電力変換回路の消費電力低減や小型化、軽量化が可能なSiC(シリコンカーバイド)デバイス。「CEATEC JAPAN 2012」におけるロームとアルプス電気の展示から、SiCデバイスによる小型化の方向性が見えてきた。
インバータやDC-DCコンバータなど電力変換回路の消費電力低減や小型化、軽量化が可能な次世代パワー半導体として期待されているSiC(シリコンカーバイド)デバイス。「CEATEC JAPAN 2012」(2012年10月2〜6日、幕張メッセ)では、ロームとアルプス電気が、SiCデバイスによって実現できる小型化の事例を紹介した。
ロームは、開発中のダブルトレンチ型SiC-MOSFETを用いたSiCインバータを展示した。電気自動車(EV)やハイブリッド車(HEV)に搭載されている、出力60kWクラスの走行モーターを駆動できる。出力密度は145kW/l(リットル)で、「世界最高を達成した」(同社)という。
SiCインバータの出力密度では、安川電機がローム製のSiCデバイスを搭載したモータードライブシステムのインバータ回路が128kW/lを達成している(関連記事)。今回の145kW/lという値は、これをさらに上回るものだ。
同SiCインバータは、6個のSiCパワーモジュール、200℃以上でも動作可能な高温安定コンデンサ、絶縁素子内蔵のゲートドライバICを搭載した回路基板、空冷用ヒートシンクなどから構成されている。SiCパワーモジュールには、耐圧600V、電流容量100Aのダブルトレンチ型SiC-MOSFETが6個組み込まれている。ダイオードは、SiC-MOSFETのボディダイオードを使用しており、従来のSiCインバータの開発事例で一般的に使用されているSiC-SBD(ショットキーバリアダイオード)を省くことができた。
通常の3相インバータは、パワー半導体とダイオードを2個ずつ組み込んだパワーモジュールを3個使用することが多い。ロームのSiCインバータの場合、パワー半導体とダイオードそれぞれ1個分の役割を果たすSiCパワーモジュールを6個使用している。
現行のEVやHEVの走行モーターを駆動するインバータに使用されている、シリコンベースのIGBTとダイオードを組み込んだパワーモジュール1個と比べて、ロームのSiCパワーモジュール2個が占める容積は10分の1以下に過ぎない。
SiCインバータの出力電圧は600V、出力電流は600A。外形寸法は明らかにしていない。ただし、空冷用ヒートシンクを除いた、SiCパワーモジュール、高温安定コンデンサ、ゲートドライバIC搭載回路基板から成る部分の寸法は、縦40×横115×高さ16mmとなっている。
一方、先述した145kW/lという出力密度は、空冷用のヒートシンクを含めて計算したものだ。SiCインバータの出力を、同社が駆動可能とするモーターの出力である60kWと想定し、設置面積が縦40×横115mmと見なせば、空冷用のヒートシンクを含めたSiCインバータの高さは90mm程度と考えられる。
今回発表したSiCインバータでは、高温安定コンデンサの役割も無視できない。SiCデバイスは、高温で動作しても特性が低下しないという特徴を備えているが、インバータ内に組み込むコンデンサも同様に高温で動作できなければその特徴を生かしきれないからだ。ロームの高温安定コンデンサは、使用温度範囲が約100℃までのフィルムコンデンサや、125℃以上になると容量が急激に低下する積層セラミックコンデンサとは異なり、200℃以上になっても容量がほとんど低下しない。このため、従来はインバータの外側に配置していたコンデンサを、SiCパワーモジュールの直上に組み込めるようになった。
SiCインバータに使用した高温安定コンデンサは、外形寸法が39×39×3mmとなっており極めて薄い。容量は0.3μFで、耐圧は600Vである。
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