HPCやAIがCAE解析の課題を解決!! 現場が求める理想の解析環境を実現するには製造業DXに向けたITインフラ革新のヒント - 特別編 CAE活用ウェビナーレポート

デル・テクノロジーズは「新時代に突入するCAE、その可能性を広げる技術深化〜CAEをより深く、より広く活用する方法〜」と題したオンライン技術セミナーを開催した。オムロンの岡田浩氏による基調講演の他、アンシス・ジャパンの土屋知史氏、日本AMDの中村正澄氏、デル・テクノロジーズの岡野家和氏の講演をレポート形式でお送りする。

» 2022年09月08日 10時00分 公開
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 デル・テクノロジーズは2022年7月22日、「新時代に突入するCAE、その可能性を広げる技術深化〜CAEをより深く、より広く活用する方法〜」をテーマとするオンライン技術セミナーを開催した。近年は、CAEツールの高機能化やさらなる高精度への要求、計算パターン数の上昇により、従来の環境では到底実現できないほどのパフォーマンスが求められているが、HPC(ハイパフォーマンスコンピューティング)の普及により、CAEをより深く、広く活用するための土壌が整いつつある。同セミナーでは、AI(人工知能)技術との融合によるCAEの発展活用に取り組むオムロン、包括的なCAEソリューションを提供するAnsys、CPUの3D実装技術を有する日本AMD、PCサーバでシェアトップクラスのデル・テクノロジーズが登壇し、活用事例や今後の展開などの話題を提供した。

CAE利用が身近になる中、現場はCAEに何を期待しているのか

 基調講演に登壇したのは、オムロン グローバル購買・品質・物流本部 品質技術室 工程品質技術部 技術本部 兼 デジタルデザインセンタ、技術専門職 技術士(機械部門)の岡田浩氏だ。岡田氏は「CAE活用の現状と今後のCAE×AI、適正なインフラ環境を用いた技術開発」と題して、オムロンにおけるCAEの展開状況や、現状の課題を解決するためのAIとCAEを融合させた取り組みについて語った。

 CAEの活用メリットは、さまざまな工学計算を連成して処理できることだ。そして、非常に小さい部品からパワーコンディショナまでマルチスケールで現象を扱えること、応力や温度、電磁場、物体内部など、実験では見えないものを可視化できるといったことが挙げられる。また、これまでCAEの作業は“専任者が行うもの”というのが一般的であったが、近年は操作性や連成機能の向上、ソフトウェア/ハードウェアの低価格化やクラウド、スーパーコンピュータ(スパコン)の活用などにより、利用のハードルが下がりつつある。

オムロン グローバル購買・品質・物流本部 品質技術室 工程品質技術部 技術本部 兼 デジタルデザインセンタ、技術専門職 技術士(機械部門)の岡田浩氏 オムロン グローバル購買・品質・物流本部 品質技術室 工程品質技術部 技術本部 兼 デジタルデザインセンタ、技術専門職 技術士(機械部門)の岡田浩氏

 「このようにCAEは身近なものになりつつあるが、現場の設計者や生産技術者からはさまざまな要望が聞こえてくる」と岡田氏は述べる。例えば、「計算時に自分が行った設定が正しいのか分からない」「得られた結果をどう評価すればよいのか分からない」「実験値とCAEの値が合わない」「社内の製品開発のスピード感にシミュレーションのスピードが追い付いていない」といった声だ。

 では、現場がCAEに期待することは何か。第一に、より厳しい制約条件の中で製品の機能を成立させることが挙げられる。さらに、試作の機会が減少していることから、試作の代わりとなる体験および基礎工学の学習をCAEで行いたいといった声や、計算の作業効率を上げたいというニーズも多く寄せられているという。「オムロンではこうした現場からの声を大切にし、CAE活用を促進している」(岡田氏)。具体的には、全社一貫でCAEを活用できる環境を整えており、現在はAIによるデータ解析/最適化とCAEを掛け合わせた技術の開発および徒弟制度による人財育成を進行中である。

AIとの融合でCAE活用を迅速かつ便利に

 岡田氏は「経験をベースとしたモノづくりのままでは新しいアイデアが生まれず、新しい商品も生まれない」と指摘する。そこで、オムロンでは“これからの10年”を見据え、CAEとAIを融合させた取り組みに着手。顧客ニーズや技術動向、市場予測などの情報を収集し、それらをAIで分析することで、例えば新しい血圧計のアイデアを得て、その中から人が使えそうだと判断したものについて新たに設計を行うというアプローチを実現したい考えだ。

 この新たなアプローチの中で、マルチフィジクスCAEを実行するのだが、マルチフィジクスの実行は誰にでもできるものではなく、計算時間も非常に長くなる。「そこで、AIのサロゲートモデルを使う」(岡田氏)。サロゲートモデルとは、物理シミュレーションを機械学習によって代替する手法で、「代理モデル」とも呼ばれる。CAEモデルと同様の情報を入力として与えることで、ひずみ分布などを迅速に出力できる。現場が使いやすいシステムになれば、血圧計が据え置き型ではなく腕時計型になるといったような、今までにない新しい製品づくりにもトライできる。

 オムロンが目指すのは、AIが考えたアイデアをCAEで検証し、人が説明できるようになる「AI×CAE」を、エンジニアリングチェーンとサプライチェーンで活用して、設計および生産現場を改革し、最終的に魅力的な製品を新たに創出することだ。

 AI×CAEのアプローチについて、オムロンでは製造工程の視点から見た最適化に取り組んできたが、将来的には、設計から加工、使用環境までの一連の工程に対する総合的な評価を、モノを作らずにより精度良く行っていくことを目指す。「そうして顧客のニーズである大電流化、高密度化のニーズに応えた製品づくりを行うとともに、そのために必要な人財の育成も行っていきたい」と岡田氏は展望を述べる。

AI×CAEを有効活用した商品創出の目指す姿 AI×CAEを有効活用した商品創出の目指す姿[クリックで拡大] 提供:オムロン

要件の高度化などにより、さらに計算が複雑に

 続いて、アンシス・ジャパン マーケティング部 シニアマーケティングスペシャリストの土屋知史氏が「HPCを利用したエンジニアリング・シミュレーションのイノベーションについて」と題し、Ansysが展開する製品群やユーザー事例、「AMD EPYCプロセッサー」を適用した場合のCAEツールのパフォーマンスなどについて報告した。

 Ansysは構造解析、流体解析から疲労解析、電磁解析など約85製品を擁し、完全なシステム最適化を実現する。近年のエンジニアリング・シミュレーションのトレンドを見てみると、複数の要素を組み合わせた計算が多く、かつコンピュータの性能も上がっているため、「より大規模かつ高精度になる傾向にある」(土屋氏)という。また、自動車同士の無線通信に代表されるように、あらゆるものがネットワーク機能を有するため、ノイズや電磁波に関するシミュレーションのニーズが急速に高まっている状況にある。

Ansysによる完全なシステム最適化の実現 Ansysによる完全なシステム最適化の実現[クリックで拡大] 提供:アンシス・ジャパン

 他にも、人員不足によるシミュレーションの活用およびシミュレーションの自動化、デジタルツインの活用による運転中の再現や起こったトラブルの検証、次世代製品の開発などへの対応も挙げられる。さらに、環境へ配慮した製品開発、昨今の半導体不足やロックダウン(都市封鎖)の影響に対しても、シミュレーションをもっと活用していこうという動きが目立っている。

 新製品を開発する際の要求はさまざまだが、多くの製品に共通するものもある。例えば、よりグリーンで、より静かで、より速く動作し、よりセキュアで、決まった認証をパスできるスペックといった要求だ。これら全ての要求を満たす方向が同じであればよいが、矛盾し合うこともある。そこで、全体最適を狙うために、大規模かつ複雑、また非定常のシミュレーションが求められる。また、解が1つではないために、一度ではなく条件をさまざまに変えて、同一モデルを複数回シミュレーションすることが必須となる。

イノベーションのためにはスケールアップが必須

 そこで使われるのがHPCだ。HPCを活用することで、より多くの設計バリエーションの計算を特定時間内に終わらせたり、高精度なモデルを用いたより正確な計算を実施したりすることができる。「シミュレーションにおけるHPCの活用は、ソフトウェアのみで成り立つものではないため、Ansysではハードウェアのパートナー企業と連携し、HPCを共同開発している。年々HPCへの要求も高まっていることから、ソフトウェアのバージョンが上がるたびに、対応するHPCの規模もスケールアップさせている」(土屋氏)。

 HPCの規模が大きいほど計算には有利であり、適切なスケールのコンピュータを導入すれば、十分な投資対効果が期待できる。例えば、サウジアラビアの国営石油会社であるSaudi Aramcoは、石油精製において重要な効率や生産性向上、安全稼働のため、正確かつ大規模な計算を頻繁に行う必要があった。そこで、3万6000コアだったシステムを20万コアにスケールアップし、数週間かかっていた計算を約1日で終わらせるようにした。

アンシス・ジャパン マーケティング部 シニアマーケティングスペシャリストの土屋知史氏 アンシス・ジャパン マーケティング部 シニアマーケティングスペシャリストの土屋知史氏

 さらに土屋氏は、第3世代 AMD EPYCプロセッサーのベンチマークについても紹介した。L3キャッシュメモリを垂直方向に積層したAMDの「3D V-Cache」テクノロジーを搭載した最新のAMD EPYCプロセッサーと、3D V-Cacheを搭載していないAMD EPYCプロセッサーとを比較したベンチマークでは、「Ansys CFX」を使ったシングルノードの比較で最大1.61倍、「Ansys Fluent」で最大1.8倍という計測結果となった。

 「シミュレーションの活用によって、顧客は営業利益を増大させることが可能となり、コストの削減も図れる。イノベーションを創出するためには、HPCの活用が必須といえるが、AnsysではHPCの優れたパフォーマンスと機能を提供するために、持続的な投資を行っている」(土屋氏)

CAE市場で注目を集めるAMD EPYCプロセッサー

 続いて、日本AMD コマーシャル営業本部 ソリューション・アーキテクトの中村正澄氏が「CAE市場で注目を集めるAMD EPYCプロセッサー技術概要と将来ロードマップ」と題して、3D実装技術を実現したAMD EPYCプロセッサーの技術概要などについて紹介した。

日本AMD コマーシャル営業本部 ソリューション・アーキテクトの中村正澄氏 日本AMD コマーシャル営業本部 ソリューション・アーキテクトの中村正澄氏

 近年のCPUは「ムーアの法則」が減速しつつある一方で、製品の開発競争はさらに激化している。シリコンプロセス技術の進化が減速する中、AMDはアドバンスドパッケージ技術である3D V-Cacheテクノロジーを搭載した第3世代 AMD EPYCプロセッサーを投入し、シミュレーション領域におけるHPC活用を推進している。3D V-Cacheテクノロジーとは、CPUの上にSRAMを垂直方向に重ねることによって、L3キャッシュメモリを3倍に増強できるAMD独自の技術だ。「現在はL3キャッシュメモリを増やしているが、将来的にはさまざまな回路を3次元方向にさらに増やしていきたいと考えている」と中村氏は3D実装技術の将来展望について語った。

シリコンプロセスの減速をアドバンスドパッケージ技術で加速させるAMD シリコンプロセスの減速をアドバンスドパッケージ技術で加速させるAMD[クリックで拡大] 提供:日本AMD

先進的CFDユーザーによる新世代サーバ導入事例とその効果

 同セミナーの最後に登壇したデル・テクノロジーズ データセンター ソリューションズ事業統括 製品本部 シニアプロダクトマネージャーの岡野家和氏は「先進的Ansysユーザーの事例に見る、最新世代サーバーの劇的な活用メリット」と題し、AMD EPYCプロセッサー搭載「PowerEdge」サーバの導入事例などを紹介した。

デル・テクノロジーズ データセンター ソリューションズ事業統括 製品本部 シニアプロダクトマネージャーの岡野家和氏 デル・テクノロジーズ データセンター ソリューションズ事業統括 製品本部 シニアプロダクトマネージャーの岡野家和氏

 ル・マンやF1などカーレースに出場するチームをCFD(数値流体力学)で支援してきた英国のWirth Researchは、現在サステナブルにフォーカスした新事業をスタートさせ、輸送業から流通業、都市開発に至るまでAnsys Fluentなどを用いながらコンサルティングを行っている。Wirth ResearchはCAEクラスタ環境を刷新し、新たに「PowerEdge C6525」サーバを導入することで、4ラック分あったサーバ台数を1ラック規模に削減でき、消費電力も旧世代クラスタの約25%に抑えられているという。岡野氏は「まさに『劇的』といってまったく大げさではない新世代サーバの活用メリットだ」と強調する。

Wirth Researchの事例に見る新世代サーバの劇的なメリット Wirth Researchの事例に見る新世代サーバの劇的なメリット[クリックで拡大] 提供:デル・テクノロジーズ

 なお、同セミナーの講演は以下のWebサイトからオンデマンド視聴できるので、興味があればぜひ確認してほしい。

2022年7月22日(金)に開催されたCAE活用ウェビナーオンデマンド配信Webサイト(登録なしで視聴可能)

(クリックで配信Webサイトに移動)

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アイティメディア営業企画/制作:MONOist 編集部/掲載内容有効期限:2022年9月23日