川崎重工とNVIDIAが目指す「次世代デジタルシップヤード構想」とは何か:船も「CASE」(2/3 ページ)

» 2026年10月06日 07時00分 公開
[長浜和也,MONOist]

海外でも進むデジタルシップヤード構想

 川崎重工が次世代デジタルシップヤードで目指す、設計/工程情報からデジタルツイン、ロボット、現場データへとつながる生産システムは、海外の造船所でもそれぞれの形で導入が進んでいる。ただし、各社が採用するシステムや用語、対象とする工程は同じではない。ここでは、前ページで示した生産システムの流れに沿って実装例を見ていく。

 設計情報を建造現場までデジタルで届ける取り組みでは、米Huntington Ingalls Industries(HII)のNewport News Shipbuilding(NNS)が一つの例となる。HIIは「Integrated Digital Shipbuilding(iDS)」として、レーザースキャン、AR(拡張現実)、モデリング/シミュレーションなどを造船に導入している。建造中のジェラルド・R・フォード級空母「エンタープライズ」(CVN-80)では、従来の紙図面に代わり、ノートPCやタブレット端末上のVisual Work Instruction(VWI)を使用する。VWIは3D CADデータを基に、製品の製造情報や組み立て順序、設計意図などを作業者へ提示する仕組みで、空母や潜水艦の建造に使用されている。

 韓国Samsung Heavy Industries(SHI)も、設計情報と生産現場の接続を進めている。2024年には3Dデジタル生産図面を全ての建造作業へ展開し、作業者がタブレット端末から船体ブロックの構造などを確認するとともに、設計部門と生産現場で情報をリアルタイムに共有する環境を構築した。さらに同社は、設計情報をデータとして一元管理するEngineering Data Platformを整備し、設計、調達、生産の各段階をデータで接続する方針を示している。

 造船所そのものをデジタル空間で扱う取り組みでは、HD Hyundaiが「Future of Shipyard(FOS)」を進めている。同社は2023年末までに第1段階となる「Visible & Understandable Shipyard」を構築した。その中核となる「Twin FOS」は、現実の造船所を3Dデータでモデル化し、工場、建造中の船やブロック、設備、物流などの状態を可視化するデジタルツイン統合情報基盤だ。生産計画や作業指示をデジタル化するとともに、クレーン、トランスポーター、フォークリフトなどの稼働状況もリアルタイムで監視している。HD Hyundai傘下のHD KSOEが公表した2024年版の計画では、2026年までの第2段階で蓄積したデータをAIやビッグデータ分析へつなぎ、生産計画やブロック搬送経路などの最適化を進める計画としている。

HD Hyundaiが2030年までに構築するFuture of Shipyard(FOS)のロードマップ HD Hyundaiが2030年までに構築するFuture of Shipyard(FOS)のロードマップ。造船所の可視化から、設計・生産データの接続と工程最適化を経て、ロボットや自動設備と連携する自律運営造船所へ発展させる計画を示す[クリックで拡大] 出所:HD KSOE

 スペインのNavantiaも「Shipyard 5.0」の中で、Plant Digital TwinとProcess Digital Twinの構築を進めている。Ferrol造船所に整備するDigital Block Factoryでは、パネルや船体ブロックの製造工程にロボット、AGV(無人搬送車)、センサー、5G、ハイブリッドレーザー溶接などを組み込み、IT/OT(制御技術)ネットワークやSCADA(監視制御システム)から得たデータをデジタルツインで利用する。San FernandoのFlat Open Units Workshopでも、IoT(モノのインターネット)センサーから得たデータをデジタルツインへ送り、工程のリアルタイム監視やシミュレーションに利用している。

 その先では、デジタルツインとロボット、実際の生産データを組み合わせる取り組みも具体化している。SHIはデジタルツインによる設備の遠隔操作に加え、3D CADデータと計測データをロボットが認識して溶接を行う設備を公開した。配管製造では、設計から物流、加工、計測、位置決め、溶接までを統合した「PIPE ROBOFAB」を稼働させ、Vision AIとロボットによる自動生産システムを構築している。

NavantiaがスペインのFerrol造船所に整備するDigital Block Factoryの完成イメージ NavantiaがスペインのFerrol造船所に整備するDigital Block Factoryの完成イメージ。鋼材加工から船体ブロック形成、先行艤装(ぎそう)までを対象に、ロボット、AGV、5G、センサー、デジタルツインなどを組み合わせる[クリックで拡大] 出所:Navantia

 イタリアFincantieriは、対象を造船所の外まで広げる。同社の「Smart Shipyard」では、設計/生産システム、工場設備、構内物流から得たデータを統合し、それを工場や工程のデジタルツインへ供給する。製品と建造プロセス双方へのデジタルツインを「twin of twins」と呼ぶ。さらにConnect 2 the Futureでは、造船所、船、港を連続した情報基盤で結ぶ構想を進めている。

Fincantieriが示す「Shipyard of the Future」の概念図 Fincantieriが示す「Shipyard of the Future」の概念図。設計からデジタル生産、船体建造、先行艤装、艤装、構内物流、最終試運転までを一つの生産システムとして捉え、AIやロボットなどのデジタル技術を各工程へ組み込む構想を示す[クリックで拡大] 出所:Fincantieri

 海外では、設計情報の現場利用、造船所のデジタルツイン、ロボット施工、現場データの収集といった要素が、既に個別の工程で実運用に入った事例がある。こうした事例を踏まえると、川崎重工の構想では、これらをBOM/BOPに基づく商船DXの上でどのように統合するかが焦点となる。

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