CAEは勘を鍛える道具だ――5つの破損事例を横断する「診断マップ」:CAEで逆引きするトラブル診断の思考法(6)(2/3 ページ)

» 2026年10月14日 06時00分 公開

CAEアプローチ:物差しを増やす

 では、CAEは何を補ったのか。本連載で登場した解析手法を整理すると、線形静解析による応力評価という1本の物差しを研ぎ、そこに3本の物差しを足していたことになる(図2)。なお、この4本という分け方は、本連載の事例に即した筆者の整理であり、CAEの解析種別を幅広く網羅したものではないことにご留意いただきたい。

1本目の物差し

 1本目は、「応力集中」の物差し(第1回、第4回、第5回)だ。形状の不連続、溶接止端、リブの付け根や終端部に着目する。これは静解析の物差しそのものを研ぐもので、荷重が集まる「場所」を見落とさないための視点だ。見るべき出力は応力コンターと応力集中係数である。形状係数表で当たりを付け、CAEで検証する手順は第1回で述べた。

2本目の物差し

 2本目は、「時間軸」の物差し(第2回、第4回)だ。1回では壊れない部材も、荷重が何万回と繰り返し加わると壊れる。S-N曲線が設計に時間軸を与え、マイナー則が損傷の蓄積を数え、疲労寿命コンターが、設定した荷重履歴の下で「何回まで持つか」の予測を示す。第4回で触れたき裂進展解析は、この物差しをさらに延長し、き裂が「あと何回でどこまで進むか」を追う。

3本目の物差し

 3本目は、「安定性」の物差し(第3回)だ。応力が許容値以下でも、細長い部材は座屈する。着目するのは、細長比、座屈固有値解析が示す固有値(基準荷重に対する座屈荷重の倍率であり、安全率の目安)、そして1次モードの変形形状だ。「赤くないから安全」とはいえない理由がここにある。

4本目の物差し

 4本目は、「エネルギーと速度」の物差し(第1回、第5回)だ。衝撃は静荷重の何倍にもなり、ミリ秒のパルスとして部材を走る。第1回の動荷重係数はその概算であり、第5回の陽解法による落下衝撃解析は、時間の次元を含めて接触や変形を追う方法である。ひずみ速度依存の材料モデルと、材料に応じた破壊基準(第5回では最大主ひずみ)を組み合わせることで、「静的には持つが衝撃では割れる」挙動を評価できる。

 大切なのは、2〜4本目の物差しはいずれも線形静解析の「代わり」ではなく、「上に足す」ものだということだ。1本目で場所を押さえた上で、想定する破損モードに応じて物差しを選び、必要なら組み合わせる。これが、勘の第2の型――「静的な物差し1本で測る」――への処方箋になる。

線形静解析の物差しを研ぎ、3本の物差しを足す――連載で登場したCAEの物差し 図2 線形静解析の物差しを研ぎ、3本の物差しを足す――連載で登場したCAEの物差し(※筆者作成)[クリックで拡大]

診断フレームワーク:勘とCAEの役割分担

 5つの事例を通じて、筆者は毎回ほぼ同じ手順を踏んできた。それを5つのステップとして取り出したのが図3である。

ステップ1:現象を記録する

 破損の起点はどこか。破面にビーチマークのような疲労の痕跡はあるか。使用期間や使用回数、設計変更の履歴も確認する。第4回の「まず破面を見る」、第5回の「変更点の一覧化を急ぐ」はこのステップだ。トリガー探しより先に、荷重履歴の復元を急ぐ。

ステップ2:勘で容疑者を挙げる

 継ぎ目、板厚、強度、転倒、材料。勘が挙げる仮説は捨てない。勘は場所の当たりを付けるのが早く、往々にして正しい。

ステップ3:荷重の「種類」を問う

 1回か、繰り返しか。静かにかかるか、衝撃か。引張や曲げか、圧縮か。これらの答えによって、2〜4本目のどの物差しを足すかが決まる。ここを飛ばすと、線形静解析の安全率だけで「問題なし」と判断してしまう。

ステップ4:変更点、破損起点、荷重履歴を突き合わせる

 破損品の起点をマッピングし、設計変更点と重ね、荷重履歴と照らす。3つが整合する仮説を優先して検証する。変更点がない場合も、製造ばらつき、経年劣化、使用環境を疑い、同じ手順で検証する。

ステップ5:CAEと実測を突き合わせて検証する

 安全率、寿命、固有値、ひずみ。ステップ3で選んだ物差しで仮説に数値を与え、解析で得られた破損位置や変形が実物の観察結果と合うかを確かめる。条件をそろえた新旧比較解析は、変更の影響を他の要因から切り離しやすいCAEならではの検証法である。観察結果と合わなければ、ステップ1の観察やステップ3の荷重条件に戻る。

 この5つのステップの中で、勘とCAEの役割ははっきり分かれている。第5回でも述べたように、勘は容疑者を挙げ、CAEが取り調べを行う。

トラブル診断の5ステップ 図3 トラブル診断の5ステップ――勘とCAEの役割分担(※筆者作成)[クリックで拡大]

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