「最低限」の案と、「推奨」の案の2つで見積もっていまして、「最低限」が3年で7000万円、「推奨」が3年で1.5億円かかる想定です。事故発生時の被害想定額は、何も対策しない場合の20億円から、「最低限」で8億円、「推奨」で4億円に減ります。
ふむふむ。なるほど……。
そういって社長は何かを考えるようにして、しばらく黙り込んでしまった。やっぱり金額が高すぎたのかなぁ。だから最後まで説明してから金額の話をしたかったのに。
青井さん、1つアドバイスです。このページは、資料の最初に持ってきてもらえませんか?
はい? 最初に、ですか?
そうです。正直、この金額だったら役員会の決裁は割れないと思います。
え? そ、そうですか。
やっぱり、金額だけでダメって判断できてしまうということかな……。
はい、「推奨」の案で進めることに文句を言う人はいないと思いますよ。
へぇ?
驚き過ぎて、思わず変な声が出てしまった。社長がけげんな顔でこちらを見ている。
別に責めているわけではないのですよ。この工場DXセキュリティ対策プロジェクト決裁のために、私を含めた役員は、まず、どれだけ会社に影響のある話かが知りたいのです。1億なのか、10億なのか。どの部門が関係するのか。それによっては、もう皆さんに任せるよといった判断もできるのでね。
はぁ。なるほど。そういうものなのですね。
なので、前置きはいろいろあるかと思いますが、結論は最初の3分以内にお願いします。今後、役員向けにプレゼンするときには、心掛けていただくと良いです。でないと、寝てしまう役員もいますから。
寝てしまうって……。
それは冗談と言いたいところですが、うちもまだまだ古い体質が残っていましてね。それはさておき、今回の工場DXプロジェクトは、役員の総意で、社運をかけて進めています。3年で1.5億ということは、1年で5000万の投資ということですから、その金額で、頭の痛いセキュリティ対策が片付くなら、安いものですよ。
安いもの……ですか。
あ、失礼。決して軽視しているわけではなくて、私を含めた役員の皆さんは、セキュリティ対策は、もっとお金がかかると思っているということです。なので、まとめを最初に持ってきた方が、その後の議論が発散せずに済むかなと思いまして。
はい、貴重なアドバイスありがとうございます。
このまま役員会で話していたら、結論たどり着く前に、議論が発散していた可能性があるということか。早速、あとで資料を修正しておかないと。大黒様のお告げありがたや。
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