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» 2014年06月03日 10時00分 公開

“真のグローバル開発体制”を実現するには何が必要か設計・開発 次の一手(2/3 ページ)

[志田穣/クニエ シニアマネージャー,MONOist]

設計・開発のICT基盤における課題

 製造業がグローバル化に対応し、海外で設計・生産を行う必要があることを説明してきたが、これから述べるように「グローバル全社として最適な開発」を実現するにはさまざまな障害を乗り越えなければならない。製造業が考慮しなければならない変化は、組織や技術基盤・業務プロセスなど多岐にわたっており、それらを随時クリアしていく必要がある。

複合領域・モジュール設計に対応する上での課題

 設計・開発において、製品性能の多様性が必要になってきているが、製品性能は、メカニカルな部品のデータだけではなく、電気・電子系の設計、制御・ソフトウェアなどさまざまな要素で決まる。しかし、製品開発する度にこれらを組み合わせているのでは無駄が多くなるため、製品の構成単位ごとにモジュールとして捉え、それらを複数組み合わせることによって多様な製品を市場に提供することになる。

 近年自動車完成車メーカー各社が取り組む「モジュール化」もこの流れである。複合領域の開発、モジュール設計を正しく進めたいと考えた場合、部門をまたいだ設計標準業務を正しく定義し、成果物だけでなく仕掛中の設計データも管理する新しい運用体系の構築が重要となる。ただ、現実にはそのようなことが実現できている例は少ない。

 最適な設計・生産体制構築の妨げになっているのが、各設計部門の抵抗だ。設計部門が現状の業務運用の変更を嫌がるため、各領域のPDMの統合はもちろんのこと、個別のPDM間連携などもうまくいかないケースが多い。特に日本の製造業においては、各設計の業務はともすれば「聖域」化され、現行業務の見直しが不十分で、その結果、効率化が部分最適で終わってしまうことがある。

 設計データや技術情報の管理・運用についても「商用パッケージでは無理」という判断の下、スクラッチから開発しているケースもまだまだ多い。またパッケージ上に大幅なカスタマイズを施して、いわゆる設計のコアコンピタンスを維持している場合も多い。

 しかしこれらは、グローバルレベルで、全社的な業務再定義を実施する上では大きな障害となる。加えて、メンテナンスに大きなコストが掛かる。特にスクラッチから開発した場合は、担当者が変わっただけで、元の仕様が分からないというような事態も招く。結果として経営側から見た場合不可解なコストが定期的に消費されることになり、有用な投資を妨げる原因にもなっている。

グローバル拠点間の業務課題

 拠点の役割の変化に伴い、拠点間の共同開発業務が増加してくると、必然的にそれを下支えするシステム、ひいてはグローバルのICTガバナンスが重要になってくる。しかし、管理人員の制限などから特に海外において、課題を抱えている日本企業が多い現実がある(関連記事:サプライチェーンは安全か? 海外現法のITガバナンスが“ボロボロ”。その1つの理由として、拠点間の設計協業ルールを制定せずに、開発業務を拠点の判断に任せてしまったケースが挙げられる。その後、拠点間の設計協業ルールを制定せずに、開発業務を拠点に任せてしまったケースも多い。その結果、以下のような課題がよく見られる。

  • 海外子会社がどの様にITを管理しているのか分からない
  • ITコストが適切かどうか評価できない
  • 内部統制、セキュリティ対策が適切か分からない
  • どのようなリスクがあり、どの程度対策ができているのか分からない
  • プロジェクトの失敗原因が追求できない
  • アーキテクチャや管理手法のベストプラクティスを、グローバルで共有できない
  • システム障害事例などのインシデント(不測の事態)の原因と解決方法を共有できない

 また、インフラの問題もある。設計・開発をグローバルで共同で行うには、各拠点の設計データを遠隔地同士でやりとりできる仕組みが必要になる。しかし、設計データ、特に3次元CADのデータは容量が大きくなり、かつ海外拠点ではネットワークインフラが十分に整っていないケースも多いため、パフォーマンスが不安定になる。さらにこの場合、マスターとなる設計データ・製品構成がどこに格納され、かつ他拠点(開発・生産業務含め)がそれをどのような頻度で共有・利用していくかがポイントとなる。加えて流出リスクについても考慮されるべきであるが、開発業務が拠点任せになってしまうと、一環した環境構築は不可能だ。そのため円滑なグローバル共同開発体制は築きにくくなる。

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