最新センサーデバイスが変える予防安全システム(5/6 ページ)

» 2008年09月01日 00時00分 公開
[本誌編集部 取材班,Automotive Electronics]

■水晶ベースのMEMS

 エプソントヨコムは、タイミングデバイスである音叉型水晶振動子や、キーレスエントリでも用いられるSAW(弾性表面波)共振子など、世界シェアトップクラスの水晶デバイスメーカーである。


エプソントヨコムの小林祥宏氏 エプソントヨコムの小林祥宏氏 

 同社の主力製品は、時計用の帯域をカバーする周波数32.768kHzの音叉型水晶振動子であり、その用途はパソコン、携帯電話機、デジタル家電などの民生機器が中心となっている。一方、車載用途で多く用いられる数MHz〜数百MHzをカバーするAT(厚みすべり)振動子では日本電波工業など競合他社のシェアが高く、全社に占める車載用途の売り上げは小さかった。この車載用途で、同社のコア技術を展開できる製品として注目されているのが、水晶を素材としたMEMS「QMEMS」である。

 同社のコア技術とは、シリコンから半導体チップを製造するプロセスとして知られる、フォトリソグラフィー(フォトリソ)技術による水晶デバイス製造技術である。同社開発技術統括部設計部技術副主幹の小林祥宏氏は「音叉型振動子は、水晶を音叉の形を作りこむ必要があるが、小型化する場合には機械加工では良好な発振特性を得るのが難しくなる。そこで、当社は水晶素材のフォトリソ加工技術に取り組むことでこの問題を克服した。生産実績もすでに30年以上になる」と語る。

図9 QMEMSジャイロの角度検知原理(提供:エプソントヨコム) 図9 QMEMSジャイロの角度検知原理(提供:エプソントヨコム) (左上)通電時には駆動アームが横方向に振動(右上)本体に回転の応力が印加される(左下)駆動アームにコリオリの力が働き垂直方向の振動が発生(右下)駆動アームの垂直振動により固定部が屈曲して、検出アームが振動。これを電気信号に変換・出力する。

 この水晶素材へのフォトリソ技術を応用して開発したのが、2004年から量産を開始し、カムコーダーやデジタルカメラの手振れ補正用途を中心に売り上げを拡大しているQMEMSジャイロ「XV-3500」である(図9)。「シリコンを機械的に変形させることでセンシングを行うシリコンMEMSに対して、QMEMSは水晶の正確で安定した共振による振動を基にセンシングするので安定性、精度面で有利になる。また、温度応答性や形状が安定している水晶の特性は車載用途にも最適だと考え、2007年に車載グレードを製品化した」(小林氏)。これが、「XV-8000シリーズ」で、パイオニアのPND「エアーナビ AVIC-T10」をはじめカーナビゲーションへの採用が拡大している。パッケージサイズは、5.0mm×3.2mm×1.3mmと既存のカーナビ用ジャイロよりも大幅に小型化することに成功した。小林氏は「カーナビ用では、−40〜85℃という動作温度範囲以外にも、手振れ補正用の7〜8倍を要求する、回転していない時の電圧出力の安定性(オフセット安定性)への対応が重要だった。従来は、カーナビの設計自由度を下げていたジャイロを、表面実装部品としてデバイス化できたことを評価していただいている」と手応えを感じている。

 QMEMSでは、現在ESC用のヨーレートセンサーを開発しており、さらに民生機器向けで開発中の加速度センサーやダムの水位検知用で実績のある圧力センサーの車載展開も検討している。

■セラミックで小さく薄く安く

村田製作所の宮崎二郎氏 村田製作所の宮崎二郎氏 

 積層セラミックコンデンサなど電子部品大手の村田製作所は、セラミック素材の特性を応用した各種センサーデバイスを車載用途に展開している。

 同社センサ事業部事業部長の宮崎二郎氏は「カーエレクトロニクス市場が拡大する中で、センサーでは新規参入と言っていい当社としては、他社の実績が高いパワートレインなどの走行系よりも、伸び率の高い周辺分野での展開に注力する。基本戦略はセラミックをベースに『小さく、薄く、安く』で行く」と強調する。

 現在、セラミックベースの車載用センサーとしては、温度センサー、超音波センサー、ノッキングセンサー、AFS(Adaptive Front-lighting System)用のヘッドランプ角度制御用のロータリーポジションセンサーなどがあるが、最近ではショックセンサーの需要が拡大している。

図10 TPMSにおけるショックセンサーの動作(提供:村田製作所) 図10 TPMSにおけるショックセンサーの動作(提供:村田製作所) 重力加速度の変化からタイヤが回転していることを認識しTPMSを始動させる。

 同社のショックセンサーは、両端を電極と接続したセラミックス素子のビームを中央に配置したデバイスで、加速度が印加された時にセラミックス素子がたわんで発生する応力を圧電効果で電気信号に変換することでセンシングを行う。ハードディスクのショック検知ために100%採用されている製品で、車載用途ではタイヤ空気圧監視システム(TPMS)の電池長寿命化に必要な回転状態認識センサーや、エアバッグのバックアップセンサーとして利用されている(図10)。「簡素な構造だが高度なセラミックス材料技術が必要なため当社にしか作れない。しかし、1個10円、20円という価格帯で提供できるので、『小さく、薄く、安く』の代表ともいえる」(宮崎氏)と言う。

 セラミック応用のセンサーとしては、サーミスタとは逆に温度が上がると抵抗値が上がる「ポジスタ」が注目されている。宮崎氏は「機械的なヒューズに代わり、過電流と加熱検知が可能で、携帯電話機のリチウムイオン電池にはほぼ採用されている。電気自動車などへのリチウムイオン電池の採用が進めば、市場が拡大するのは確実。当社は積層型で、小型、低価格製品を実現しているので優位に展開できるだろう」と期待を隠さない。

 また、シリコンMEMSの開発にも注力しており、2006年に静電容量型のMEMSジャイロ「MEV-50A-R」を市場投入した。現在のシェアは15〜20%程度にまで拡大している。さらに、フィンランドVTI Technologies社の3軸加速度センサーの取り扱いも開始して、製品ラインアップを拡充している。

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