医療機器での応用目指す人体通信網、Bluetoothを凌ぐ技術となるか無線通信技術 BAN

人体通信網(BAN)はまだ新しい技術だが、医療機器や民生機器の分野でBluetoothの低消費電力版規格「Bluetooth Low Energy」と競合すべく、取り組みを加速させている。

» 2011年02月24日 21時17分 公開
[Rick Merritt,EE Times]

 人体通信網(BAN:ボディエリアネットワーク)はまだ新しい技術だが、医療機器や民生機器の分野でBluetoothの低消費電力版規格「Bluetooth Low Energy」と競合すべく、取り組みを加速させている。

 BANに向けた国際標準規格「IEEE 802.15.6」の支持者らによれば、同規格は2011年中に策定が完了し、2012年に実用化される見通しだという。この規格に基づくBANはBluetoothとほぼ同じ帯域幅と通信可能距離で動作するが、消費電力や干渉はBluetoothよりも大幅に低くなる。

 General Electric(GE)は、病院の患者用モニターにBANを広く採用したいと考えている。同社は、コストがかかる上に煩雑な従来の有線接続をBANに置き換えることを目指し、医療機器向けに2.4GHzの周波数帯を利用できるように、2008年から米連邦通信委員会(FCC:Federal Communications Commission)に働き掛けている。

 GEの研究所に勤めるエンジニアのDavid Davenport氏は、米国のサンフランシスコで2011年2月20日〜24日の日程で開催されている半導体回路技術の国際学会「ISSCC(IEEE International Solid-State Circuits Conference) 2011」で、現在の病院の状況を「ケーブルがそこら中に這い回り、患者はベッドや医療機器につながれ、モーションアーチファクトや誤警報を引き起こしている」と説明した。

 FCCは2011年中に2.4GHz帯の割り当てを正式に決定し、2012年には製品への適用が始まる見通しだ。Davenport氏は、将来はスマートな無線接続が普及する可能性が非常に高いとの期待を示した。

 IEEE 802.15.6の作業部会は現在、第2草案に寄せられた100件の技術的なコメントに対し、解決策を講じている。ブロードコムやテキサス・インスツルメンツ、無線技術の開発を手掛ける英国のToumaz Technologyなどの企業が、IEEE 802.15.6規格に準拠したチップの開発を検討している。

 IEEE 802.15.6規格の草案には物理層(PHY)の方式が3つ盛り込まれており、そのうちの1つはサムスン電子の携帯電話機開発グループが提唱したものだ。この方式は、携帯電話機同士の接続を対象としたもので、NFC(Near Field Communication)に似た電界を利用し、21MHz〜32MHzの帯域で無線接続を確立して、最大3m離れた場所に164Kビット/秒〜1.3Mビット/秒でデータを伝送できる。

 一方、GEやフィリップス、テキサス・インスツルメンツ、Toumaz Technologyが所属する「MedWin Alliance」は、狭帯域通信でサムスン電子とは別の方式の物理層を提唱する。100Kビット/秒〜1Mビット/秒でデータを伝送する医療機器を主な対象として想定した。テキサス・インスツルメンツのシニアメンバーであるAnuj Batra氏によると、この物理層の最大消費電流は3mA以下で、Bluetoothに比べて大幅に低いという。

 この狭帯域接続方式は、医療機器向け無線通信の標準規格「Medical Implant Communications Services(MICS)」で利用する400MHz帯から、GEが提唱する2.4GHz帯まで、複数の周波数帯を利用する。36平方フィートの空間で、最大64個のBANを同時に存在させることが可能だ。伝送速度(シンボルレート)を一定とし、差動位相偏移変調(DPSK:Differential Phase Shift Keying)を採用することで、データ伝送速度を最大限に確保するとともに、簡単な無線回路で実装できるようにした。

 日本の情報通信研究機構(NICT)が提唱するのは、UWB(Ultra Wideband)技術に基づく方式である。同機構のメディカルグループでシニアリサーチャーを務めるHuan-Bang Li氏によれば、この方式では7.25GHz〜10GHzのUWBリンクを使い、2Mビット/秒のデータ伝送速度で3mにわたって無線通信が可能だ。

 このIEEE 802.15.6が策定されれば、MedWin Allianceは認証プロセスに着手するとみられる。この規格は幅広い企業の支持を得ているものの、2010年6月に規格がすでに策定がされたBluetooth Low Energyに対して、少なくとも1年は進行が遅れている。

【翻訳:滝本麻貴、編集:EE Times Japan】

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