パナソニックが“コケ”でこんもり覆われた6足歩行ロボットを作った理由イノベーションのレシピ(2/2 ページ)

» 2021年07月07日 09時00分 公開
[池谷翼MONOist]
前のページへ 1|2       

霧吹きで照明を明るくするコケの“スイッチ”

 MOS Interfaceはコケ(ヤマゴケ)周辺の湿度と照明器具を連動させる仕組みの作品である。コケの下には湿度センサーが設置されており、霧吹きなどで水分を与えると反応して、無線接続された照明装置が明るくなる。湿り気を得たヤマゴケが「喜んでいる」様子を照度で表現しているという。反対に、コケ周辺が乾燥すると、照明は明るさを落とす。

湿度に反応するMOS Interface[クリックして拡大]

 開発の意図についてパナソニック マニュファクチャリングイノベーション本部 ロボティクス推進室の安藤健氏は、「照明のオン/オフはスイッチの切り替えで行うことが一般的だ。しかし、このスイッチというインタフェースを『制御』の対象ではなく『共生』の対象にすることで、自然との共生をより身近で実現できるのではないかと考えた。当然、水を与えなくとも季節や天気などでコケ周辺の湿度は変化するので、それに伴って部屋の明るさも変わる。自分だけでなくヤマゴケにとっても良い環境を与えるにはどうすればよいかなど、日常で『共生』を意識するきっかけにしてほしいという願いを込めた」と語った。

パナソニックの安藤氏[クリックして拡大]

 また、UMOSとMOS Interfaceは、ドイツの生物学者ユクスキュルが提唱した「環世界」というアイデアをベースに開発したとも説明する。環世界とは、あらゆる生物は固有の見方で世界を捉えており、それぞれ異なった世界を経験しているとする考え方だ。これに基づいてAug Labでは、動植物による世界の捉え方を理解して共生の可能性を探るプロジェクトを「環世界インタフェースプロジェクト」と呼んでおり、今回は「コケから見た世界」(安藤氏)を表現しようとしたのだという。

 Waftは、日常生活ではあまり意識しない「水と空気」の存在やふるまいを可視化する、というコンセプトで開発したインスタレーション・アートである。

 天面が空いた横長のガラス製水槽内にはミスト(霧)が充填されており、水槽前を人が横切ると、天面から流入する空気の流れが変化してミストにも乱れが生じる。モーターやアクチュエータなどを使わずに、「人間の動きに伴い生じる自然の動きの美しさを強調して可視化する設計にした」(安藤氏)という。なお、ミストは水槽背面に設置した超音波方式の発生装置で生成後、水槽内に流れ込む仕組みで、ここにはパナソニックが特許出願中の技術が活用されている。

Waftの外観[クリックして拡大]

 安藤氏は「多くの人は、普段の生活の中でコケの種類を意識したり、空気のふるまいを気にしたりすることはない。それをあえて可視化することで、人間も自然の中で生きているのだということを実感できる。自然との共生の重要性を、見る人に伝えられるのではないか。今後も人と人、人と自然の関係を考えさせるモノを開発したい」と語った。なお、各作品の製品化については未定とする。

⇒その他の「イノベーションのレシピ」の記事はこちら

前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.