甚さん、そういえばこの前、職場でこんなことがあったんですよ。
ああ、あの話か……。ギスギスした感じだったよね。
ふむ……。
以下は、エリカちゃんと良君の職場での会話です。
派遣設計者のエリカちゃんは、EV(電気自動車)に搭載されるドアミラー用の駆動シャフトを製図しました。しかし、シャフトの段付部が弱く見え、クラック(割れ)が起こらないか心配になりました(図1参照)。果たして、この寸法で本当に大丈夫なのか。
そこで、良君にCAEによる強度解析(応力解析)を依頼しました。
すみません、国木田さん。お願いしていた解析できていますか?
解析できたけど、エリカちゃん、これまずいよ。安全率が「1.1」で、シャフトの段付部にクラックが入るどころか、瞬間荷重の条件下では折れてしまうかもね。
あ、そのシャフトの段付部の径ですが、φ6じゃなくて、φ8ですよ?
えー、これエリカちゃんがくれた図面だよ。ほら、φ6になってるよ〜?
何ですか、その言い方。勝ち誇ったように! 私だって間違えることぐらいあります!! もう1度、φ8で解析し直せばいいだけですよね!? 試作品なら何万円も掛かるけど、解析はタダなんですから、ダダ! 何百回でもおやりなさい!
エリカちゃあん……。解析はタダではないのだよ〜。僕の工数は……。
もちろん奉仕です! いいから早くおやりなさい! それから、私のことは「エリカちゃん」ではなく、「エリカさま」とお呼び!
出たぁ……。
何か言いましたか?
いいえ! 何でもございません、エリカさまぁっ!
――回想ここまで
うーん。ギスギスしてるぁな。だけど今思えば、エリカちゃんだっていけないと思うんだけど……。
国木田さんも、あんな言い方ないですよ……。
そこで、ラポールだぜぃ!
それでは早速、ラポールを応用してみます。タイムマシーンであの日に戻って、2人の会話をやり直してみましょう。
すみません、国木田さん。お願いしていた解析できていますか?
解析できたけど、エリカちゃん、これまずいよ。安全率が「1.1」で、シャフトの段付部にクラックが入るどころか、瞬間荷重の条件下では折れてしまうかもね。
あ、そのシャフトの段付部の径ですが、φ6じゃなくて、φ8ですよ?
えー、これエリカちゃんがくれた図面だよ。ほら、φ6になってるよ〜?
あ! 申し訳ないです、国木田さん! 私のミスです。はずかしい! それに、私が焦らせたから、時間も無理してくださったんですよね。
いやいや、エリカちゃん! いいんだ、本当に気にしないで。僕なんかいつも、エリカちゃんの2倍も3倍もミスしちゃってるし。
そんなこと言わないでください! 最近の国木田さんって、事業部の人たちの間で評判なんですよ。
へへ……。それよりもφ8で本当によいか、一応再確認してください。こっちもまた頑張るからね! よお〜しっ、残業だ〜!
すみません……。後で、夜食のおにぎり作って差し入れしますから。
えっ! まじ! うれしいよ〜!
残業してる設計2課の皆さんの分も作ろっ♪
そう……。
――ここまで
前記の黄色いマーカー部が、ラポールです。自らラポールを取りに行ったエリカちゃんですが、エリカちゃんに好意を持っている良君から2倍以上のラポールが返されました。
まずは私が、国木田さんの立場になって考えて、それを表現(気持ちの共有)すればよかったのですね。
そう。それがラポールだぁ!
うーむ、最後のオチまでラポールしてほしかったな。……「国木田さん、私と2人で食べたいでしょ?」って。
……。
今回は、ラポールを「共有」と訳して解説しましたが、具体的には、ラポールとは、「相手の気持ちになれること」「相手の気持ちを伺うこと」だと言えます。
しかし、いくら相手の気持ちをうかがっても、しつこ過ぎたり、ほんの少しでもイヤミが含まれると逆効果です。注意しましょう。
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