商船三井といえば、日本郵船と並んで日本海運の双璧ともいえる歴史と業績を誇る企業だ。自律運航技術を紹介するこの一連の連載ではすでに日本郵船の取り組みを紹介しているが、商船三井も当然ながら独自に研究開発を進めている。
商船三井といえば、日本郵船と並んで日本海運の双璧ともいえる歴史と業績を誇る企業だ。自律運航技術を紹介するこの一連の連載ではすでに日本郵船の取り組みを紹介しているが、商船三井も当然ながら独自に研究開発を進めている。
商船三井で自律運航をはじめとする技術開発を担っているのが技術革新本部スマートシッピング推進部だ。その実績は商船三井のWebサイト「高度安全運航支援分野」でも紹介されている。商船三井 技術革新本部 スマートシッピング推進部 副部長の上原裕士氏は同社が自律運航技術開発に取り組む理由について、「船員の労務負荷低減と、事故をなくし運航の安全性を向上させるため」と明快に説明した。
「海難事故の多くがヒューマンエラーに起因する。人は誰でも間違える、であれば先回りをして間違いを起こさないようにする仕組みを作ればリスクはどんどん下げられる。だから、自律運航技術の技術開発に取り組んできた」(上原氏)
商船三井の自律運航船プロジェクトでは現在、内航船での導入を目指して研究開発を進めている。内航船では省力化と安全運航の向上に期待がかかっているという。そのため、研究開発から実証航海にわたる過程では内航貨物船やカーフェリーなどの運航に携わる海上職員(乗組員)も積極的に参加して、現場からのフィードバックと船員としてのノウハウを開発スタッフと共有して技術に落とし込んでいる。
商船三井では、研究開発のテーマごとに適切なパートナー企業と協業しながら、自律運航技術に限らず安全航行支援や環境負荷低減のために幅広い船舶関連技術の開発に取り組んできた。「基本的に全てのプロジェクトがオープンイノベーションで進んでいる」(上原氏)。
商船三井としては、自律運航船に関する技術開発の現状は要素技術の開発ウェイトがまだ大きく占めている段階にあるとみている。それぞれの要素技術が組み合わさって1つのシステムとして機能することを確認するには、本船を使った実証実験が不可欠だ。しかし、これには多大な費用が掛かる。日本財団の無人運航船プロジェクト「MEGURI2040」は、費用面や関係者の関心と理解の面から、実証実験の実現を大きく後押ししてくれたと商船三井 技術革新本部 スマートシッピング推進部 スマートシップ運航チームリーダーの鈴木武尊氏は説明する。
「それまでは船を丸ごと使った実証実験が費用などの問題でできなかったが、要素技術の開発が進んできた段階で日本財団のMEGURI2040プロジェクトが立ち上がり、本船を用いたフィールドテストができたという意味で非常に有意義だった。MEGURI2040がなければ実証実験の実現は難しかったと思う」(鈴木氏)
さらに、費用面だけでなく、実証航海に伴って国土交通省と必要な法的手続きや海上保安庁と必要な申請、そして、入出港する港の港湾局や自治体との調整などでも協力を得ることができたという。
商船三井が取り組んでいる自律運航のための要素技術は認知、判断、操船の3つで構成される。商船三井が考える自律運航船を実現する要素技術の構成としては、まず外部の情報を取得する機能が重要となる。事前に策定した航海計画に加えて、周囲の障害物に関する情報、自船位置・状態などの情報などがこれにあたる。
「現在、航海士が見張りを行っているが、視野が制限される夜間や濃霧、降雨の環境や、他船が輻輳(ふくそう)している海域では船員にとって精神的負荷が非常に高くなる。負荷削減のため、その見張りの部分に関する自動化も商船三井としては積極的にやっていこうとしている」(鈴木氏)
この人の目の代わりとなるAI(人工知能)による画像認識が、レーダーでのトラッキング情報、AIS(Automatic Identification System:船舶自動識別装置)情報とお互い照合され、確かな自船周囲情報として認識される。
船舶の自律運航を特に難しくしている要素の1つが認識する距離だ。「自動車と比べてAIが捕捉しなければいけない距離が全然違う」(鈴木氏)ことだという。「自動車であれば数百m先のものを認識すればいい。しかし、船の場合は最長で40km先ぐらいのものを認識しなければならない」(鈴木氏)
そのためセンシングデバイスに対する要求性能からして違ってくる。自動車の場合、物体までの距離を捕捉するためのセンサーの1つにLiDAR(Light Detection and Ranging、ライダー)を用いるが、船舶が必要とする距離の測定には適さない。さらに、道路という固定された基準がある自動車と異なり、船舶は揺れる海上で対象物を捕捉しなければならないため、難易度が高くなる。自律運航に必要な認知技術には改善の余地はかなりあると商船三井は捉えている。
「自動車の自動運転ではレベル3からレベル4と、システムが運転主体を担う段階に到達しているが、これは、数十年間に及ぶ取り組みとその蓄積があってようやく実現している。それに対して船舶の自律運航はまだ始まったばかりであり、その実現には時間を要するだろう」(鈴木氏)
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