ドイツAVL LIST社の社長兼CEO(最高責任者)を務めるHelmut List氏(写真1)は2010年5月、神奈川県横浜市内で会見を行い、同社が手掛けるパワートレイン関連事業の方針について説明した。
AVL LIST社は、エンジンやトランスミッションなどから構成されるパワートレインシステムの受託開発と、パワートレインの開発に必要な解析ツールや計測機器などを手掛ける、パワートレイン関連のエンジニアリング企業である。
List氏は、「現在、乗用車のパワートレイン開発のトレンドは、ダウンサイジングとハイブリッド化が主流となっている。ダウンサイジングとは、気筒数を減らしたりしてエンジンを小型化することであり、欧州の自動車メーカーが積極的に取り組んでいる。また、ハイブリッド化とは、電気自動車やハイブリッド車のように、パワートレインにモーターを組み込んでいくことを指し、日本市場では必須の技術になりつつある」と語る。
同氏は、こうしたパワートレインの変革を促す要因として、各国/地域における自動車のCO2排出規制が厳しくなっていることを挙げた。特に、欧州では、各自動車メーカーは、2015年までに欧州域内で販売する新車のCO2排出量を平均で130g/km以下に抑える必要がある。しかし、「小型車から大型車まで、さまざまな車両セグメントで製品を展開している場合、各車種、各車両セグメントとも同じ手法でパワートレインを改良することでは、規制に対応することはできない。各車種、各車両セグメントで、それぞれ固有の対策が必要になる」(List氏)という。
同社は、このような現状に対して、現行のハードウエアありきのパワートレイン開発手法から、エンジン/モーター/トランスミッション/2次電池などのパワートレインの要素部品について、ハードウエアからシミュレーションモデルに置き換えてシステム構成の検討を行う開発手法に移行するための提案活動を強化している。さらに、システム構成の検討などにかかわる開発プロセスの上流から、実機を用いたテストなどの開発プロセスの下流までを一貫してサポートする開発プラットフォーム「InMotion」の提案も行っている。List氏は、「日本の自動車の開発プロセスは、自動車メーカーとティア1サプライヤ、ティア1サプライヤとティ2サプライヤなどの間で縦割り構造になっている。これだと、開発の効率化や開発期間の短縮などを実現するのは難しい。当社の開発プラットフォームを導入することにより、こうした問題を解決できるようになるだろう」と述べた。
また、日本法人エイヴィエル ジャパンの社長を務める岡田尚己氏は、「国内市場では、レースカーのエンジンの受託開発業務などが中心だった。しかし、最近になって、乗用車向けのエンジン開発も受注できるようになってきた。例えば、排気量が2.0リットル程度のエンジンについて、排気量を約2/3まで減らしながらも出力を減らさないダウンサイジングの開発案件を、2009年末に完了したところだ。また、電気自動車関連では、ドイツAudi社の『Audi A1 e-tron』の開発に協力するなど、欧州市場ではさまざまな実績がある。そこで得たノウハウを、国内に展開することも可能だ」と述べている。
(朴 尚洙)
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