遠隔で現場作業を、デジタル化で建設現場のテレワーク化目指すコベルコ建機の挑戦デジタル変革がもたらす働き方

ワークスタイル変革の流れでデジタル技術により遠隔地でも自由に働けるテレワーク化が進んでいる。新型コロナウイルス感染症への対応でも注目を集めたテレワークだが、この流れに取り残された形となっているのが、実際にモノを動かす「現場」である。しかし、この「現場のテレワーク化」に向けて独自のシステムを開発しているのが建設機械メーカーのコベルコ建機だ。同社の取り組みを紹介する。

» 2020年06月03日 10時00分 公開
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 現場作業のテレワーク化はあり得ない――。製造業や建設業など「強い現場」を持つ業界では、「現地、現物、現実」の3現主義に示されるように、まずはその場にいることが生産性や品質の基本になっているからだ。

 しかし、こうした業界の常識にデジタル技術を駆使して挑戦しているのが、建設機械メーカーのコベルコ建機である。なぜ、コベルコ建機は「現場のテレワーク化」に挑むのか。また、実現に向けてどういう課題があるのだろうか。コベルコ建機が開発を進めている、働く人を中心とした建設現場のテレワークシステム「K-DIVE CONCEPT」実現への取り組みを紹介する。

誰でも働ける建設現場の実現を

 建設業界では、ここ最近大きな課題が顕在化し、危機感が高まっている。まずは慢性的な人手不足がある。国土交通省が発表した「建設業の現状について」によれば、技能労働者や管理・事務などを含めた建設業の従事者は2006年に559万人だったが、10年後の2016年には492万人にまで減少した。最大のボリュームゾーンである技能労働者数が、375万人から326万人へと10%以上も減少しており、深刻な状況となっている。

photo 建設業就業者の現状(クリックで拡大)出典:国土交通省

 さらに、生産性の低さも問題視されている。製造業などと同様、現場の柔軟さが大きな強みとなっている日本の建設業界は、「人の強み」を最大活用することを志向したため、ICTを活用した生産性向上や業務効率化の取り組みが、海外と比べても遅れている。GPS測量やドローン測量など、先進技術を次々に取り込もうとする海外に対し、日本の建設業界は消極的な姿勢で、生産性に差が開く状況が生まれていた。

 加えて、建設現場の過酷な労働環境がある。肉体的に大きな負担がかかるうえ、建設機械を扱う作業には危険も伴う。それでいながら工期の遅れは許されないことから長時間労働が常態化しており、休日も少ない。こうしたことから「建設業界で働きたい」と考える若者は、ますます減っているという実情である。

 こうした状況を打開するために、政府も建設生産システム全体の生産性向上を図り、魅力ある建設現場を目指す「i-Construction」への取り組みを進めるなど、ICT(情報通信技術)を積極的に導入しようという動きがようやく高まってきた。

photo コベルコ建機の広島本社(クリックで拡大)出典:コベルコ建機

 これらの動きを受けて、変革への舵を切り始めたのがコベルコ建機である。コベルコ建機は、神戸製鋼所のグループ会社で、建設機械の生産、販売、サービスを行う。主に油圧ショベル、クレーン、環境リサイクル機械を主力製品とし、製品カラーにブルーグリーンを採用していることが特徴だ。国内外8か所の生産拠点を持ち、世界中の建設事業者に対して製品を展開している。

 同社はIoT(モノのインターネット)時代に向けて、これまでの“モノ”中心のビジネスから、新たなユーザー体験やサービスなどの“コト”を中心としたビジネスモデルへの転換を推進している。このデジタルトランスフォーメーション(DX)戦略の一翼を担う取り組みとして、建設業界における「誰でも働ける現場づくり」を推進しているのだ。

ショベルなどの建設機械の遠隔操縦を実現する

photo コベルコ建機 企画本部 新事業推進部の部長で、広島大学 先進理工系科学研究科の客員教授を務める山崎洋一郎氏

 コベルコ建機が目指す「誰でも働ける現場づくり」とは、どういうものなのだろうか。同社 企画本部 新事業推進部の部長であり、広島大学 先進理工系科学研究科の客員教授を務める山崎洋一郎氏は「われわれが掲げているのは『建設現場で働く人の働き方を大きく変え、豊かな生活、社会を実現する』というビジョンです。具体的にはAIやIoTなどのテクノロジーを活用し、建設機械の操縦を実機に搭乗しているのと同等レベルにリモート(遠隔)化することで、より快適かつ安全に働くことができる作業環境を実現します。さらに、働く時間と場所の制約を解消するテレワーク化、作業内容とオペレータースキルの評価・マッチングなどを実現するプラットフォームを提供していく計画です」と語る。

 建設機械におけるICT活用といえば、ICT建機による自動運転や建設現場の無人化などに関心が集まっているが、コベルコ建機が目指しているのは、あくまでも「建設現場で働く人」に主軸を置いているのが最大のポイントだ。山崎氏は「人を中心とした建設現場の働き方改革を進めるというのが、当社の特徴です。生産性や安全性の向上、労働者減少など解決しなければならない課題があることは事実ですが、それがそのまま無人化へ進めばよいというものではありません。人々が働くことによって得られる豊かさややりがいなどを確保した上で効率化を進めていくことが重要です」と考えを述べている。

 そして、この構想を実現すべくコベルコ建機が現在、開発を推進しているのが、ショベルなどの建設機械の遠隔操縦を可能とする「K-DIVE CONCEPT」というシステムである。原点となったのは、2015年に開発部門や営業部門の若手が集まって行われたアイデアソンで、5〜10年後の未来を考えるプロジェクトの中から発案されたという。2016年に専任組織を設立し、広島大学との産学連携の枠組みやオープンイノベーションなどを推進しながら開発研究を進めてきた。

 「以前から災害地などで遠隔操縦が可能なショベルは存在していましたが、いわゆる“ラジコン”だったことから操縦が難しく、あくまでも非常用での扱いでした。『K-DIVE CONCEPT』が目指したのは建設現場のテレワーク化です。建設現場で機械を扱っている技能労働者が実機に搭乗しているのと同様に遠隔操縦を行い、日常的に仕事をこなせるようにすることを描きました。そのためには人と建設機械と建設現場をシームレスにつなぐ多岐にわたる技術開発やシステム構築が必要でした」と山崎氏は語る。

photo 「K-DIVE CONCEPT」による遠隔操縦のデモの様子(クリックで拡大)出典:コベルコ建機

協業パートナーとしてマイクロソフトを選択

 しかし、建設機械メーカーであるコベルコ建機にとって、建設業界や建設機械の知識はあっても、「K-DIVE CONCEPT」に必須となるICTのノウハウが蓄積されているわけではない。そこで、コベルコ建機では、オープンイノベーションの発想の下、協業先を募ることにしたという。

 2017年11月に国内展示会、続いて2018年4月にフランスのINTERMATでK-DIVE CONCEPTを展示し、多くの建設関係者の関心を集めた。さらに2018年8月のCSPI EXPO(建設・測量生産性向上展)でロードマップの公表、2019年4月にドイツのBAUMA(国際建設機械・建設資材製造機械・鉱業機械・建設車輛・関連機器専門見本市)で初めての実演展示と、積極的な広報を進めた。また、関連の展示会にも幅広く出席し、協業先となり得る企業との話を進めていった。

 そうした中で出会い、意気投合したのがマイクロソフトだったという。「マイクロソフトとは、2018年4月にドイツで開催されたハノーバーメッセで初めてコンタクトを取りました。ハノーバーメッセで各社のブースに飛び込みで相談を持ち掛けたところ、『誰もが働ける建設現場』という私たちのコンセプトに共感し、最も真剣に話を聞いていただいたのがマイクロソフトでした。機能実現に必要な最新テクノロジーは言うまでもなく、マイクロソフトで働いている人々のグロースマインドセットやユーザーの成長を支援するアドバイザリーサービスは非常に魅力的であり、信頼できるパートナーだと感じました」と山崎氏は当時を振り返る。

photo 「建設・測量生産性向上展2019」の会場で協業を発表したコベルコ建機の山崎洋一郎氏(左)と日本マイクロソフトの鈴木貴雄氏(右)(クリックで拡大)

 その後、話をさらに詰め、2019年5月22日に正式に協業を発表した。両社の協業では、マイクロソフトが運営するクラウド基盤「Microsoft Azure」上に、具体的に建設現場向けの3つのプラットフォーム構築を目指している。

 1つ目は「コミュニケーション基盤」である。建設現場の労働者の働き方改革および生産性向上を実現し、技能や出来高に基づくリソースのマッチングを最適化するというものだ。2つ目は「遠隔オペレーション基盤」だ。コグニティブサービスによる画像認識や音声認識、ジェスチャー操縦、オペレーション分析などの他、天候データ分析による出来高予測、AIを活用した安全衛生と効率向上を実現することを目指す。3つ目は「アジャイル開発基盤」である。開発期間の大幅短縮を図るとともに、継続的なデジタル変革を推進する開発プロセスと体制を確立する。

 「建設機械の遠隔操縦を実現する上で重要なのは、建設機械と遠隔コックピットというモノとモノをつなぐだけではなく、いかにして『建設機械と人と現場をつなぐか』にあります。マイクロソフトには組織や従業員のワークスタイルをどのように変えていくべきかというオフィス分野での働き方改革で豊富な実績があります。この知見を建設現場に当てはめていくことで新たなものが生まれると考えました」と山崎氏は語っている。

photo 「K-DIVE CONCEPT」のシステム構成図(クリックで拡大)出典:コベルコ建機

「K-DIVE CONCEPT」の実現に向けた3つのステップ

 「K-DIVE CONCEPT」は2025年の実用化を目指し、次の3つのステップで開発を進めている。

 STEP1では、ローカル通信環境での「近距離」遠隔操縦を実現する。Wi-Fiや無線通信を利用し、解体業者のスクラップヤードなど隣接現場の建設機械を、現場事務所から操縦できるようにする。

 STEP2では、光ファイバーケーブルによる通信網を中心とした通信ネットワーク環境を利用した「長距離」遠隔操縦および遠隔現場からの機械管理を実現する。

 そしてSTEP3で、最終系となる「建機テレワークサービス」を実現する。遠隔オペレーターと施工管理者をつなぐネットワークシステム、リアルタイムでの現場情報の確認や出来高管理などの機能を実装し、技能労働者にあった作業と現場で求められる作業レベルをマッチングする。また、遠隔コックピットを建設機械操縦のバーチャル教習所としての活用も計画している。

photo 「K-DIVE CONCEPT」の開発ステップ(クリックで拡大)出典:コベルコ建機

 現在はSTEP1が始まったばかりであるが、コベルコ建機では現場で稼働する建設機械の振動やシートの傾きなどの“体感”を遠隔で伝えるコックピットを広島大学やパートナーと共に開発。そして、マイクロソフトと共同で、特定顧客の協力を得て実証実験を進めているところだという。

「当社の持つ建設機械およびその作業性に関する技術とマイクロソフトのノウハウを、最適に融合していくのかが重要なポイントとなります。実証実験においても、開発の手法などさまざまな知見を得ることができています。また、技術的にもエッジ側で処理する部分、クラウド側で処理する部分の切り分けや、システム最適化など両社の知見を突き合わせて議論を重ねています」と山崎氏は語る。

アジャイル開発が刺激に

photo コベルコ建機 企画本部 新事業推進部 新事業テクニカルサポートグループ グループ長の佐伯誠司氏

 この共同プロジェクトは、コベルコ建機社内のエンジニアにも大きな刺激を与えている。同社 企画本部 新事業推進部 新事業テクニカルサポートグループ グループ長の佐伯誠司氏は「われわれにとって、IT企業の開発エンジニアと本格的な共同開発を行うのは初めての経験です。特に遠隔操縦コックピットに人と現場と建設機械をつなぐ機能では、実際に操縦する技能労働者や現場監督など当事者の評価を迅速に反映していくアジャイル開発の進め方はまさに目から鱗(うろこ)のようでした。また、システム結合の考え方など、非常に多くのことを学ばせていただいています。社内のエンジニアにとっても非常に大きな成長の機会となっています」と成果について語っている。

 ローカル通信環境での近距離遠隔操縦を実現するSTEP1の「K-DIVE CONCEPT」は、2022年を目標に実用サービスとしての提供をスタートする計画だ。「一足飛びに建設現場のテレワーク化が進むかというとそこは難しいとは考えています。まずは作業内容が比較的に簡単な建設現場、あるいは固定の現場設備や運用管理体制がある顧客から導入が進むと見込んでいます。できる限り多くの現場の方々に『K-DIVE CONCEPT』を使っていただき、その価値を体験してほしいのです。そうした中から社会的な広がりが始まれば、最終目標とする建機テレワークサービスの世界も徐々に確立されていくと考えています」と山崎氏は語る。

 建設現場において建設機械に長時間乗ったままの1人きりの作業は、身体的にも心理的にも大きな負担を強いられる。この過酷な作業から脱却し、オペレーターが快適なオフィスで関係者と会話しながら、離れた現場の複数の建設機械を操縦するといった効率的な作業が当たり前となったならば、日本の建設業は大きな変貌を遂げていくことになるだろう。その実現にはまだまだ長い道のりが必要となるが、既に存在する技術で実現可能な道筋は見えている。ただ、1社だけではこの道のりを踏破することは難しい。ICTだけでなく、さまざまなワークスタイル変革の知見を持つマイクロソフトの伴走が、コベルコ建機の描く建設業界の新たな姿の実現に対し、大きな力を与えたといえるだろう。

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アイティメディア営業企画/制作:MONOist 編集部/掲載内容有効期限:2020年7月2日