サブスクリプションに代表される、ソフトウェアビジネスによる収益化を製造業で実現するためのノウハウを紹介する本連載。第11回は、製造業では無償が当たり前のソフトウェアを、どのようにすれば有償のサブスクリプションに導けるかについて検討していく。
ハードウェアメーカーにとってソフトウェアとはハードウェアの付属品であり、多くが無償で提供されていた。切り離されて販売されることがなく、今ではすっかり廃れてしまった言葉なのかもしれないが、それらはいわゆる「バンドルソフトウェア」の一つだった。
今回は、このハードウェアに無償で添付されていたバンドルソフトウェアを、どのようにすれば有償のサブスクリプションにシフトできるのか、その収益化戦略について考えてみたいと思う。
⇒連載「サブスクで稼ぐ製造業のソフトウェア新時代」バックナンバー
製造業にとっては、あくまで主役はハードウェアであって、ソフトウェアはハードウェアの設定やデータの加工、あるいはハードウェアを販売するためのツールとしての役割しか期待されていなかった。
また、長きにわたってハードウェアという姿形のある「モノ」が存在することが価値の源泉であった。DX(デジタルトランスフォーメーション)が叫ばれている現代においても、目に見える形である「モノ」がないと価値が感じられないといった、悪しき習慣はベンダーサイドとエンドユーザーともにいまだ根強い。残念なことに、形のない商品やサービスにお金を払うという意識に乏しいことに理由がある。
その意識の裏にはハードウェアで莫大(ばくだい)な収益を上げてきた成功体験がある。コストは材料費のような「モノ」だと現場の人間は間違った認識を持っていることも珍しくない。そのため、ソフトウェアの開発において、外部業者にキャッシュアウトが発生しない社内の人件費をコストと考えない現場も多い。コストは材料費などの出費と同様に考えられていたためか、筆者の過去の経験で、ソフトウェアの開発コストを聞くと1円もかかっていないとの平然とした答えが返ってきたこともある。筆者としては、コスト概念の違いに驚き、複雑な感情を抱くことも少なくはなかった。
そのため、社内のリソースを使ってソフトウェアの機能改善や、新しい機能を開発したとしても、コストは全てハードウェアの売り上げで賄われることになる。ソフトウェアの開発コストが回収できていないと認識しつつも、それが問題視されることはあまりなかったためだ。
ソフトウェアをサブスクリプションで提供するためには、そのソフトウェアを製造する企業マインドから変革しなければならないだろう。ハードウェアや、その付属部品を開発しているのではない、サービスを提供するのだという意識を持たなくてはならない。
ソフトウェアは一度開発すれば終わりではなく、売って終わりでもない。長く利用してもらうためにサービスとして常にソフトウェアを常に改善し、進化させる意識を持つことが重要だ。まさに、製品中心から顧客中心の考え方にシフトしなければならないのだが、この言葉は現在においても多くの製造業で、意味をちゃんと理解しているようで、いまだに理解はなされていない。ソフトウェアビジネスについて、従来とは全く異なる認識を持たなくてはならないためだ。
米国のZuoraはサブスクリプション化されたソフトウェアは「永遠のβ版」と称している。ソフトウェアは完成することはない、常に顧客の満足を追求すべく改善と機能拡張を積み重ねていくことがサブスクリプションビジネスとしてのコアになることを認識しなくてはならない。
コスト意識を変革することも重要だ。ハードウェアのような積み上げ式のコスト計算では成り立たない。開発費用、運用費用やマーケティング費用、サポート費用などをランニングコストとして考慮しながらソフトウェアのサービスビジネスを収益化していく必要がある。
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