新型コロナウイルス感染症(COVID-19)など、製造業や流通業を取り巻く環境の“不確かさ”は高まるばかりだ。その影響を最も強く受けるのがサプライチェーンである。サプライチェーン管理の「ニューノーマル」とはどういうものなのだろうか。サプライチェーン管理で多くの実績を持ち「レジリエント・サプライチェーン」を訴える日本マイクロソフトに話を聞いた。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が世界中で猛威を振るっている。日本でも感染再拡大の兆しも見えつつあり、先行きの不透明感が高まっている。製造業や流通業において、こうした状況に最も振り回されているのがサプライチェーンである。ロックダウンなどにより部品調達の問題が発生したり、需要の急減や急増があったり、取り巻く環境の変化に追従するのが難しい状況となっている。
COVID-19に限らずこうした大規模な変化は今後も起きる可能性が高い。サプライチェーン管理にもこうした変化を織り込んだ“ニューノーマル(新常態)”が求められているといえる。では、サプライチェーン管理の“ニューノーマル”とはどういうものなのだろうか。日本マイクロソフトでサプライチェーンマネジメント(SCM)システムなどを担当する、日本マイクロソフト クラウド&ソリューション事業本部 クラウドアプリケーション統括本部 第三ビジネスソリューション営業部 倉持岳大氏と、ビジネスソリューション技術本部 梅津暁氏に話を聞いた。
―― COVID-19による感染拡大は製造業や流通業を含むサプライチェーンに大きな影響を及ぼしました。こうした影響についてどう見ていますか。
倉持氏 COVID-19については緊急対応としては一段落してきたものの、世界中で同時多発的にさまざまな動きが起こっており、「先が読めない」ということが大きな影響を及ぼしています。今後も感染拡大を抑えるための新たな制約が発生するリスクは常に付きまといます。
その中で顕在化した問題として、サプライチェーンの一極集中化による弊害にあらためて焦点が当たったと考えます。特に中国に大きく依存した問題がクローズアップされました。従来も、例えば、東日本大震災やタイの洪水など、サプライチェーンのBCP(事業継続計画)を見直す機会は何度かありました。もちろんサプライチェーンの分散化、複線化は進んでいましたが、モノづくりの効率化を追求する中で、2次請け、3次請けの企業との取引や製造場所などまでしっかり把握してコントロールすることは難しいものです。多くの企業で気付かない間に、結果として一極集中状態になっていたというのが現実ではないでしょうか。
もう1つCOVID-19で特徴的だったのは、供給と需要の両面からのダメージがあったということです。不要不急の消費や混雑を避けた消費機会の低下、巣ごもりの長期化、営業休止や時間短縮などの活動抑制により、かなりの需要がなくなってしまいました。製造業や流通業にとっては、需要と供給のバランスを保つことが非常に困難な状況が生まれているといえます。
―― こうした影響が今後も断続的に出ることを考えると、サプライチェーン管理の在り方もそれに応じたものに変化させる必要がありますね。
倉持氏 基本的には平常時と想定外発生時への備えをそれぞれで用意しておき、必要な時にすぐに切り替えられるようにしておくという発想が必要だと考えています。平常時には競争力を重視した体制とする一方で、想定外時には柔軟性重視の編成に迅速にスイッチします。マイクロソフトではこうした取り組みを取りまとめ「レジリエント・サプライチェーン」という考え方を訴えています。
「レジリエント」とは「復元力や回復力、しなやかな強さ」などの意味を持つ言葉です。レジリエント・サプライチェーンでは主に「予防+リアクト」「予見」「自動化」「自律化」という4つをベースとし、人手が介在することなく、通常時の健全な状況をできる限り長く保つことを目指します。また、緊急対応が避けられないことが分かると、人手による判断の余地を残す体制に切り替え、より早く復旧できるようにすることを目指します。これらを円滑に行うには、関わるプロセスやシステムのデジタル化とその連携が必須となります。平常時から活動データを取得して常に状況を見える化し、一元管理を進めていかなければなりません。
梅津氏 システム面で考えた場合、既存の基幹システムは平常時の効率的運用に強さを持っています。ただ、厳格に業務に沿ったルールで設定されているため、いざというときに柔軟な対応をとれないという問題が生まれます。緊急時には平常時のような効率化された仕組みをそのまま使うと、コストやロスが大きくなるようなことも起こり得ます。そのためシステム間の結合を弱め、人手の柔軟な判断や作業の余地を残すということが求められます。また、こうした人による判断に必要な情報を提示するということが必要です。緊密に連携した平常時のシステムと、疎結合化されたシステムを円滑に切り替えられるということが、レジリエント・サプライチェーンにおけるシステムとして求められると考えています。
―― 企業によってそれぞれで大きく状況が異なると思いますが、レジリエント・サプライチェーンはどういったアプローチで考えるべきなのでしょうか。
倉持氏 マイクロソフトでは次の6つのステップを提唱しています。まずステップ0としてサプライチェーン情報を蓄積・共有します。ステップ1蓄積した情報をBIツールで見える化してモニタリングします。ステップ2では、サプライチェーンの情報の意味付けとシングルソース化を行い、ステップ3では、情報共有プラットフォームを通じて、各部門間の情報交換の活性化を進めます。さらに、ステップ4において意味付けを行い、シングルソース化されたサプライチェーン情報を用いて計画の全体最適化を進めます。最終段階のステップ5では、最適計画の立案や既存システムとの連携、需要予測による発注リードタイムや在庫水準の最適化など各機能の実行を自動化・自律化を進めていきます。
現状では日本の多くの企業がステップ0やステップ1だと考えています。どの企業もデータは集めているのですが、それらのデータがさまざまな拠点や部門で閉じられた中で保管されており、企業全体やサプライチェーンをまたいで活用できる状態にはなっていません。ただ、逆に考えると、各所に分散しているデータを意味付けし、シングルソース化することができれば、活用は劇的に進むと考えています。想定外発生時の柔軟な対応はもとより、平常時においてもサプライチェーンを効率化し競争力強化を実現できます。
梅津氏 日本の製造現場には“Excel職人”と呼ばれるようなExcelを駆使してステップ1までを実現しているケースが数多く見られます。そういう意味では、多くの企業がデータを基軸にさまざまな活動を行うという素地はできているともいえます。ただ「Excelとマクロ」では、作った本人しかその仕組みの中身が分からない場面も見られます。こういう状況では、持続性を持った形で“レジリエント”が実現できているとはいえません。
ステップに合わせて全体の仕組みとして進めていくということが求められています。もちろんそこに多大な投資が伴うのでは現実性は乏しいのですが、クラウドサービスなどを活用することで、負担を小さくAIなどの最新技術も扱えるようになってきています。取り巻く環境に加え、技術的な面でも環境が整ってきたといえます。
―― レジリエント・サプライチェーンの実現をサポートすべく、マイクロソフトはどういうソリューションを用意しているのでしょうか。
倉持氏 オールマイクロソフトとしてサプライチェーンにおけるデータの管理や活用を総合的にサポートできるというのが特徴です。まずレジリエント・サプライチェーンを支える全体的な基盤となるシステムとして「Microsoft Dynamics 365 Finance」、「Dynamics 365 Supply Chain Management」(以下、Dynamics 365 Finance/SCM)というクラウドベースのERPソリューションを提供しています。「Dynamics」シリーズは「中堅中小企業向けのERP」という印象を持たれていた時期もありましたが、現在はDX(デジタルトランスフォーメーション)におけるデータ活用基盤として大手製造業や大手流通業の導入が急速に増えており、幅広い業種や規模をカバーできる“DX基盤”としての評価を高めています。併せて、サプライチェーンのデータを蓄積するデータリポジトリとしての「Common Data Service」や「Azure Data Lake Gen2」などを用意しています。
蓄積されたデータの活用についてもさまざまなアプリケーションが簡単に使える環境を用意しています。見える化や分析を行うBIツールの「Power BI」、機械学習の手法を用いて最適計画立案や最適値の算出を可能とする「Azure Machine Learning」、IoTデータを取り込む「IoT Hub」などを提供しています。
梅津氏 レジリエント・サプライチェーンを提供する上でシステム連携は1つの重要な要素ですが、オールマイクロソフトで一連の円滑な連携が可能なシステムを構築できるのが利点です。ただ、全ての業務環境をマイクロソフトだけでカバーできませんので、パートナー企業との連携やオープンソースコミュニティーとの連携なども確保しています。マイクロソフトは「Open Data Initiative」のコンセプトのもと、あくまでもユーザーがデータ活用を行いやすい環境を作るということが目指すべき点だと考えています。
レジリエント・サプライチェーンの基盤として注目されているのが「Dynamics 365 Finance/SCM」である。本稿では「平常時」と「想定外時」の説明をしたが、平常時においても、マーケティング分野における「やわらかい不確かな情報」と、従来型ERPが扱ってきた「業務系データ」をいかに統合して活用するかが大きな課題となっている。
そのプラットフォーム上でIoTを活用した製造データの収集、多様なチャネルを通じたビッグデータの蓄積、AIや機械学習による分析・活用を推進することで、これまでにない気付きを獲得し、それに基づいた新たなサービスの提案などが可能となる。こうした新しいビジネスモデルの中心に次世代ERPであるDynamics 365 Finance/SCMが位置付けられるのだ。
特に製造業においてはCRMとERPを連携することで、営業から販売・製造、購買まで一体化した平常時の業務効率化を推進するとともに、想定外発生時には柔軟性を重視した体制に迅速にスイッチできる変化への耐性を強化することができる。レジリエント・サプライチェーンのデモを含めて詳しい内容を知りたい方は、ぜひ下記のウェビナーを聴講することをお勧めする。
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アイティメディア営業企画/制作:MONOist 編集部/掲載内容有効期限:2021年1月8日