日立建機のお手軽土量計測サービス、なぜ半年で開発できたのかアジャイル開発

日立建機は、国土交通省が推進する「i-Construction」に対応したソリューション「Solution Linkage」の開発に取り組んでいる。その最新ラインアップである、スマートフォンを使った土量計測サービス「Solution Linkage Survey」は実質半年で開発することができた。この短期間での開発はどのようにして実現したのだろうか。

» 2019年11月25日 10時00分 公開
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 土木・建設業界における現場作業の自動化や省力化、スマート化を目指して、ICT施工の取り組みを後押しすべく、国土交通省は「i-Construction(アイ・コンストラクション)」という政策を打ち出した。

 橋梁やトンネル、ダムなどの公共工事の現場で測量用途のドローンを投入し、施工や検査に至る建設プロセス全体を3Dモデルでつないだ新たな建設手法を導入し、従来の3K(きつい、きたない、危険)のイメージを払拭し、全国の建設現場を新3K(給与が良い、休暇がとれる、希望がもてる)の魅力ある職場に劇的に改善する。これにより多様な人材を業界に呼び込み、生産性向上と共に人手不足も解消するというのがi-Constructionの概要だ。ベースとなっているのは、建築分野におけるBIM(Building Information Modeling)や土木分野におけるCIM(Construction Information Modeling)の取り組みである。いずれも3Dモデルを最大限に活用するもので、調査・測量〜設計〜施工〜維持管理のライフサイクルにおける業務の効率化を実現する。

日立建機の田中一博氏 日立建機 顧客ソリューション本部 ソリューション事業センタ 戦略企画部 主任の田中一博氏

 このi-Constructionの世界に向けて積極的な動きを見せているのが日立建機だ。同社 顧客ソリューション本部 ソリューション事業センタ 戦略企画部 主任の田中一博氏は、「日立建機はその名の通り、もともとショベルやホイールローダ、ダンプトラックなどの建設機械のメーカーですが、現在はそれだけではありません。長年の製造で培ってきたコア技術にICTやIoTを中心としたオープンイノベーションのノウハウを融合し、『安全性向上』『生産性向上』『ライフサイクルコスト低減』といった課題を、お客さまとの協創で解決するソリューション事業を強化しています」と語る。

 そして、このビジネス戦略を体現したのが「Solution Linkage」である。ユーザー管理やデータ管理を担うクラウドベースのプラットフォーム「Solution Linkage Cloud」を中核に展開するICT施工のソリューション群だ。例えば、山間部などで携帯電話の電波が届きづらい施工現場にWi-Fiをポップ(中継)しながらつなぐことでモバイル通信環境を改善・拡張する「Solution Linkage Wi-Fi」。スマートフォンや車載専用GNSS端末などを活用し、施工現場の見える化や進捗管理、指定エリアへの進入通知などを実現する「Solution Linkage Mobile」といったソリューションが既に提供されている。

建設現場で“手軽”に“おおよそ”の土量を把握できる

 2019年4月、このSolution Linkageの新たなラインアップとして「Solution Linkage Survey」が加わった。スマートフォンの動画撮影機能を活用し、土木工事の作業により発生する盛り土の体積(土量)を、簡単かつ定量的に把握することができるクラウドサービスだ。

 日立グループの総力を結集する「One Hitachi」の理念に基づき、当初からSolution Linkageを共同開発してきた日立建機と日立ソリューションズの両社は、新たに組織横断のワーキンググループを立ち上げ、「次にどんなソリューションを展開すべきか」を検討してきた。そこから生まれたさまざまなアイデアの中からSolution Linkage Surveyが実現した。

日立ソリューションズの賀川義昭氏 日立ソリューションズ ビジネスコラボレーション本部 空間情報ソリューション開発部 主任技師の賀川義昭氏

 日立ソリューションズ ビジネスコラボレーション本部 空間情報ソリューション開発部 主任技師の賀川義昭氏は、「日立建機が強みとする施工現場のノウハウおよび現場ニーズの把握力と、日立ソリューションズの空間・位置情報に対する技術力や課題解決力を組み合わせた協創によりSolution Linkage Surveyは開発されました。通常では専用機器やそれを扱う知識とスキル、長年の経験が必要とされる土量の計測を、高精度な位置情報の取得を可能とする『ネットワーク型RTK測位法(VRS方式)』と呼ばれる技術とともに、クラウドコンピューティングを活用した専用のアプリケーションで実現します」と説明する。

 では実際にSolution Linkage Surveyは、建設現場でどのような形で役立つのだろうか。

 土木・建設工事において進捗管理は極めて重要であり、その一環として土量を日々定量的に把握する必要がある。しかしながら、これまでは現場管理者の目視(目分量)により定性的に管理されてきたのが実情だ。

 ICT施工の進展に伴い、昨今では起工測量や検査などの工程ではドローンやレーザースキャナーを用いた計測が行われるようになったが、日々の進捗管理ではこれらの手法はコストや手間がかかりすぎるという問題がある。

 田中氏は「Solution Linkage Surveyは、熟練者による目視と専門機器のちょうど中間で日常的な計測を実現します。“手軽”に“おおよそ”の土量を把握できるのがポイントです」と訴える。

「Solution Linkage Survey」のサービスコンセプト 「Solution Linkage Survey」のサービスコンセプト

自治体と連携した災害査定ツールとしても活用が広がる

 さらに詳しくSolution Linkage Surveyの特徴を見ていこう。まず、Solution Linkage Surveyを利用するために必要な機材とサービスは「Android OS搭載のスマートフォン」「高精度な撮影位置情報を取得するためのGNSSアンテナ」「スマートフォングリップ」「USB変換ケーブル」「VRSサービス(cm精度の測位が可能な仮想基準点方式による位置データ補正サービス)」の5つになる。

 これらの中に特殊なものは1つもなく、どれも一般的なルートで入手できるものばかりだ。あとは、Solution Linkage Surveyをサービス契約してアカウントを入手し、スマートフォンにSolution Linkage Surveyのアプリをダウンロード&インストールすれば、すぐにサービスを利用することができる。

 また、Solution Linkage Surveyによる計測は極めて簡単なことも大きな特徴になっている。まずは、位置情報を取得しながら測量したい対象物の周囲を歩いて回り、スマートフォンで動画撮影する。次に、撮影した動画を位置情報付き画像(静止画)へ変換。そして、この画像データを「Microsoft Azure」を基盤とするクラウドへアップロードすれば、写真測量の原理を使って3次元モデルが生成される。最後に、3次元モデルをクラウドからダウンロードすれば、総計1時間以内で“おおよそ”の土量を把握できるのである。

「Solution Linkage Survey」の利用イメージ 「Solution Linkage Survey」の利用イメージ

 処理可能な画像は400枚まで、対象の大きさは約80m四方まで、撮影時間は約7分、移動距離は約320m、対象の大きさは約1万m3といった制約はあるものの、道路現場や残土処理場、ストックヤード、鉄くず・砕石・産業廃棄物の他、圃場現場や災害査定などのシーンでも利用できる。

「Solution Linkage Survey」の用途 土木・建設現場だけにとどまらない「Solution Linkage Survey」の用途。2018年7月に発生した西日本豪雨の災害査定で試行された

 実際、Solution Linkage Surveyは多くの自治体と連携した災害査定ツールとして活用が広がりつつある。日立建機 顧客ソリューション本部 ソリューション事業センタ 戦略企画部の横尾あけみ氏は、「一例として、西日本豪雨の災害査定において実証実験を行いました。2019年度から始まった実際の復旧工事でも土量計測ツールとしてご利用いただき、他の自治体の皆さまにも利用をお薦めしています」と語る。

日立建機の横尾あけみ氏 日立建機 顧客ソリューション本部 ソリューション事業センタ 戦略企画部の横尾あけみ氏。「Solution Linkage Survey」は、このようにGNSSアンテナをつなげたスマートフォンをスマートフォングリップに装着して、対象物となる土砂などを撮影するだけでおおよその体積を計測できる

アジャイル開発を支えた「Microsoft Azure」と「Pivotal Cloud Foundry」

 Solution Linkage Surveyのサービス展開でもう1つ注目したいのが、アジャイルなシステム開発だ。2018年夏に構築をスタートし、2019年4月にサービスインという実質わずか半年程度の短期間でリリースを実現したのである。

 背景にあったのが、Microsoft AzureとPivotal Cloud Foundryの活用である。IoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)などのICT活用が加速する中で、急速に変化していく顧客ニーズに迅速に応えることが、自社の競争力や収益力を左右する重要な鍵となっている。このデジタル時代を勝ち抜くためには、事業のアイデアを月単位や年単位ではなく、数日から数週間のスピードで市場へデリバリーし、市場から得られるフィードバックを反映して、サービス内容を充実させることが重要だ。また、これを実現するために、新たなサービスを迅速に展開するクラウドネイティブなアプリケーション基盤が必要となる。

 そうした中で、日立ソリューションズは2018年4月、ソフトウェア開発プロセスの標準化を推進し開発生産性を高めるべく、Pivotalとビジネスパートナー契約を結んだ。加えてPivotalの出資会社でもあり、日立ソリューションズの20年来のパートナーであるマイクロソフトと3社でお客さまのデジタルビジネスの創出・拡大に貢献する体制を築いた。そして、デジタル時代のアプリケーション基盤に必要な機能を検証した結果、世界規模のネットワーク、グローバルな拡張性、セキュリティレベルの高さからMicrosoft Azureをクラウドコンピューティング基盤に選定。さらに、開発したサービスのデプロイスピードの速さと運用効率の高さ、Microsoft Azureとの親和性の高さからPivotal Cloud Foundryをクラウドネイティブプラットフォームとして採用することを決定し、日立ソリューションズのデジタルソリューション創出プラットフォームを構築したのだ。

Pivotal Cloud Foundryを活用した日立ソリューションズのデジタルソリューション Pivotal Cloud Foundryを活用した日立ソリューションズのデジタルソリューション創出プラットフォーム
米国マイクロソフトの森山京平氏 米国マイクロソフト Azure Customer Experience Azure Engineering FastTrack for Azure Service Engineerの森山京平氏

 Solution Linkage Surveyのシステム構築では、このデジタルソリューション創出プラットフォームをそのまま活用された。「仮にクラウドコンピューティング基盤の比較・検討から行っていたとすれば、おそらく膨大な時間を費やしたと思われます。2つのクラウド基盤を組み合わせることで、私たちはサービス開発に専念することができました」と賀川氏は強調する。

 米国マイクロソフト Azure Customer Experience Azure Engineering FastTrack for Azure Service Engineerの森山京平氏も「保守的な企業が多い日本の中で画期的な取り組みです。このレファレンスが他の企業にも広がっていけば、デジタルトランスフォーメーションを加速させるエンジンとなるのは間違いありません」と賛同する。

Pivotalジャパンの渡辺隆氏 Pivotalジャパン マーケティングマネージャーの渡辺隆氏

 同様にPivotalジャパン マーケティングマネージャーの渡辺隆氏も、「Pivotal Cloud Foundryはコネクテッドカー開発などでもご利用をいただいているのですが、自動車メーカー以外の製造業への普及はまだまだ十分とはいえませんでした。日立建機様と日立ソリューションズ様との一連の取り組みは、そうした中にインパクトをもたらす起爆剤となりそうです」と語り、大きな期待を寄せている。

 その意味ではSolution Linkageのソリューション群は今後、土木・建設業界だけにとどまらず、建築、採石、浚渫、林業、鉄鋼、化学プラントといったより広範な業種の企業に広がっていく可能性がある。日立建機と日立ソリューションズの両社は、協創を通じて多様な顧客のニーズに応えつつ、さらなるサービス拡充を図っていく考えだ。

「Solution Linkage Survey」のアジャイル開発に大きな手応えを感じている 左から、Pivotalジャパンの渡辺隆氏、日立建機の田中一博氏、日立ソリューションズの賀川義昭氏、日立建機の横尾あけみ氏、マイクロソフトの森山京平氏。「Solution Linkage Survey」のアジャイル開発に大きな手応えを感じている

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アイティメディア営業企画/制作:MONOist 編集部/掲載内容有効期限:2019年12月17日