つとして「3Dプリンタ技術への投資」を打ち出してからというものの、これまで3次元CADやCAEとはまったく無縁だった人々の間でも、にわかに3次元技術への関心が高まりつつある。
一方、そうした世間一般のトレンドとは関係のないところでも、3次元データ活用の新たな潮流が次々と生まれつつある。例えば3次元データの標準化や、無償の3次元モデリングツールの登場などがそれだ。
3次元データ技術を取り巻く環境は今日、一大変革期を迎えようとしているのかもしれない。一体われわれは、こうした環境の変化をどのようにとらえ、そして今後3次元データとどのように付き合っていけばいいのだろうか? 本稿ではこれらをテーマに、日本における3次元技術のキーマン2人に対談形式で自由に語り合ってもらった。
本対談に登場いただくのは、ラティス・テクノロジー 代表取締役社長 鳥谷浩志氏と、キャドラボ 取締役の栗崎彰氏。ラティス・テクノロジーは、独自に開発した3次元データフォーマット「XVL」を使ったソリューションを幅広く展開する企業だ。一方のキャドラボは、エレキCADやBOMソリューションでおなじみの図研のグループ企業として、エレキ設計とメカ設計を連携させる「エレメカ協調設計」や設計者CAEの教育プログラム「解析工房」の各種ソリューションを展開している。図研とラティス・テクノロジーは資本提携し、XVL技術を組み込んだBOMソリューションやエレメカ協調ツールの開発を進めている。
対談は、エレメカ協調についての話題からスタートした。
鳥谷氏 エレメカ協調は、当社と図研さんのソリューションの連携によって、技術的な基盤は出来上がったと感じています。図研のエレキCADの3次元データと、メカCADの3次元データを統合し、XVLの軽量3次元データで電気特性まで含めて検証するのが「XVL Studio Z」です。完成したエレメカ統合モデルは、さまざまな部門の関係者を絡ませ、部門を超えた協調作業を支援します。こうしたソリューションを実現したことで、技術面でのブレークスルーは既に果たしました。しかし、現在多くの企業で課題になっているのは、こうした技術やソリューションを活用するための組織作りです。エレキ設計者はエレキのことしかやらない。そしてメカ設計者はメカしかやらない。では、エレメカ協調は一体誰がやるのか? つまり、組織の壁によってエレメカ協調の推進が阻まれている企業が多いように見受けられます。逆に、エレメカ協調に成功している企業は、その導入を機に思い切って組織の壁を壊しているところが多いですね。
栗崎氏 なるほど。ちなみに個人的には、エレメカ協調の最大の意義は、エレキとメカ、全てを含めて3次元化できるという点にあると考えています。
鳥谷氏 そうですね。私も実際にエレメカ協調に取り組んでみて、3次元モデルの中で電気の流れが見えるようになったのは非常に面白いなと感じましたね。エレキの設計者には当たり前の電気の流れがメカの設計者には見えない。それを見える化することができるのがエレメカ統合3次元モデルの大きな武器です。
栗崎氏 そこまで完全に3次元モデル化しないと、結局は使えるものにはならないんですよね。部分的に3次元化しただけでは、結局最終的な組み付け確認は実機合わせになってしまったりします。これでは、わざわざ3次元モデル化した意味がありませんよね。ですから、エレキもメカも3次元化して、両方のモデルを一緒に扱うことができるエレメカ協調は、3次元データを真に有効活用する上では必須ともいえる取り組みだと思います。
鳥谷氏 栗崎さんの専門分野のCAEもそうですが、やはり完全な3次元モデル化が理想ですよね。
栗崎氏 そうなんです。図研はその点に早くから気付いて取り組んできたのですが、ここに来てようやく海外のベンダーもエレメカ協調の重要性に気付いて、メカCADベンダーがエレキ関連のソリューションに進出してきています。海外ベンダーはマーケティング戦略に長けていますから、今後脅威になるかもしれません。
鳥谷氏 CADの世界でも、昔は国産のいい製品が幾つもあったのに、海外ベンダーのマーケティング戦略の前に敗れてしまいましたしね。
栗崎氏 私は過去に、アメリカのベンダーとフランスのベンダーで働いていたことがあるのですが、やはり海外ベンダーのマーケティング力はすごいですね。それこそ、製品になってないものまで売ってしまうぐらいですから。でも、技術力や開発力では日本は依然として世界トップクラスですから、後はマーケティング戦略を強化すべきだと思います。個人的には、日本人はいつかは必ず世界屈指のマーケティング力を発揮できるようになると信じていますし、願っています。
鳥谷氏 人材育成の面でも、現在の状況は問題があると思います。CADベンダーが全て海外企業なので、大学で3次元の先端技術を勉強しても働き先が国内にはない。そうなると自ずと教育機関でも3次元技術の教育に力を入れなくなって、ますます日本の3次元技術が落ちるという悪循環に陥ってしまいます。
栗崎氏 やっぱりXVLのように世界に通用する日本発の技術は、大事に育てていかないといけませんね。図研のCR-5000もそうですが、現在欧米がリードしている製造ITの世界で、国産として存在感を示せている製品や技術は極めて少ないですから。でも、いつかは優れた日本主導型のビジネスモデルが登場して、日の丸ITが世界を席巻する日が来るのではないかと信じています。
栗崎氏 最近、シーメンスの3次元データフォーマット「JT」がISOの国際標準に認定されましたが、これについてはどう思われますか?
鳥谷氏 ISO標準化で、JTのデータフォーマットが公開されることの意義は大きいと思います。データフォーマットが公開されていれば、データを長期保管する際のリスクが減りますし、異なるCAD/CAM間のデータ交換も容易かつ安心して行うことができます。ですから、CADデータの保管や交換のためのフォーマットとしては、JTの存在価値は大きいと思います。
栗崎氏 XVLにとって、こうした動きは脅威にはなりませんか?
鳥谷氏 長期保管のためのJTはCADのデータ交換のための利便性を重視した結果、CADと同じ構造をもっています。ですから、長期保管用のJTはCADからCAMへデータを流すようなことはできても、例えば後工程の製造部門やサービス部門で手軽に活用するには、データが重すぎるんです。そうした用途には、軽量なXVLの方が向いています。簡単に言えば、「保管のJT」と「活用のXVL」といったイメージでしょうか。
栗崎氏 使われるシーンが異なるわけですね。
鳥谷氏 CADデータを後工程にそのまま流そうと思っても、データが重いですし、中身を参照するためのCADソフトも高価ですから、結局のところ後工程では3次元データではなく、Excelにただ絵を貼り付けるだけになってしまうんですね。つまり、3次元データの流れが途切れてしまうわけです。それをスムーズに流してやるのが、XVLの役目だと考えています。
栗崎氏 なるほど。
鳥谷氏 結局、3次元データだけを後工程に流しても、現場では使い道がないんです。設計者にとって必要なのは3次元の設計データですが、後工程の人たちが見たいのは、工程に関する情報だったり、電気の流れだったりするわけです。なのでXVLは3次元モデルだけではなく、工程モデルも内部に保持できるようにしました。さらに、それらの情報をさまざまな現場でより有効に活用できるよう、単なるビュワーではなく、それぞれの現場ニーズに特化した多様なツールを展開しています。
栗崎氏 つまり、XVLは単なるデータフォーマットではなくて、モノづくりのさまざまなプロセスを3次元データを介してつなぎ合わせることで、「人の働き方のフォーマット」そのものを作るものなんですね。非常に良く分かりました。ちなみに、多くのCADベンダーは「データの一気通貫」をうたってはいますが、実際には不完全なことも多いです。CADでせっかく3次元モデルを作っても、異なるツールにデータを変換して渡していくうちに、最終的にはただの絵になってしまう。 これでは、わざわざデータを後工程に流す意味がありません。
鳥谷氏 ツールを幾つか買収によって手に入れて、それを後からむりやり連携させようとしているのでしょうが、もともと製品を開発したエンジニアが買収を機に辞めてしまったりして、なかなかうまくいかないと推察しています。
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