さまざまな企業課題に対応すべく、サプライチェーンマネジメント(SCM)のカバー領域や求められる機能も変化している。本連載では、経営の意思を反映したSCMを実現する大方針たる「SCM戦略」と、それを企画/推進する「SCM戦略組織」、これらを支える「SCM人材」の要件とその育成の在り方を提案する。
第1回では、事業環境変化を適切に評価し、サプライチェーンの再設計とその組み替えを柔軟に行う新しいビジネス機能がSCMに求められていることを確認した。さらに、こうした新機能を事業に実装する上では、SCMの位置付けや、求められる役割機能を企業内で見直す、すなわち「SCM戦略」の再定義が求められることに言及した。
今回は、SCM全体の構造を改めて整理した上で、SCM戦略のポジションと、そこで定義される5つの戦略要素について解説する。
SCMは企業のビジネスファンクション(機能)の1つではあるが、他のビジネスファンクションを横断する形で機能する性質をもつ。SCMは大きく「SCM戦略」と「SCM業務」に区分することができ、後者のSCM業務は需要予測や製販計画立案などに代表される「サプライチェーン計画業務」と、その計画に沿って実際に調達や生産、輸送や販売などを行う「サプライチェーン実行業務」に分けられる。SCM戦略はこうしたSCM業務の上位に位置付けられるもので、SCM全体、及び業務の目的や在り方を規定する(図1)。
日本企業の多くはこのSCM戦略を明確に定義していない。そのため、SCM業務を担う需給調整部門や製造/販売部門は、会社としての方針を与えられないまま、現在の業務プロセスの延長線上で、直近に発生した問題の解消だけを目的としたSCM業務改善を繰り返している。
今日、サプライチェーンを取り巻く環境がダイナミックに変化している中で、この場当たり的な改善活動に限界がきていることは明らかだ。企業や事業を取り巻く環境や競争戦略およびその変化を解釈し、自社ないし自事業のSCMの方向性を定義する「SCM戦略」の明確化が、個別のSCM業務改革に先立って求められるのである。
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