あなたの会社が設計・開発に失敗する理由――ツール? 組織? それともデータ共有?設計部門ごとの違いを無理に統一しない(2/6 ページ)

» 2012年09月27日 18時20分 公開
[畑陽一郎,MONOist]

部門間の壁、開発ツールで崩せるのか

 とはいえ、現在では目指す製品のハードウェアとソフトウェアをほぼ同時に設計し、検証しなければならない。開発に要する期間を短縮し、性能を最適化するには、ハードウェア設計が完全に終わった後にソフトウェアの開発を始めるのでは間に合わない。競合企業との競争に負けてしまう。Mentor Graphicsもこの課題には当初から気が付いていたという。

 「1990年代の中盤に、当社は『統合型システム設計』戦略に集中していた。ソフトウェアとハードウェアを同時に設計し、検証できるようにすることが目的だ。ほとんどの顧客がハードウェアとソフトウェアの機能を統合するシステムデザインの際に困難に直面していたからだ。統合問題を解決できれば、設計サイクル時間を短縮できると考えた」(Rhines氏)。このような開発ツールを作り上げることは難しかったが、決して諦めないという意気込みで続けたのだという。

 その結果、出来上がったツールは非常な成功を収めたという。1996年に出荷を開始した「Seamless」だ。「ハードウェア/ソフトウェア協調設計・検証ツールとして、大変な成功を収めた。製品の投入後10年間で1億5000万米ドルもの売り上げがあったほどだ。今日の『Codelink』製品の礎となったものだ。このような手法は、当社におけるハードウェアとソフトウェアの協調設計の核として今日に至っている」(同氏)。

 しかし、Seamlessにも問題があった。組み込みソフトウェア部門とハードウェア部門の両方に向けて製品化したはずのSeamlessを購入するのは、なぜかハードウェア部門だけ(図3)。Seamlessの使われ方も協調設計ではなく、開発したハードウェア設計に対するソフトウェアテストに限られていたのだという。「ハードウェア部門の内部(100%)だけでSeamlessが使われていたということだ」(同氏)。

 理由の1つは価格だ。高価な製品だったが、ハードウェア設計ツールとしては妥当な価格だった。だが、ソフトウェア開発ツールとしては高額過ぎた。例え価格を2桁下げたとしても受け入れられなかっただろうという。

 もう1つの理由が本質的だ。ハードウェア技術者とソフトウェア技術者では協調設計ツールに対する期待も違えば、必要な機能も異なり、提供すべきサポートも違ったのだという。

図3 協調設計・検証ツールが陥ったわな 製品の売り上げを見れば成功している。しかし購入するのはハードウェア部門に限られており、目指す「協調」設計には至っていない。

部門間の壁――アナログ対デジタル

 Seamlessの教訓から学べることは何だろう。ハードウェア部門、ソフトウェア部門という具体的な部門の種類が問題なのではない。

 「製品開発では、複数の技術者が異なるスキルを持ち寄る必要があり、その後、システムレベルの最適化に至る。それぞれの技術部門は選択権を持ち、その分野の技術用語でコミュケーションをとり、仕事のスタイルも違う(図4)。このため、複数の技術部門をまとめる形で仕事を進めると、文化の違いがあらわになり、問題が多発するのだ」(Rhines氏)。

図4 部門ごとに仕事で使う「言語が異なる」 開発しようとしている製品をどのような視点で見るのか、これは使う言語に現れているという。「Velilog」であればデジタル回路の論理シミュレーションを通して製品を見ている。「SPICE」であれば、電子回路のアナログ動作のシミュレーションが視点になる。「GDSII」ならマスクパターンのバイナリデータだ。

 複数の部門を束ねた形の設計で問題が多発する――この問題が噴出するのはソフトウェア対ハードウェアという構図だけではない。アナログ設計対デジタル設計でも同じだ。

 半導体を多用する製品のコストを下げ、性能を高める手法の1つにチップの数を減らすという方針がある。基板上に並ぶ個別のICやLSIを1つのシステムLSIにまとめることでコストが下がるのだ。この手法が難しいのは、論理回路やプロセッサなどのデジタル回路だけでなく、A-D/D-A変換器やアンプなどアナログ回路も1つのLSI上にまとめなければならないことだ。

 初期にはアナログ回路とデジタル回路を個別に最適設計し、最後にまとめるという手法が採られていた。だが、両回路を接続することで実現できる機能が設計時に十分に検証できない他、タイミング検証などが不十分になり、不具合に至ることが多かった。そこで、アナログ設計とデジタル設計を混在したミックスドシグナル設計が求められるようになる。

 Mentor Graphicsもミックスドシグナル設計のための製品「Questa ADMS」を1990年代の中ごろに投入しており、非常な成功を収めたのだという。その結果、今日でもミックスドシグナル設計のために、150以上の半導体企業が同製品を使っており、同社によればミックスドシグナル設計分野で2000年から市場シェアは連続首位だ。

 「大成功のように見えるだろう。しかし、そうとも言い切れない。やはり問題がある」(同氏)。なぜか。ほとんどの採用企業が肝心のミックスドシグナル設計を進めようとしないからだ。

 「顧客企業はまずアナログ設計を進め、アナログ設計担当者がSPICE(Simulation Program with Integrated Circuit Emphasis)のネットリスト(ファイル)を作り、デジタル設計と統合している。アナログ技術者はトランジスタの挙動とSPICE分析に頼り、デジタル設計者はモデルを信じる。しかし、アナログ設計とデジタル設計は、共通の『言語』を持っていなかった」(同氏)。ほとんどの顧客企業はアナログ設計を終えた後、デジタル設計と統合しており、統合後に表面化したシステムレベルの問題を解決しようとする。これではミックスドシグナル設計以前からあまり進歩していないことになる。

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