個別受注製品におけるプロダクト損益とサービスBOM/メンテナンスBOM:モノづくり革新のためのPLMと原価企画(9)(2/2 ページ)

» 2026年10月29日 07時00分 公開
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サービスBOMとメンテナンスBOM

 個別受注製品では、保守/サービスで利益を得ることの重要性が増している。そのコストや収益を管理する上でも、保守/サービスの内容と、対象となる機器/設備の構成を把握することが重要だ。そのキーとなるのが、サービスBOMとメンテナンスBOMである。この2つのBOMがあれば、提案型の保守/サービスを促進したり、最適な改造提案やトラブル時の迅速な対応を行ったりできる。

 PLMのシステム構想段階で、この2つのBOMを対象に含めていても、実際に導入している企業は少ない。いまだにPLMの導入は、E-BOMとM-BOMにとどまっている。これは、PLMをCAD管理や設計/製造連携のツールとして捉えているからだ。見積精度の向上、受注可否判断(意思決定)の精度向上、プロダクト単位の収益管理の実現など、経営管理を高度化するツールとして捉えるなら、ぜひこの2つのBOMの導入も実現させてほしい。

 そこで注意してもらいたいのが、サービスBOMとメンテナンスBOMは、混同されやすく、誤解も多いBOMだという点である。概念や活用シーンが似ているため、本来は別々のBOMであるにもかかわらず、同一視されているのを目にする。保守BOM、保全BOM、号機BOM、シリアルBOMなど、似た用語が多いのも混乱の原因の一つだろう。

 サービスBOMは、「性能を維持するための保守/メンテナンスにおける“設計情報”」である。一方、メンテナンスBOMは、「機器/設備のシリアル番号ごとの最新情報を管理する“実態情報”」を指す(図3)。

 保守/メンテナンスにおける交換対象部品、交換単位となる部品のまとまり、交換頻度、交換要領書などの設計情報は、サービスBOMで管理する。あくまでも設計情報である。

 これに対し、シリアル番号ごとのメンテナンス記録と、それを反映した最新構成を管理するのがメンテナンスBOMだ。対象は保守/サービスだけでなく、クレーム対応/改造対応/延命対応などにも及ぶ。

 両者は、対象範囲、管理データ、活用シーン、登録タイミングなど、全ての点で異なるBOMである。両者を混同した説明をよく目にするので、注意してもらいたい。

サービスBOMとメンテナンスBOM 図3 サービスBOMとメンテナンスBOM[クリックで拡大]

PLMパッケージの観点から見た、サービスBOMとメンテナンスBOM

 続いて、PLMパッケージの観点から、サービスBOMとメンテナンスBOMについて触れる。結論からいうと、サービスBOMへの対応は進んでいても、メンテナンスBOMへの対応が遅れているパッケージが多いという印象である。ただし、対応状況は個々のパッケージによって大きく異なり、機能も日進月歩で進化しているため、あくまでも執筆時点での見方だ。

 現在の主要なPLMパッケージは、主に企画量産製品をイメージしたデータモデルになっていると感じる。もっと分かりやすくいえば、“自動車”と“航空機”を中心に考えているように見えるのだ。もちろん、パッケージベンダーがそのように主張しているわけではなく、あくまでも筆者の見方である。しかし、データモデルやメッセージの打ち出し方を客観的に分析すると、そのような結論に至る。

 企画量産製品にはサービスBOMが必要であっても、メンテナンスBOMは不要である。そのため、現在の多くのPLMパッケージには、サービスBOMはあっても、メンテナンスBOMが存在しない。個別受注製品の目的別BOMへの対応を検討しているなら、サービスBOMとメンテナンスBOMは、必ずセットで検討するはずだ。

 少し補足すると、自動車や航空機などの企画開発では、3D CADによるチーム設計が中心となる。CAD管理、デジタルシミュレーション、デジタルデザインレビュー、3Dによる量産ラインの組み立て性検証など、PLMパッケージの多くの機能は、こうした企画開発プロセスをイメージしている。

 一方、個別受注製品(大型設備や装置など)では、仕様が曖昧な段階での受注に始まり、五月雨式の設計/出図/生産を経て、顧客立ち会い、分割出荷、現地据え付け、試運転/検収、保守/メンテナンスへと進む。そのため、必要なデータやBOM構成も全く異なるのだ。現在の主要なPLMパッケージが、このようなプロセスを想定したデータモデルになっているとは思えない。

 また、現在の主要なPLMパッケージが企画量産製品向けに扱うのは、トランザクションを管理するERPとの連携に用いる“マスター情報”のみである。一方、個別受注製品のPLMでは、そのマスター情報だけでなく、メンテナンスBOMのような“トランザクション情報”も対象となるのだ。マスターとトランザクションをどこまで扱うかという管理範囲の違いにも、パッケージの思想が大きく影響していると思う。

 企画量産製品のコスト管理としては原価企画が挙げられ、その管理にはトランザクション型のデータモデルが必要となる。多くのPLMパッケージはトランザクションデータを扱えないため、原価企画に対応できないのもうなずける。

 企画量産製品と個別受注製品では、同じPLMでも、管理すべきデータの範囲や思想が全く異なる。これらの違いをしっかり理解することが、パッケージ選定では重要だ。目的別BOMで部門をつなぎ、より良い製品づくりの基盤を構築するとともに、プロダクト損益によって経営管理も高度化できるようにしてもらいたい。

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筆者プロフィール

株式会社プリベクト
北山一真(きたやまかずま)

IT系コンサルティング会社、製造業系コンサルティング会社ディレクターを経て、プリベクトを設立。競争力ある製品/もうかる製品の実現のため、設計と原価の融合をコンセプトにした企業変革に取り組む。業務改革の企画/実行からIT導入まで、一気通貫で企業変革の実現を支援。プロフィタブルデザイン、設計高度化、設計ナレッジマネジメント、製品開発マネジメント、原価企画、原価見積、開発購買、ライフサイクルコスティング、意思決定管理会計、BOM、PDM、PLMなどのコンサルティングを手掛ける。

著書に「儲かるモノづくりのためのPLMと原価企画<実践編>」(東洋経済新報社)、「儲かるモノづくりのためのPLMと原価企画」(東洋経済新報社)、「赤字製品をやめたら、もっと赤字が増えた!-儲かる製品を実現するコストマネジメント-」(日刊工業新聞社)、「プロフィタブル・デザインiPhoneがもうかる本当の理由」(日経BP社)ほか多数執筆。

◇企業情報:株式会社プリベクト


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