環境を切り口に“売った後に価値が上がるモノづくり”に挑戦するパナソニックHD製造業は環境にどこまで本気で取り組むべきか(2/5 ページ)

» 2024年07月31日 07時30分 公開
[三島一孝MONOist]

Panasonic GREEN IMPACTの3つのインパクト

MONOist 具体的にはどのように進めているのでしょうか。

小川氏 OWN IMPACTでは、2030年までにスコープ1、2で実質CO2排出量ゼロ化を実現し、2050年にスコープ3でのゼロ化を目指しています。そのため、工場におけるCO2排出量ゼロ化についてもロードマップを用意して進めています。当初は2024年度(2025年3月期)に37工場でCO2排出量ゼロを達成することを目標にしていましたが、1年前倒しで2023年度で達成することができました。勢いは生まれてきたと感じています。

photo CO2ゼロ工場への取り組み[クリックで拡大] 出所:パナソニック ホールディングス

 環境への取り組みを実ビジネスにつなげていくためにも重要なのが、2つ目のCONTRIBUTION IMPACTです。これは、製品やサービスを通じて、顧客環境でのCO2排出量を削減していく取り組みです。しかし、こうした成果を見える化して比較する指標が従来はありませんでした。そこで、製品やサービスによるCO2排出量削減効果を示す「削減貢献量」を共通指標としていくことをパナソニックグループでは訴えています。そして、広く業界団体などを通じて普及させるために、WBCSD(持続可能な開発のための世界経済人会議)やGXリーグ(※)のガイダンスに準拠した代表事例を自主開示したり、電気電子分野のルール化に向けてIEC(国際電気標準会議)やISO(国際標準化機構)に働きかけたりしています。

(※)GXリーグ:2050年カーボンニュートラル実現に向けて取り組む国内の企業などが参加する産官学協調の場

 削減貢献量は、スコープ1、2、3などの自社のバリューチェーンにおける排出量とは全く別の指標となるので、それぞれ別々に計算しなければグリーンウォッシュ(※)になってしまいます。しかし、自社の脱炭素化とは別でどれだけビジネスとして脱炭素化に貢献しているかを示す意味では、今後の企業価値を示すうえでも重要な指標になり得ると考えています。より環境に良い取り組みをする企業が報われるようにするためにも削減貢献量の標準化を世界的に訴えていきたいと考えています。

(※)グリーンウォッシュ:環境問題などに積極的に取り組んでいるように見せかけて自社の得になることだけを訴えて利益だけを得ようとすること

 特にパナソニックグループでは、車載用電池や空調機器、照明機器など削減貢献量が大きな製品分野を抱えています。これらの製品進化により削減貢献量の向上を目指していきます。

photo 「削減貢献量」のルール化への取り組み[クリックで拡大] 出所:パナソニック ホールディングス

 3つ目が、将来の技術として新しい創エネ、畜エネ、省エネの技術を生み出し、CO2排出量削減を進めていくFUTURE IMPACTです。これはグループCTOの立場としても最も力を入れているところです。例えば、ペロブスカイト太陽電池やグリーン水素、バイオ技術を生かしたCO2固定化などの新しい技術開発がこれらに当てはまります。これらの取り組みにより今まで想定できていなかった領域で1億トンのCO2排出量削減を目指します。

MONOist 着実に進んでいるように見えますが、既に達成への道筋は見えているということでしょうか。

小川氏 これらが事業としての目標や計画としっかりかみ合っているかというと現時点ではそうではありません。事業の内容や工場のある地域などの条件により、すぐにCO2排出量を削減できるところもあれば、そうではないところもあります。例えば、東南アジアの工場でCO2排出量をゼロにしようとしても再生可能エネルギーのリソースが潤沢にないため、すぐには達成できません。それでも2030年に向けて全工場でゼロ化が進むように知恵をしぼることが重要です。そのために自社内でさまざまな工夫を重ねる他、パートナーシップも活用していくつもりです。

 過去を振り返ってみるとここ10年間でも想定していなかったようなことが起こっています。例えば、約10年前にパナソニックグループとして環境革新企業というビジョンを打ち出した時には、環境への負荷をマイナスからゼロにするためにどうするかという議論で、環境問題への取り組みは企業経営的にはコストでしかありませんでした。

 しかし、今はCO2排出に価格が付き、取引市場も立ち上がったことで、CO2排出量がビジネスに直結するようになってきました。経済的にこれらを動かしていける仕組みが生まれたことで、ゼロをプラスにできるようになり、企業として環境問題に取り組むのに正しいモチベーションを持てるようになったといえます。こうしたことを考えると、今は難しくても周囲の変化でできるようになることもあり、具体的な計画が立たなくてもまずは正しい方向に進んでいくことが重要だと考えています。

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