遠隔操作ロボット「Model-T」を開発したロボットベンチャーTelexistence。同社は現在、ローソンやファミリーマートなど小売業界への遠隔操作技術の展開を積極的に進めている。遠隔操作ロボットにはどのような可能性があるのだろうか。また、Telexistenceは今後どのような事業展開を構想しているのか。同社の担当者に尋ねた。
2020年9月14日、最先端のデジタル技術やロボットを多数導入したスマートビル「東京ポートシティ竹芝」が開業した。それと同タイミングで、ロボットがバックヤードで働いてくコンビニ「ローソン東京ポートシティ竹芝店(以下、東京ポートシティ竹芝店)」もオープンした。同店では、人間の従業員に代わって半自立型遠隔操作ロボット「Model-T」が棚の後ろ側からペットボトル飲料などの商品を、什器(じゅうき)に補充する陳列作業を行う。ロボットが働く様子は店舗の外側から窓ガラス越しに見学可能だ。
このModel-Tを開発したロボットベンチャーがTelexistenceである。同社は現在、ローソンだけでなくファミリーマートとも協業しており、遠隔操作技術を活用した小売店舗における省人化への取り組みを積極的に推進している。
Model-Tのような遠隔操作ロボットを導入することで、小売業界にはどのような利点があるのか。また、そもそも遠隔操作ロボット自身にはどのような可能性があり、Telexistenceはそれらを用いてどのような事業展開を考えているのか。TelexistenceでHead of Logistics & Warehouse Roboticsを務める村木茂大氏に話を聞いた。
Model-Tはコンビニのバックヤードなど、比較的作業スペースが狭い空間でも稼働できるように設計された半自立型遠隔操作ロボットだ。胴体とアームで合わせて22自由度の関節を実装する。真空吸引とグリップの両方に対応したロボットハンド「Andrea-Yamaura End Effector」を搭載しており、これによって商品を傷つけたりつぶしたりすることなく、最適な力で把持して、什器に陳列する。
Model-Tの操作はHMD(ヘッドマウントディスプレイ)とコントローラーを装着した従業員が担当する。作業員自身は東京ポートシティ竹芝のビル外の部屋から遠隔で操縦を行う。
「操縦者がいるため完全な『業務自動化』にはならないが、従業員を現場に直接配置せずに済むので『省人化』には貢献する。国内の小売業界は全体的に人手不足が続く状況にある。Model-Tを導入すれば、従業員が不足している店舗の周辺地域から離れた場所で人材を採用し、不足している店舗にModel-Tを通じて配属できるようになるため、問題の解決に一定程度の効果を与える。『場所の制約』から従業員を解放できる」(村木氏)
今回のインタビューは、東京ポートシティ竹芝店の開店から2週間程度たった、2020年9月下旬に実施した。店舗運営の経過状況を村木氏に尋ねたところ「現時点ではPDCAサイクルを非常に高速で回しており、人間とロボットの適切な業務の切り分けに注力しているところだ」と答えた。
PDCAサイクルを高速化できた要因の1つとして、Telexistenceが東京ポートシティ竹芝店の直接的な経営者であるという点が挙げられる。Telexistenceの子会社とローソンの間でFC(フランチャイズ)契約を締結することで実現した。村木氏は「他企業が店舗経営に参加すると、従業員の業務内容やロボットの稼働時間、什器の形状などを変更したくても、そのたびに他企業の説得に多くの時間を割かなければならなくなる。これでは改善のための機動性が失われてしまう。当社にとって、今回の試みは、Model-Tの作業スピードや作業精度、カバー率を人間の従業員並みに向上させることが目的だ。店舗の売り上げ最大化は最終目標ではない。そのため、経営リスクはあるが、気軽にアイデアを検証できる環境には意味がある」と直接経営の意義を指摘した。
将来的には東京ポートシティ竹芝店に導入したModel-Tを中心とするロボットシステムを外販する予定もある。外販時にはロボットSIerと連携して販売するのではなく、Telexistenceによる直接販売などを想定する。具体的な販売金額は現時点では未定だが「例えば、棚出し作業であればロボットによる1回当たりのつかみ動作を単価とするような料金体系になるかもしれない」(村木氏)と言う。
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