Maximは、医療/ヘルスケア市場を戦略マーケットと位置付け、投資を拡大させていく。高精度アナログICをはじめ、ミックスドシグナル、セキュアマイコンといった医療市場向け自社製品の強化に加え、医療関連企業と積極的に連携を図りシステムレベルでの提案を強化する。同社のJohn Di Cristina氏は、「医療/ヘルスケア市場で年率10%以上のビジネス成長を続けていく」と語る。
Maxim Integratedは2012年9月に、1枚の「Tシャツ」を発表した。胸に矢印型のワッペンが付いたデザインで一見、普通の黒いTシャツだ。
とはいえ、半導体メーカーであるMaximが作ったTシャツ。当然ながら、単なるTシャツではない。
同社Medical Equipment Directorを務めるJohn Di Cristina氏は、「今後、人口が増大する上、高齢化社会が訪れる。加えて、新興国の経済成長により高度医療に接する人口も急速に増えている。その結果、医療コストも増大し、多くの税金が投入されている。日頃から健康状態をモニタリングすれば、病気を未然に防げ、高額な費用が掛かる治療や入院を避けることができる。そういった意味で、家庭での健康状態をモニタリングすることが重要になる。モニタリングするシステムは、家庭で常時使用するため小型/ポータブルで、長時間のバッテリー駆動、さらには通信機能も要求される。開発したTシャツは、これらの要件を満たしたモニタリングシステムを具現化したものだ」と説明する。
このTシャツを着ることでさまざまな健康状態が測定できる。心電図(ECG)が採れ、心拍データを得られるほか、体温や体の動きも検知できる。USBやBluetoothによる外部通信機能も備える。
これらの機能を実現するデバイスは、矢印型のワッペン部分に集積されている。そのデバイスのほとんどは、Maximの製品で構成される。Tシャツの4カ所に縫い付けられたECG用の電極、温度センサーからの信号などを処理するアナログICをはじめ、マイコン、バッテリーチャージャ、USBコントローラなどだ。
しかし「Maximだけで、このTシャツは実現できない。ECGの測定手法や実用性のあるシャツのデザインなど、半導体メーカーである我々には分からない。デバイスを提供するだけでなく、ソリューションを提供できるエコシステムが重要だ」という。実はこのTシャツは、医療関連技術を専門に手掛けるClearbridge VitalSignsとOrbital Researchとともに開発している。Tシャツは、ウェアラブルなモニタリングシステムを実現するデバイス技術と、そのシステムを具現化できるエコシステムという、医療市場に向けたMaximの2つの強みが詰まっている。
成長市場である医療市場は、多くの半導体メーカーが参入し、競争が激しくなりつつある。Cristina氏は、「今後も医療市場に向けたエコシステムを拡充させて差異化につなげていく。もちろん、デバイス技術も独自性を打ち出す。特に医療で重要となる『セキュリティ』に関して技術を磨いていく」と語る。
アナログ/ミックスドシグナルICのイメージの強いMaximだが、マイコン「MAXQシリーズ」を展開し、金融系システムやPOS端末などで多くの採用実績を持つ。「これら決済に関わる分野で多く使用されている理由は、MAXQがセキュリティ性能に優れているためだ。命に関わるデータ、重要な個人情報を扱う医療分野は、金融分野以上の『真のセキュリティ』が要求される。現在、金融向けに実績ある数々のセキュア技術を医療向けに転用している段階。セキュア技術が医療市場でも他社との大きな差異化技術になる」と語っている。
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