特集:IoTがもたらす製造業の革新〜進化する製品、サービス、工場のかたち〜

やはりイノベーションに完璧なセキュリティを求めるのはまちがっている。事例で学ぶ製造業DXセキュリティ対策入門(7)(1/4 ページ)

社内DXセキュリティプロジェクトチームのリーダーに任命された、ABC化学薬品新卒6年目の青井葵。元工場長の変わり者、古井課長の手助けも得て、製造業がDXプロジェクトと併せて進めるべき「DXセキュリティ対策」を推進していく本連載。今回は、前回に引き続き、ABC化学薬品の傘下に加わったABCアグリが開発中のスマートドローンのセキュリティ対策について考える。イノベーションとセキュリティの両立は可能なのか!?

» 2022年03月24日 10時00分 公開
[佐々木弘志MONOist]
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 国内製造業で進む、AI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)、クラウドなどを活用した「DXプロジェクト」。分かりやすい価値を生み出すDXに対して、取り組みが遅れがちなのがセキュリティ対策です。

 そこで本連載では、国内中堅化学薬品メーカーのABC化学薬品に勤める新卒6年目の青井葵を主人公に、製造業がDXプロジェクトと併せて進めるべき「DXセキュリティ対策」について解説します。

⇒連載「事例で学ぶ製造業DXセキュリティ対策入門」バックナンバー

本連載の登場人物

青井葵(あおいあおい):ABC化学薬品のセキュリティ問合せ担当から会社全体のDXセキュリティのプロジェクトに大抜てきされた。新卒6年目。人当たりがよく、元気印の愛されキャラ。趣味は旅行、ラノベ・アニメ鑑賞。


井之辺紫音(いのべしおん):ABC化学薬品の子会社であるABCアグリ開発部のリーダー。現在、ドローンを用いたIoT農薬散布機の開発に取り組んでいる。仕事が早く優秀だが、気分屋で他人への要求が高いため、周囲からは難しい人物としてみられている。趣味は、カメラ、ミニ四駆、SF鑑賞。


※)編集部注:本記事はフィクションです。実在の人物、団体などとは一切関係ありません。

予算も時間も人もお金もない!

子会社のABCアグリが開発中のIoT農薬散布ドローンのセキュリティ対策を進めることになり、キックオフの打ち合わせでは「イノベーションにセキュリティは邪魔だ!」という開発リーダーの井之辺さんとひともんちゃくあったものの、何とか専門家とのリスク評価に協力してもらうところまでこぎつけた。果たしてイノベーションとセキュリティは両立するのか。

 今日は、専門家交えてのリスク評価だけど、井之辺さんに少しでもセキュリティ対策の重要性が響いてくれればいいなぁ……。

いやー、なかなかハードな打ち合わせでしたね。


 壁と一体化したABCアグリ会議室のホワイトボード上に、専門家とともに洗い出したセキュリティリスクの観点が大量に赤字で示されている。

はい、かなり疲れました。ちょっと気分転換にコーヒー取ってきていいですか。


 そういって席を外した井之辺さんは、両肩を回しながら会議室を出て行った。外部の専門家を交えての打ち合わせを終えたところで、疲労困ぱいの様子だ。

あ、私も行きます。


 井之辺さんは、ベンディングマシンの前で、今度は首を回しながらコーヒーが出来上がるの待っていた。

どうでしたか? さきほどの打ち合わせ。


いやぁ。いかに自分が何も考えていなかったかを思い知らされました。目からウロコが落ちすぎて地肌が痛いです。


なんだか大変そうですね。塩でも塗りましょうか。


ひぇぇ。それは勘弁してください。でも、困りましたね。確かにセキュリティ対策の重要性や必要な観点は分かったのですが、うちには予算も時間も人もお金もないです。


すがすがしいほど、全部ないんですね。お金関係が2回も出てきてますし。


ええ、もとはスタートアップですし、いつもギリギリで何とかしてきたというのが実態で。ABC化学薬品さんからの投資がなければ危なかったです。


予算に関しては、私からABC化学薬品の経営層に掛け合うことはできるのですが、時間と人に関しては悩ましいですね。


はい、もちろん納期は絶対遅れるわけにはいかないです。あとご存じの通り、私がこのありさまですから、セキュリティ分かる人なんて誰もいないのが実態です。


 ベンディングマシンがコーヒーの完成を告げる。次は私の番か。疲れたから甘いミルクコーヒーにしよう。

うーん、そうですよね。


外部の専門家でもいいので、技術的なサポートがないと困りますよ。実際、先ほど洗い出したセキュリティリスクの観点に対して、どう対処したらよいのかさっぱり分からないです。


今回の洗い出したリスクの対策は、一般のガイドラインを参照すれば、対策の内容は分かるのですが、結局どこまでやったらいいのかは書いてないんですよね。


 同じことが工場でもあったなぁ。ここで、いきなりガイドラインを持ち出して、それを全部やろうとすると結局遠回りなんだよな。あー、あれは沼だ。沼なんだよなぁ(連載第4回参照)。ん? なんかピーピーなってて工場内のアラーム音みたいだな……。

青井さん、青井さん! コーヒーできてますよ。


あ、すみません。よいしょっ。あっつい! あっまい!


そんな急に飲んだら熱いに決まってますよ。あと、そのミルクコーヒーはやたら甘いんです。さあ、会議室に戻って、ラップアップしましょう。


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