これまで製造現場のコンプライアンス違反といえば、品質にかかわる不正や不祥事がメインでした。しかし近年、ESG経営やSDGsの広まりから、品質以外の分野でも高度なコンプライアンス要求が生じています。本連載ではコンプライアンスの高度化/複雑化を踏まえ、製造現場が順守すべき事柄を概観します。
前回の「実効性ある工場のリスク管理のため、アセスメントはどう進化させるべきか」では、平時のリスク発現の「予防」及び「発見」のポイントについて解説しました。
コンプライアンス違反などの不正/不祥事が発生した際、それに伴う直接的な影響を被ることになります。さらに不正/不祥事への対応に失敗すれば損害が拡大しかねません。実際、こうした失敗例は数多く見受けられます。今回は、不正/不祥事対応の全体概要、および、対応の成否を大きく左右するステークホルダーへの対処を中心に解説します。
不正/不祥事が発生した場合には、短期間で数多くのタスクを同時並行的に処理する必要があります。常に状況が変化する中で抜け漏れなく処理する必要があり、優先順位の間違いも許されません。不正/不祥事が発生した際の主なタスクは図1と表に示す通りです。
A | 対応チームの立上げ | 経営層をトップとして関係部署のメンバーを選抜し、外部専門家も巻き込んで対応チームを立ち上げる |
---|---|---|
B | 事実調査 | コンプライアンス違反の原因究明のための内部調査、または第三者委員会を組織し、外部による調査を実施 |
C | ステークホルダー対応 | ステークホルダー(株主、取引先、金融機関、監督官庁、消費者、地域住民など)への説明対応 |
D | 再発防止策の策定・実行・浸透 | (a)再発防止策を検討し実施 (b)情報開示において再発防止策の詳細や進捗などの報告要否を検討し、要否に基づき実施 |
難易度の高いタスクが並ぶ不正/不祥事対応を確実に遂行する上で最も重要なポイントは、有効なプロジェクトマネジメントオフィス(PMO)を設置/運用できるかにかかっています。有事対応においては、多くの部署を跨いで調査や対応が発生するため、各部署の利害に対して中立/独立した立場のPMO機能を設置して、外部専門家をPMOと連携させることが有効です。
状況は時々刻々と変化していきます。PMOに情報を集約させて経営層と事業部門をつなぐと共に、全体を俯瞰した立場から進捗管理を円滑に行い、不正/不祥事を収束に向かわせることが可能となります。
なお、有事対応においては自社のリソースのみだとキャパシティーが不足し得る上、人材の専門性/客観性などが不十分であれば、対応が難航して、問題や損害が拡大するケースも多くあります。
そのため、弁護士やリスクコンサルタント、税理士/会計士などの外部専門家を早期に巻き込んだチーム作りが重要です。戦力の逐次投入が愚策であることは、広く知られている通りでしょう。有事を有事だと素早く理解して、ワーストシナリオを想定した意思決定を下すことが求められます。手戻りなく迅速に初動対応を進められるように、平時の内に外部専門家の選定を行っておくことが肝要です。
では、有事の際のステークホルダー対応はどう進めるべきでしょうか。幾つかのポイントに分けて解説していきます。
不正/不祥事対応で特に企業を悩ませるのが、ステークホルダーへの情報開示ではないでしょうか。どこまでの情報を、どの範囲の対象者まで、いつ、どのような方法で開示しなければならないのか。また、そもそも本件は情報開示すべきなのかどうか。企業としての解を持って判断しなければなりません。
日本取引所グループが公開している「上場会社における不祥事対応のプリンシプル」では、「迅速かつ的確な情報開示」として、「不祥事に関する情報開示は、その必要に即し、把握の段階から再発防止策実施の段階に至るまで迅速かつ的確に行う。この際、経緯や事案の内容、会社の見解等を丁寧に説明するなど、透明性の確保に努める」(日本取引所自主規制法人:「『上場会社における不祥事対応のプリンシプル』の策定について」: 2016年2月24 日)と定められています。
同規定は緩やかなガイドラインとして公開されているものですが、コンプライアンスにおける社会的な要請と捉えて、不正/不祥事の発生時には「ステークホルダーへの情報開示」に対して真剣に対応を考えるよう求められていると理解すべきです。
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