製造業サプライチェーンがますますグローバル化、複雑化し、変化の速度も加速する中、サプライチェーン上の混乱や遅延は経営に大きな影響を与えかねない問題だ。しかし、問題や遅延を立て直す調整作業には多くの時間と労力を必要とする。グローバル市場で勝ち抜くためには、事が起こってから対策を講じるのではなく、事前に起こり得る事象を予測し、未然に対応できるサプライチェーンを構築することが求められる。サプライチェーンを自動化、自律化するという理想を実現するSCMの近未来像を探る。
複雑さを増す現代の製造業サプライチェーン。原材料調達、製造、消費がグローバルに越境することで物流網は拡大の一途をたどり、さらに、企業は多様化する顧客ニーズに応えるため調達品目が多岐にわたり、流通経路が入り組む多品種少量生産への対応も迫られている。
サプライチェーン担当者はこのような混沌とした状況でも、余剰や欠品が発生しないよう需給や生産計画を調整し、サプライヤーへの原材料発注や在庫管理、販売計画を滞りなく実行する必要がある。しかし、時々刻々状況が変化する中、立案した計画が「当初の想定通りに行かない」ことはサプライチェーンの常である。天候不順による交通網の寸断やグローバル輸送での税関による滞留時間の発生など、サプライチェーンの遅延や混乱は予期せぬ地点・タイミングで突如として発生する。
そうした中で、サプライチェーン担当者は「計画の再調整に時間と労力を取られている」と指摘するのは、SCM(サプライチェーン・マネジメント)ソリューション大手のJDAソフトウェア・ジャパンで執行役員 ソリューションコンサルティング ディレクターを務める白鳥直樹氏だ。
サプライチェーンの問題を事前に予測することは難しい。何かトラブルが発生したら、その時点までさかのぼって原因を探っているのが現状だ。「極端に言えば毎日が消火活動のようなものです。これではビジネスのスピードが損なわれ、グローバルでの競争に勝つことはできません」(白鳥氏)。
こうした課題を解決するためにはサプライチェーン全体で「今、何が発生しているか」をリアルタイムで可視化し、問題を迅速に把握したうえで適切に対処していくことが不可欠だ。そのためには店舗、物流、工場、調達など、サプライチェーンに関わるあらゆる情報を一元的に集約、管理し、連携させる必要がある。それを実現するのが、JDAソフトウェアが提供する次世代デジタルサプライチェーン・プラットフォーム「JDA Luminate(以下、Luminate)」だ。
Luminateは店舗や配送センター、ロジスティクス、製造工程などで発生するデータをシームレスに連携させ、個々のフェーズで継続的に需給を調整しながら、データを可視化。問題箇所とその対応をリアルタイムに把握することで、迅速かつ収益性の高いビジネス決定を支援する。さらに、人工知能(AI)、機械学習(ML)、アドバンスト アナリティクス(AA)といった最新のテクノロジーやサードパーティが提供するデータともシームレスに連携する。
Luminateは、サプライチェーン全体にわたってリアルタイム可視化を司る「JDA Luminate Control Tower」、MLを活用したインテリジェントで自律的なサプライチェーン計画系ソリューション群の「JDA Luminate Planning」、AIおよびMLを活用し、店舗オペレーションなどを最適化する流通向けソリューション群の「JDA Luminate Retail」、物流業務をインテリジェントに優先順位付けし、物流拠点の業務量の変動にバランスよく対処し的確なタスクを指示する「JDA Luminate Logistics」で構成される。
JDAソフトウェア・ジャパンでアライアンス ディレクターを務める渡辺晃伸氏は、「IoT(モノのインターネット)などセンサーデータを活用すれば、さまざまなロジスティクスの情報をリアルタイムで取得できます。例えば、船舶が今どこにいるのかといった情報も入手可能です。さらに、ソーシャルメディア(Social media)、ニュース(News)、イベント(Event)、天気(Weather)といった「SNEWデータ」をプラットフォームに集約してAIやML、AAで分析すれば、リアルタイムの現状把握だけでなく、将来的に何が発生するのかを予測し、問題を未然に防止できる。これによってプライチェーン全体の効率化も実現するのです」と説明する。
Luminateの“司令塔”となるのがLuminate Control Towerだ。これは、サプライチェーン全体をリアルタイムに可視化するだけでなく、組織横断的なコラボレーションやオーケストレーションをサポートするソリューションである。
サプライチェーンのデジタル化が進んでいない企業では、部門間で情報がサイロ化する傾向にある。そのため問題の調整は「バケツリレー」のように情報をやり取りしているのが現状だ。白鳥氏は「実は、こうした作業内容はパターン化しているので自動化が可能です。Luminate Control Towerは自己学習の機能を備えているので、収集、分析したデータからインサイト(洞察)が得られる。それを基に問題の調整を自律的に実行し、解決策を提示します」と説明する。
多くの企業で導入されているERPは「過去はどうだったか」「現状はどうなっているか」という情報を蓄積している。しかし、Luminateは「問題を放置すると、どのくらいの確率で次の問題が発生するのか」といった将来を予測する。
例えば、部品を積んだ船舶がどこを航行しているかをリアルタイムで把握し、天候状況や港湾の混雑具合などから「計画よりも3日遅れる」と予測する。その予測情報を基に高度分析機能の活用で、「何も手を打たなければ○○日遅れ、その結果どのような事態が発生するのか」「このマイナスを補填するには何をすべきか」といった予防策までLuminateが提示し、そのコストがどの程度発生するかも自律的に計算して表示する機能を持つ。
渡辺氏は「サプライチェーンで発生しうる障害を事前に予測・検知し、障害発生を予防できる。これにより、収益性を考慮した対応策やサービスレベルの向上、コスト削減が可能になります」と力説する。
実際に、同社の顧客であるメルセデス・ベンツUSAでは、欧州から米国へ輸送される保守部品の到着日時が不安定という課題を抱えており、リードタイムは平均47日間となっていた。そのため同社では米国物流倉庫の入出荷納期を順守すべく、Luminate Control Towerで海上輸送の遅れや港の混雑状況などのデータをニアリアルタイムで収集。それらの情報から米国物流倉庫への到着日時を予測した。現在は輸送状況全体を俯瞰できるダッシュボードを構築し、リードタイムの短縮に努めているという。
LuminateはSaaS(Software as a Services)モデルで提供されるが、このグローバルでのリアルタイム情報を収集する“サプライチェーン・プラットフォーム”の実現に大きな貢献を果たしているのが、マイクロソフトのクラウド基盤「Microsoft Azure」だ。
JDAソフトウェアとマイクロソフトは2018年8月、Microsoft Azure上でLuminateを構築する戦略的パートナーシップ締結を発表した。これにより、Microsoft Azure上でLuminateが提供されるとともに、Microsoft Azureに備わるさまざまな機能が、Luminateを通じて顧客に提供できるようになった。渡辺氏は「さまざまなSCMの革新的な新技術を提供するうえで、Microsoft Azureは最適なプラットフォームです」と説明する。
Luminateのミッションは、エンドツーエンドのサプライチェーンにおいて、どのような状況変化や問題にも対応できる、「インテリジェンスを持った自律的なサプライチェーン機能を提供する」ことだ。そのために求められるのは、自前主義を捨て、パートナーエコシステムを構築し、サードパーティやパートナー企業から提供されたデータを取り込みリアルタイムで分析、予測できること。さらに、オープンかつ拡張性に優れるといった柔軟性も必要だ。JDAソフトウェアはこのLuminateなどの革新的なソリューション群により、AIやML、AA機能を搭載し、従来のSCM業務にデジタル変革をもたらすサプライチェーン・プラットフォーム・カンパニーを目指そうとしている。
「Microsoft Azureは、B2Bに不可欠なセキュリティや拡張性はもちろん、高精度の機械学習モデルを素早く構築、実装できる『Azure Machine Learning』をはじめ、学習済みのAIモデルをAPIとして提供する「Azure Cognitive Services」など、ビジネスで必要なサービスが豊富にそろっています。われわれのお客様はLuminateを介し、そうした機能やサービスにアクセスできるのです」(白鳥氏)
実は、Luminate開発時のPoC(実証実験)段階で、Microsoft Azure以外のパブリッククラウドも試用したという。ただし、それらは運用上の信頼性に不安があったり、運用管理に一定のスキルが要求されたりしていた。白鳥氏は、「われわれのお客様には製造業だけでなく小売業も多く、運用管理に知識が必要なクラウドは不向きです。(ITインフラの運用に労力を割かず)サプライチェーン管理に集中できる環境を提供することが、われわれのミッション。また、パートナーエコシステムの強化といった観点からも、Microsoft Azureは最適なクラウドでした」と説明する。
エッジ領域でのパートナーシップ強化も推進する。その1つとして、2019年4月にはパナソニックと合弁会社設立に関する覚書を締結し、工場、倉庫、流通業向けソリューションの共同開発を発表した。パナソニックが展開する製造プロセスの効率化を実現するエッジデバイスとLuminateを組み合わせ、統合的なソリューションを顧客に提供する。白鳥氏は、「パナソニックと協業することで、これまでわれわれにとって“ブラックボックス”だった領域のデータも、取得、分析できるようになります」と語る。
JDAソフトウェアでは今後、Luminateの自動化、自律化機能を充実させる方針だという。現在の可視化、予測分析や問題解決、回避の提案型から、さらに進化した「自己学習型サプライチェーン」を目指していく。
「例えば、現在は欠品の予測をして『それを回避するためには何をすべきか』の提案までを行います。今後は、Luminateが回避手段を自律的に判断し、それに伴う調整をシステム横断的に実行するといった具合です。現在、こうした調整は人間が行っていますが、勘と経験を頼りに判断しており、時間的にもコスト的にも無駄が多い。(何を優先するかという)閾値さえ人間が決定すれば、その後の作業はルーチンですから自律化できる。人間はもっと本来のクリエイティブな作業に時間を費やせるようになるのです」(白鳥氏)
とはいえ、こうした環境を構築し、活用するためには準備が必要だ。デジタルサプライチェーンの業務成熟度が低い環境では、一足飛びに自己学習型・自律型サプライチェーンを目指すには無理があるだろう。白鳥氏は「まずは四半期単位で目標を定めてデジタル化を推進し、徐々にその目標設定サイクルを短縮する。自社の現在の成熟度や発展段階に応じて、可視化 (visibility) ⇒ 予測分析 (predictive analytics) ⇒ 処方的サプライチェーン (prescriptive SC) ⇒ 自律的サプライチェーン (autonomous SC) というように、ステップ・バイ・ステップで『技術をキャッチアップ』していくことが重要です」とアドバイスする。
AI活用が目的になると失敗する――。製造業に限らず指摘されることだ。分析や予測にはデータの蓄積が必要だ。成功するには何をすべきなのか。白鳥氏は以下のように提案している。
「まずは目的を明確に定めてデータ収集することです。そのうえで、リアルタイムで状況を可視化できる環境を構築すれば、解決すべき課題が明らかになります。それを下支えしているのが、LuminateとMicrosoft Azureの技術なのです」
製造業において「デジタルサプライチェーン」の構築がなぜこれほど重要なのか
製造業がこれからの時代を生き抜くためには、サプライチェーンのさらなる高度化が必要となってきた。IoTやAIを活用した、より高度で競争力のある「デジタルサプライチェーン」を構築するにはどうすればよいのだろうか。
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提供:日本マイクロソフト株式会社
アイティメディア営業企画/制作:MONOist 編集部/掲載内容有効期限:2019年6月28日
製造業がこれからの時代を生き抜くためには、サプライチェーンのさらなる高度化が必要となってきた。IoTやAIを活用した、より高度で競争力のある「デジタルサプライチェーン」を構築するにはどうすればよいのだろうか。