日本電産は2018年3月、製造現場向けのIoTクラウド分析サービス「Simple Analytics」を発表。同社の製造現場で培ってきた知見やノウハウを基に開発したもので、サービス開発は日本電産が、販売とサポートはセゾン情報システムズが担当する。製造業である日本電産が、自社開発のIT関連サービスを本格的に外販するのは初めてのことだ。
日本電産は世界トップクラスのモーターメーカーとして知られている。HDDなどに用いられている精密小型モーターに加え、車載や産業分野にも事業を拡大しており、2017年度の連結業績は売上高1兆4880億円、営業利益1676億円など4期連続となる過去最高を更新。そして、中期経営計画「Vision2020」では2020年度に売上高2兆円を、さらにその先の2030年度には連結売上高10兆円を目指している。
製造業として成長を続ける日本電産だが、2018年3月に製造現場向けのIoT(モノのインターネット)クラウド分析サービス「Simple Analytics(シンプル アナリティクス)」を発表した。同社の製造現場で培ってきた知見やノウハウを基に開発したもので、サービス開発は日本電産が、販売とサポートはセゾン情報システムズが担当する。製造業である日本電産が、自社開発のIT関連サービスを本格的に外販するのは初めてのことだ。
日本電産でSimple Analyticsを担当しているのは、2017年8月に設立された情報システム部傘下のIT事業推進室である。室長の金嶋慎一氏は「このIT事業推進室の前身になるのが業務改革推進室。当社でIoTへの注力を決めた2014年10月に、社内公募で立ち上げた部署になる。この業務改革推進室では、IoTに注力する上で必ず必要になるという判断のもと、IoTプラットフォームの開発に取り組むことになった」とSimple Analyticsの開発の背景について説明する。
とはいえ、IoTプラットフォームを開発するとなると一定数のITエンジニアが必要になる。日本電産の主力事業がモーターである以上、それは容易ではないようにも感じられる。「当社は2010〜2011年にかけて、売上高で兆円レベルの企業を目指すためのIT統合とクラウド化を推進した。そこで積み上げた知見や人材がIoTプラットフォームの開発でも活躍した」(金嶋氏)という。
また、IT統合とクラウド化の取り組みでは、その当時製造業が積極的ではなかったクラウドの活用や、あまりなじみのないアジャイル発想などを取れ入れていた。日本電産 情報システム部 IT事業推進室の丸谷亮祐氏は「“守りのIT”である基幹系のシステムとは違い、IoTプラットフォームは“攻めのIT”と位置付けた。そこで、新技術の採用やアジャイル発想、オープンソース活用などを積極的に進めた結果、ベースシステムを2016年に完成することができた」と語る。
このベースシステムを、自社の製造現場における工程情報や品質の管理に利用してもらうべく社内展開を始めたものの良い成果は得られなかった。「当初は、社内ユーザーの使い勝手を配慮して、アプリケーションを自由にカスタマイズできるようにしていた。にもかかわらず、効果につながらない、いろいろ仮説を立ててやってもうまくいかないなど、満足できる結果につながらなかった」(丸谷氏)。
しかしこの試行錯誤から、製造現場向けのIoTプラットフォームに必要な要件が見えてきた。丸谷氏は「実際のところ、工場などの製造現場は、IoTプラットフォームの使い勝手を良くするためにカスタマイズをしているような暇がない。ITシステム的には、BI(Business Intelligence)ダッシュボードによる見える化などが必要かと考えてしまうが、製造現場が今ほしいのは、安く早く活用できる、極めてシンプルなもの。まずは簡易な分析ができればよく、そこで効果が出れば次に進めばいい、というのが基本的な考え方であることがよく分かった」と説明する。
そこで、カスタマイズ性を捨てて「これを見ればよい」(丸谷氏)という標準的な簡易分析レポートを表示する機能に絞って開発を進めたところ、社内ユーザーからの評価も前向きなものに変わっていった。「IoTプラットフォームの名称のSimple Analyticsは、この簡易分析からとっている」(同氏)。
Simple Analyticsの外販では、IoTプラットフォームを利用する「システムサービス」の他に「コンサルティングサービス」もある。丸谷氏は「社内展開での反省をぎゅっと押しこんでおり、PoC(概念実証)を回していくためのものだ。社内ユーザーを説得するためにいろんなことをやってきた中でできたものなので、実効性はかなり高いだろう」と強調する。
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