ニーズの多様化への対応が求められるようになって久しいが、近年は特に市場環境の変化が激しい。何がどれくらいの期間、どれだけ売れるかの予測はますます困難になっている。さらに、天災や感染症に対応するためのサプライチェーンの強靭(きょうじん)化、すなわち迅速な組み換えや需要変動への対応力を高める必要がある。急激な環境変化にも迅速で柔軟な対応を可能にする企業変革力を強化する必要がある。製品の品質やコストの80%は設計段階で決まり、モノづくりの工程が進むに従って、仕様変更の柔軟性は低下する。設計力がモノづくり全体の命運を握っている。そして、その設計力を高めるために、部門間の連携が鍵になるのだ。
もちろん製造現場でも、設備や工程をできる限りスリム化して、必要なときに必要な分だけ設備の増減ができるような改革や技術導入を通じて、変革力向上の取り組みが行われている。例えば、従来の固定化された製造ラインの代わりに、製造ライン自体を小型AGV(無人搬送車)にすることで、ラインの増減変更を小型AGVの走行経路で実現できるようになり、ソフトウェアによって極めて短時間で行えるようになる。原価の観点では、自社の付加価値を保持したまま、従来の固定費を変動費化して、かつ生産量の変動に対して迅速で柔軟に対応する試みである。
大きな販売目標にあわせて製造ラインを準備しても、思うように売れなかったときの固定費(設備投資負担)は重荷になる。一方で、控えめな生産量を前提に製造ラインを準備してしまうと、売れ行きが好調になったときに機会損失が生じる。単に外注して変動費化すると、付加価値が減り収益力が低下してしまう。固定費を小さく保ったまま生産量の変動に対応することが重要だ。
このような生産技術を生かせるように製品設計を行うことが、収益力を高め、企業変革力を高めることになる。そのためにも、設計への製造情報のフィードバックは重要である。設計で完成度を高めて製造を含む後工程の徹底的な自動化を図る欧米で多く見られる組織体制に対して、日本ではモノづくりの現場で完成度を高めて設計へフィードバックする組織体制が多い。設計への製造情報フィードバックによって、各部門の技術革新の取り組みを融合して製品設計に生かし、その強みをさらに高めていくことができる。
ここまでで、設計と製造の連携のポイントとその効用について概略を示してきたが、実際に「設計」と「製造」を「原価」で見える化し、部門間を連携して原価企画力および製品事業力の強化を行っている取り組みの事例についても、後日ご紹介をしていきたい。
ビジネスエンジニアリング株式会社
プロダクト事業本部 商品開発本部 カスタマーサクセス推進部 部長
伊与田 克宏
1997年大手エンジニアリング会社に入社。2000年より東洋ビジネスエンジニアリング株式会社(現ビジネスエンジニアリング)にて、電機・機械・重工メーカーなどの製造業の顧客向けに、設計と製造の連携を含む業務改革構想ならびにシステム化企画、ERPシステム導入のプロジェクトを数多く手がける。その後、販売・生産・原価管理システム「mcframe」の開発ならびに導入に従事するとともに、200社の製造業会員を有する「mcframeユーザ会:MCUG」にて製品開発元として各社の課題解決に尽力している。2015年より設計・製造・原価連携ソリューションの企画と開発に携わる。
著書に「儲かるモノづくりのためのPLMと原価企画」(東洋経済新報社)
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