長穴の加工
SUS304厚さ5mm程度の板に長穴を開けたいのですが、長穴についての初歩的な事が分からないので寸法の書き方や加工する機械に関する事が図解で描かれているサイトがあれば教えて下さい。
1.寸法記入・・・M6のボルトを通したいので6.5×30mm位の長穴を開けたいのですが、30mmの寸法を図面に表すには長穴の両端の半円の中心距離で表すのか、半円の外側の距離で表すのか、どちらが正しいのでしょうか?
2.加工・・・油圧のプレスの様な機械で一発で開けてしまう機械(名前は何と言うのでしょうか)を見た事がありますが、これで開ける場合、いくつかの穴のサイズの部品があると思うのですが、この部品に合う長穴を開けたいので、標準的な部品のサイズが知りたいです。
この質問では、2つの質問が隠れている……。まずその1つ目。長穴の寸法を記入する場合、端基準にする場合と中心線基準とする場合とがあるが、実のところ、どうするのがいいのだろうか。
この問いは、長穴の使用目的が不明確で何とも答えようがないのですが……例えば、ねじ固定時のバカ穴が目的ならば、『6.5×30』のように全長の30を記載します。また、カムやリンク機構での直線部を使用する場合は、半円の中心間距離を記載します。公差の記載も同様の目的別となります。
基本は、社内規格やJISに準拠することが肝要です。ある国内の外資系企業では、米国の図面規格そのものを社内規格にしています。JISである必要はありません。では、何が重要かというと、それは、「ルールの遵守」です。我流は、最も避けたい選択肢です。
従って、回答者の中に、「製造の立場では」という回答がありますが、これを続けていくと、「設計の立場では」「部品検査の立場では」「組立ての立場では」、「保全の立場では」……と続きます。技術者として、最も避けたいコメントであり、そのために「ルール」が存在します。
(回答:國井技術士設計事務所 國井 良昌氏)
油圧のプレスのような機械で一発で穴を空ける機械の名前を教えてくれ――加工法にうとそうなイメージの投稿者。案の定、加工事情が分かる人から見れば、「なんて無茶をいうんだ」という質問になってしまう……。
これも『使用目的の明確化』を設定してください。
プレス加工に関して、一般構造用の鋼板で板厚5mmでもかなりの厳しさです。ましてや、SUS304の板厚5mmは不可能です。レーザー加工でも避けたい材料選択です。
ここで『できないことはない!』などというレアケースのアドバイスは、ご法度です。質問者が混乱するだけです。あくまでも、アドバイスとは汎用であることが第一条件。
汎用的なアドバイスとしてはまず、SUS304の板厚5mmの長穴なら、フライス加工となります。従って、この質問者へは『フライス加工なので自由なサイズで長穴加工が可能だ』と回答します。
一方、SUS304で板厚2mm以下ならば、レーザー加工や、タレットパンチ、プレス加工が可能です。ここで質問に関するプレス加工における標準サイズが存在します。これを『標準パンチ』と呼びます。
希望する「6.5×30」の近傍ですと、幅6、6.5、7が存在します。長穴は、それぞれの幅に対して、12、10が存在します。なるべくなら12(第一選択という)を選択してください。
(回答:國井技術士設計事務所 國井 良昌氏)
並目の場合はピッチ入れない?
寸法公差について
すごく基本的な質問なんですが、図面の寸法公差の入れ方(解釈)で、10±0.1と書いた場合と、9.90〜+0.2と書いた場合では、どちらも9.9〜10.1になると思いますが、ある設計者が「±で書いた場合は呼び寸法の大小どちらにばらついてもOK、0〜+0.2と書くのはマイナス側へずれたら致命的な時なので、0〜+0.2と書いていれば+側を狙って加工するような注意が必要」と言っていました。
加工する方から考えれば、通常、機械の精度にも±の公差があると思いますので、公差範囲の真中を狙って加工するのではないかと思います。この解釈は合っていますか?
もしくは公差の入れ方について何か明確な決まりはあるでしょうか?
公差の書き方と意味
下記公差の標記の意味は同じことを表しているのでしょうか?
1. 5 (-0, + 0.6)
2. 5.3(±0.3)
1と2は、範囲は 5〜5.6ですが 意味も同じでしょうか? >>続き
振り分けて書いたほうがいいのか、片側公差にしたほうがいいのか……さて、上記の回答を読んできた読者の皆さまは、まずこの問いへの回答の第一声も、きっと予想が付くはず!?
『使用目的の明確化』の情報がないまま、回答者は自分の世界で思いのままに回答しています。もったいない話です。上記への回答とまったく同じです。『社内規格→JIS規格』という順で準拠することが肝要です。もっとも避けてほしいのが、我流です。
ただ、JIS準拠と事務的にいわれても、明確な解が得られない場合も多くあります。そのようなとき、はじめて知見者の回答から取捨選択することになります。知見者とは、できれば、社内の先輩を意味しています。
各種の回答を見ますと、片側公差と両側公差の“深い意味合い”を設計側から、または加工側からアドバイスしていますが、確かにその通りと思います。また、今回のアドバイスでは見受けられませんでしたが、Cp値やCpk値の観点や、バラツキに関する正規分布や対数正規分布から議論する場合もあるでしょう。
以降では汎用的でかつ、総括的な説明していきます。まず、前記の片側公差と両側公差の“深い意味合い”の話ですが、いまから30年ほど前は確かにそのようにいわれていましたが、NC、CAD/CAM、図面レスの単語が出現するとほぼ意味のない表現となっています。
また仮に、国内でそのような理解が通用しても、海外では通じません。特に、NCの出現が大きな影響を及ぼしています。つまり、片側公差で図面を出しても、NCのプログラム上は両側公差に変換しています。樹脂成形の金型設計では、樹脂の収縮率や温度膨張なども考慮して、再設計しています。もちろん、両側公差狙いです。
「20±0.2」で、「20」を称呼寸法(しょうこすんぽう)、「±0.2」を公差と呼びます。現在、片側公差と両側公差の相違は、称呼寸法(しょうこすんぽう)を、複雑でない分かりやすい数字に丸めただけの違いです。
実際、「分散加法の定理」による累積公差計算法でも、片側公差は、両側公差に変換しなくてはなりません。
設計側が片側公差の意図をどんなに主張したところで、設計プロセスの基本中の基本である分散加法による累積公差計算では、両側公差に変換しなくてはならないので、片側公差の部品一品だけを商売にする場合ならともかく、大した意味は持たないといえます。
これが、最近の主流となっています。まずは、この大枠から理解してください。片側公差の深い意味合いやマニアックな部分の理解はその後でも十分です。
(回答:國井技術士設計事務所 國井 良昌氏)
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