デジタルツインで加速する設計環境のデジタル変革、何ができるようになるのか設計環境のデジタル変革

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大により、設計部門にもさまざまな影響が生まれている。こうした中で日本の製造業は「新たな設計環境」をどう描くべきなのだろうか。アンシス・ジャパン カントリーマネジャー大谷修造氏と日本マイクロソフト 執行役員 専務 エンタープライズ事業本部長の高橋美波氏による対談から“ニューノーマル”における設計環境の姿について紹介する。

» 2020年09月23日 10時00分 公開
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 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大により、製造業のあらゆる業務が変革を余儀なくされている。製造現場やサプライチェーンマネジメントなどへの影響はもちろんだが、設計部門にもさまざまな影響が生まれている。

 COVID-19への対応では、仕様変更などの緊急対応や、通常業務に戻すためのリモートワーク環境の整備などさまざまな取り組みが進んでいるが、人の移動が今後も制限され続けることが予測される中では“ニューノーマル(新常態)”としてデジタル技術をベースとした新たな働き方の構築が急務であるといえる。

 こうした中で日本の製造業は「新たな設計環境」をどう描くべきなのだろうか。2020年9月9〜11日に開催されたオンラインイベント「Ansys INNOVATION CONFERENCE 2020」では、アンシス・ジャパン カントリーマネジャー大谷修造氏と日本マイクロソフト 執行役員 専務 エンタープライズ事業本部長の高橋美波氏が「クラウドを活用したシミュレーション環境の変革」をテーマに対談し“ニューノーマル”における設計環境の姿について語り合った。

 Ansys(以下、アンシス)とMicrosoft(以下、マイクロソフト)はグローバルで製造業のデジタルトランスフォーメーション(DX)を支援するために協業を行っている。本稿では、この対談から両社の協業における取り組みと「理想の設計環境の姿」について紹介する。

COVID-19の影響と3つのフェーズ

―― COVID-19で製造業も大きな影響を受けました。現状をどう見ていますか。

高橋氏 主に3つの視点で考えています。1つ目は事業継続性を担保する緊急的な対応を確保するということ、2つ目は事業をどう通常ペースに戻すのかという事業回復という視点、そして3つ目が新たな環境に最適化した働き方を作る“ニューノーマル”の形成という視点です。

photo 日本マイクロソフトの高橋氏

 1つ目の事業継続の視点でいくと、リモートワークやサプライチェーンの安定化などが挙げられます。2つ目の事業回復の視点では、生産性改善やフィールドサービスの支援などがあります。そして3つ目の“ニューノーマル”の視点では、ロボット化や自動化、シミュレーション活用による現場負担の軽減、人手作業の軽減など、新たな業務フレームワークの実現が挙げられます。

 マイクロソフトとしては、リモートワークが広がったことにより、コラボレーションツール「Microsoft Teams」がグローバルでは7500万ユーザーを獲得するなど大きく拡大しています。国内でも内閣官房新型コロナウイルス感染症対策推進室と「新型コロナウイルス感染症対策官民連携プロジェクト」を実施するなど、さまざまな取り組みを進めてきました。クラウドプラットフォームである「Microsoft Azure」を含めデジタル技術で貢献できることは大きいと感じています。

photo アンシス・ジャパンの大谷氏

大谷氏 COVID-19によって考えなければならない3つのフェーズは高橋さんのお話の通りだと考えます。アンシスとしては、メインユーザーである研究開発部門におけるエンジニアリングプロジェクトの継続性を意識してさまざまな対策に取り組んできました。研究開発領域は製造業にとって生命線であり、リモートワークになったとしても継続できるように支援するのが当社の役割だと考えています。

 具体的な取り組みとしては、在宅で作業するエンジニアおよび設計者を対象とした一連の顧客支援プログラムになります。自宅でアンシス製品を使用するための「Super Key」、 当社のe-Training サービス 「Ansys Learning Hub」利用権の無償提供、ライセンス規約の一部緩和などを実施しました。また、リモートアクセスによるシミュレーションを多用した設計解析で発生するネットワークの混雑を緩和する工夫なども必要だと考えます。

photo コロナ禍におけるフェーズと取り組むべきこと(クリックで拡大)出典:日本マイクロソフト

設計開発環境におけるクラウドの持つ意味

―― COVID-19に対する3つのフェーズでもデジタル技術やその基盤としてのクラウドの活用などは大きく貢献しています。クラウド化は今後ますます加速するということですが、製品開発環境に具体的にどのような影響や変化を与えると考えていますか。

高橋氏 クラウド化のポイントは、開発プロセスにかかわるリソースをいつでも、必要な分だけ、迅速に利用可能になることだと考えます。「所有」する場合は使用しない期間がコストになり、またAI(人工知能)技術など、先進技術に適時的に対応が難しい面がありますが、クラウドであれば常に最新の技術を必要な分だけ使うことができます。IT保守の面でも人的リソースを割り当てる必要がなくなる利点もあります。主業務に集中できる環境を作る上で、クラウドが果たす役割は大きいと考えます。

大谷氏 アンシスとしては、エンジニアリングに必要となるシミュレーション環境のクラウド展開は非常に重要だと考えています。シミュレーションには膨大な計算能力が必要になりますが、オンプレミス環境であればどうしても保有ハードウェアの能力による制約を受けることになります。開発が重なる期間であれば、十分なシミュレーションリソースが確保できないことも今までは起こっていました。製造業で全てをクラウドに移行するという動きはまだ日本では少ないと思いますが、特に計算コストが高くなりがちな流体解析や衝突解析においては、オンプレミスとクラウドのハイブリッドによる環境が主流になると考えています。

 また、COVID-19で顕在化した通り、在宅勤務を含め、場所を選ばない設計・研究開発体制の構築は今後必須となってくると見ています。その点でも1カ所のサーバにリモートアクセスするというのは、開発効率面でも難しくなってきます。「国内外の各地にある研究開発拠点間で設計データを共有する」や「グローバルチームでの開発プロジェクトを進める」などを考えた場合でもクラウド化なしには考えられません。クラウドの価値はさらに重要になると考えます。

高橋氏 今のお話でもクラウドによるデータの共有化という話がありましたが、これがクラウド活用でも重要になるポイントだと考えています。同じMicrosoft Azure上でデータを共有化し、さらに共通化を進めていくことで、それぞれのデータやシステムの連携を進められるようになります。同じデータ基盤上でさまざまなアプリケーションを組み合わせて活用することで、今まで見えなかったものが見えるようになり、できなかったことができるようになり、プロセスそのものが変わっていくことになります。例えば、設計データとIoTデータ、業務データなども同じ基盤上に集約することで、同時に活用できるようになります。

大谷氏 アンシスとしてクラウド基盤に最も期待しているのがその点です。構造解析や流体解析といったシミュレーションの目的は物理現象の解明ですが、それを大きく変えることができます。シミュレーションの境界条件入力で、顧客の求める要件やコストファクターのデータを含めることなども可能となります。あるいは実機のセンサーデータを直接入力し、AIによる最適化設計ツールに接続して、より精度の高いシミュレーション結果を設計にフィードバックする新しい設計開発ワークフローが実現できると見ています。シミュレーションにより設計者が想像もできなかった結果を導き出すことができるかもしれません。これこそが本来、われわれがシミュレーションで実現したかったことでもあります。

アンシスとマイクロソフトの協業で目指すもの

―― マイクロソフトとアンシスはグローバルでパートナーシップを結び、製造業のDXを推進しています。あらためてその意義について教えてください。

大谷氏 マイクロソフトはMicrosoft Azureをはじめとする膨大なテクノロジー基盤を持つことに加え業務系ITとしての豊富な知見を持っています。一方で、アンシスはエンジニアリングIT領域で深い知見を持つ企業です。両社の知見を組み合わせ、業務系ITとエンジニアリングITが融合することで、製品ライフサイクル全体で、業務に携わる全ての人がより容易にシミュレーション技術を活用できるようになると考えています。現在は、設計業務における試作工数削減や性能評価のフロントローディングなどが進んでいますが、設計部門だけにとどまらず、経営や企画、製造、サービス部門まで全ての領域をカバーし、新たな業務改革の可能性を示すことができるようになると考えています。

高橋氏 マイクロソフトは従来汎用的な業務全体を対象としたITの提供を中心としてきました。しかし、テクノロジー基盤を提供する企業として、モノづくりを含めた業務領域のソリューションを強化してきています。ただ、こうした領域は1社で全てカバーすることは不可能です。

 アンシスはグローバルにエンジニアリングシミュレーションを提供する企業で、主要な物理モデルによるシミュレーションプラットフォームを提供しています。このプラットフォームをMicrosoft Azureと連携して提供することで、分断されていた業務ITとエンジニアリングITを融合することが可能となります。コロナ禍で激変するビジネス環境に対応できる「モノづくり」ソリューションを、両社の協業によりワンストップで提供できると考えています。こうした将来像を背景にデジタルツインや自動運転領域でも協業を深めているところです。

photo アンシスとマイクロソフトの協業の狙い(クリックで拡大)出典:日本マイクロソフト

デジタルツインや自動運転開発で示す価値

―― デジタルツインや自動運転領域では具体的にはどういう取り組みを進めているのでしょうか。

大谷氏 IoT(モノのインターネット)の登場により、広範囲に分散されたモノ(実機)の情報を詳細かつリアルタイムで取得できるようになりました。これにより、真の意味で「デジタルツイン」が実現できるようになってきています。デジタルツインは“デジタルの双子”という意味で、フィジカル空間のデータを使い、デジタル空間にフィジカル空間と同じ環境を作り出すということです。

 デジタルツインの真価は、作ったデジタル空間でシミュレーションを行うことで、フィジカル空間に影響を与えることなく、精緻な予測ができるようになることです。従来は主に設計開発で利用されてきたシミュレーション技術が、IoTを介したデジタルツインによって、製造や保守、運用などでも利用可能になります。こうした「デジタルツイン」の実現をアンシスとマイクロソフトの協力で進めています。

 例えば、アンシスのシミュレーションベースのデジタルツインとAzure IoTソリューションを組み合わせれば、モーター内部の温度など実際のセンサーでは計測が困難なデータを監視することなども可能となります。その問題の解決策をWhat-if解析で検討したり、新たな知見を設計開発に反映したりすることが可能となります。さらにサイバー空間に実装されたシミュレーションの結果を現実世界でそのまま利用して実機を制御することもできるようになると考えています。

 これらを象徴する取り組みが、自動運転技術の開発だと考えています。自動運転車が公道を安全に走行するためには、数十億マイルに及ぶ実車による走行テストが必要です。これを全て実際に行おうとすると、市場への投入が実質的に不可能となります。つまり、シミュレーションが必須になるのです。

 マイクロソフトが提供する高度なデータアナリティクス技術やMicrosoft Azureによるセンサーデータの収集と統合的管理機能に、アンシスが提供するシミュレーションツールなどを組み合わせることにより、仮想的な走行試験が可能な統合プラットフォームを実現できます。これにより、機能安全を確保するシステム開発や検証期間短縮に貢献できると考えています。

高橋氏 マイクロソフトはこの数年、欧米の自動車メーカーに対してさまざまなサービスツールを提供してきました。自動運転開発領域では、扱うデータサイズが急速に増大しており、その予測は正確にできません。そのため、データの変動に柔軟に対応でき、規模感のあるデータインフラが必要であり、その点を支援してきました。一部では数年間かかるプロジェクトを数カ月に低減できた例もあります。ただ、自動運転走行の開発支援を行うには、データインフラだけでなく、シミュレーションを含めた、さまざまなアプリケーションとの連携が必要になります。その意味でアンシスとも緊密に協力しています。

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提供:日本マイクロソフト株式会社
アイティメディア営業企画/制作:MONOist 編集部/掲載内容有効期限:2021年4月25日