「もっとプロセスを!」の声に答えたWindows CE 6:Windows CEのカリスマが語る開発裏話(2/2 ページ)
世界で最も有名なWindows CE開発者 米国MicrosoftのMike Hall氏。同氏に最新版「Windows CE 6」について伺った
Windows CE 6で多機能デバイス実現
──では、10年目のバージョンとなるWindows CE 6の強化ポイントについて教えてください。
Hall Windows CE 6の最も大きな進化は、同時実行可能なプロセス数が従来の32から3万2000に向上し、各プロセスに割り当てられる仮想メモリ空間も32Mbytesから最大2Gbytesに拡大していることです。
この機能強化を実現するために、カーネルの設計から大幅に変更しました。例えば、Windows CE 5.0以前はユーザーメモリ空間にあった主要なモジュールの多くをカーネルメモリ空間へと移し、API呼び出しのオーバーヘッドを解消しています。
ただし、Windows CE 6の設計に当たって課題となったのは「変化」だけではありません。Windows CE 1.0からわれわれが一貫して重視してきたことがあります。できる限りOSのフットプリントを小さくすること、リアルタイム性を追求すること、コンポーネント化すること、そして複数のプロセッサに対応したアーキテクチャとすること。これまでWindows CEは、こういった考えの下で設計されてきました。これらは、Windows CE 6においても受け継がれています。ですから、Windows CE 6ではこれだけの機能強化を図りながらも、高いリアルタイム性能を保っているのです。
──大幅に処理能力や扱えるメモリを増やすことは、早い段階から計画にあったのでしょうか?
Hall はい、開発当初からの課題でした。新バージョンの開発に当たっては、世界中のデバイスメーカー、開発者の方々に「次世代の組み込みデバイスにとって重要な機能とは何か?」を聞き、フィードバックをいただきました。すると、どこの国・地域でも、「プロセスの数を増やしてほしい」「プロセス当たりのメモリも増やしてほしい」という声が上がりました。
──この機能強化は、具体的にどのようなデバイスやアプリケーションに有効なのでしょうか?
Hall 同時に処理できるプロセス数が飛躍的に増えていますから、1つのプラットフォーム上で、従来のメインの機能(アプリケーション)にプラスして、複数のほかの機能も取り込むことが容易になります。
一例を挙げれば、標準的なSTB(セットトップボックス)にはケーブル放送や衛星放送を受信してテレビを見せるという機能があります。その同じSTBで、より多くのアプリケーションをカバーするということです。例えば、ゲームやWebブラウジング、電子メール、インスタントメッセージング機能の追加などが考えられます。ほかにも、写真を見たり、音楽を聴いたり、ビデオを見たりすることも、1つのSTBでこれまでより容易に実現できるでしょう。
──Windows CE 6の開発コードネーム「Yamazaki」の由来を教えてください。
Hall Windows CEは、バージョン3まで「Alder(榛)」や「Birch(樺)」など木の名前をコードネームに使っていました。しかし、バージョン4(Windows CE .NET 4.0)から、当時のわれわれのチームのボスの趣向でウイスキーの名前を使うことになりました。Windows CE .NET 4.0のコードネームは「Talisker」で5.0は「Macallan」、2006年4月にリリースされた5.0のNetworked Media Device Feature Packは「Tomatin」です。6もその流れをくんだコードネームにしようということで、シングルモルトウイスキーの「Yamazaki」となったわけです。
図1 Windows CEの開発コードネーム。1.0〜3.0まではOS開発チームとツール開発チームが分かれており、それぞれ木と木を切る道具(ツール)の名前をコードネームとしていた。4.0からチームが統合され、コードネームもシングルモルトウィスキーの名称となった
──「Yamazaki」は日本のウイスキーの名前ですね。Windows CE 6の今後の展開に当たって、日本市場に対する期待は大きいのでしょうか?
Hall はい、もちろんそれはあります。日本で非常に有力な組み込みデバイスの分野として、カーナビゲーションシステムが挙げられます。日本にはカーナビのメーカーが11社あると聞いています。
現在のカーナビの機能は非常に高度化・複雑化しています。地図情報やルート検索・表示機能はもちろん、目的地や現在地付近の施設情報やその検索機能なども、カーナビの基本機能となっています。また、地図や施設の情報は、オンラインまたはハンドヘルド型のデータユニットを通じて常に更新していくことも必要です。
さらに、こうしたカーナビとしてのメインの機能(アプリケーション)のほかに、メールやゲームなどの機能を複数追加したいというニーズもあるでしょう。そこで、カーナビメーカーにとっては、Windows CE 6の同時稼働可能プロセス数や仮想メモリスペースの容量が大きなアドバンテージとなってくるはずです。
そのほか、PDAや携帯電話などさまざまなデバイスで同様のことが考えられると思います。多機能デバイスのOSとして、Windows CE 6の利用価値は高いといえるでしょう。デバイスメーカーや開発者によって、これまで想像もつかなかったような新たな多機能デバイスが出てくるかもしれません。
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