NVIDIA社における車載半導体の事業展開は、Tegraを製品化する前の2000年代初頭から始まっている。2004年には、フランスPSA Peugeot Citroen(以下、PSA)社と、車載情報機器向けのGPUに関する共同開発プログラムを立ち上げ、2006年から「EMP」としてプロセッサ製品の量産を開始している。EMPは、パソコン向けのGPUである「GeForce4 MX」相当の処理性能を持つ。現在までに、PSA社を含めて欧州の自動車メーカー7社の21モデルに採用されている。量産開始からの累計出荷数は100万個に達した。
さらに、2010年1月には、ドイツAudi社が、同社の2010年以降のすべての新車に、EMPを採用したカーナビ/カーエンターテインメントシステムを搭載することを明らかにしている。そして、2012年からは、新型Tegraを採用したシステムを搭載する方針である。
車載情報機器向けのプロセッサ市場では、これまでルネサス エレクトロニクスの「SH-Naviシリーズ」が高いシェアを占めてきた。また、最近になって、米Intel社が組み込み機器向けのプロセッサ「Atom」で車載情報機器向けの展開を強化するなど、競争も激化している。浜田氏は、このような市場環境で新型Tegraが複数のメーカーに採用された理由について以下のように述べている。
「まず、新型Tegraは、処理性能の高さに対して消費電力が少ないことが評価されている。他社の最先端製品の消費電力は5Wに達するが、新型Tegraは3W以下だ。そして、こうした車載向け高性能プロセッサの用途が、カーナビやカーエンターテインメントシステムから、デジタルクラスタ、予防安全システムなどに広がっていることも、高い評価が得られた背景にあるだろう。例えば、デジタルクラスタでは、当社がGeForceやQuadroで培ってきた3Dグラフィックスを応用したユーザーインターフェース(UI)の開発ツール『UI Composer』が利用できる。同ツールは3Dグラフィックスのシェーダライブラリが充実しているので、高品質のUIを構築するのに役立つ。現在、デジタルクラスタ向けでは、米Adobe Systems社の『Flash』を用いたUIを用いることが提案されている。しかし、Flashベースの2Dグラフィックスに比べて、新型Tegraの3Dグラフィックスの処理性能と、UI開発を容易にするUI Composerによって実現できる3Dグラフィックスのほうが、より高品質なデジタルクラスタを実現できるだろう」(写真1)。
また、予防安全システム向けでは、Teslaの処理性能を支えるGPGPU(General Purpose GPU)の技術が注目されている。例えば、車載カメラで撮影した画像を予防安全システムで用いる上では、高度なアルゴリズムによって画像を処理することで、自動車、2輪車、自転車、人間、標識などを見分ける必要がある。浜田氏は「GPGPUを用いた計算処理は、こういった高度な処理を行うのに最適な技術だ。実際に、ドイツDaimler社やドイツBMW社、そして日本の自動車メーカーの研究所でも、予防安全システムのアルゴリズムを開発するためのシミュレーションを行うのにTeslaが用いられている」と説明する。なお、新型Tegraでも、車内カメラの画像からドライバーの視線を検出してよそ見運転や居眠り運転を防ぐシステムや、車両の前後左右に設置したカメラの画像から車両を上方から見ている画面を合成する機能であれば容易に実現できるという。
NVIDIA社のGPUアーキテクチャは、まずワークステーション向けのQuadroに投入した後、パソコン向けのGeForceで展開し、最後に、車載分野を含めた組み込み機器向けに製品化するという戦略がとられている。
例えば、2010年に発表された新型Tegraには、2004年に発表された「Quadro FX 4000」、GeForce 6800と同じGPUコアが搭載されている。つまり、最新のGPUコアがワークステーション向けやパソコン向けに製品化されてから、約5〜6年後にそのGPUコアを搭載した組み込み機器向けの製品が登場しているわけだ。そういう意味では、同社が2010年春から市場での製品展開を始めた最新のGPUアーキテクチャ「Fermi」が、2015年ごろにも組み込み機器向けに展開される可能性は高い。Fermiは、これまでのGPUと比べてGPGPUとしての処理性能を高めたアーキテクチャだと言われている。浜田氏も、「第3世代のTegraでは、Teslaを用いたシミュレーションによる開発成果を流用できるように、GPGPUの機能を搭載することも検討している」と述べている。
(朴 尚洙)
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