「やっぱり使い慣れた道具は手放せない」といって、2次元の図面にこだわる社長。しかし、そうもいっていられない事情に直面して……。
MONOist編集部では、環境保護に関連する技術開発を進める企業を支援するオートデスク「クリーンテックパートナープログラム」に参加したユーザー企業2社に話を聞いた。いずれもこのプログラムをきっかけに3次元CADの導入に踏み切った企業だ。
スカイ電子は、コアレス発電機用コイルや精密コイル、特殊コイルなどのメーカーだ。高知県の四万十川の支流からほど近い場所に本社を置く。取材には同社代表取締役社長 廣林孝一氏に応じていただいた。
同社が小型風力発電装置向けの製品を作り始めたのは、平成11年度(1999年度)に、高知県産業振興センターによる産学官連携プロジェクト「ローカルクリーンエネルギー委員会」に参加したことがきっかけだ。
「もともとわれわれは巻き線を巻く(コイル製造)技術は持っていましたし、発電機が主力事業です。これをクリーンエネルギー関連事業で生かそうという考えでした。勉強会をスタートして3年、たたき台となる試作機までは出来上がったので、一定の成果は出せたと思います」
しかし、その際の発電効率はまだ不十分なもので、あくまでも試作だったようだ。勉強会の期間終了後、独自に形状やマグネットの具合を検討し、現在は初期と比較して、約3倍の発電効率を得られるようになったという。
実は、廣林氏は完全に2次元図面派だ。
「使い慣れた道具を切り替えるのはなかなか難しいのです」
同社で図面を引くのは、基本的に廣林社長だけだ。社長が自ら図面を引いて、社員に渡し、試作する。そうした制作フローが同社のモノづくりの基本だ。
そんな同社に、3次元CADがやってきたのは、2011年の暮れのことだったという。新エネルギー系の製品を製造していることから、付き合いのあるコンサルティング会社からAutodeskの「クリーンテックパートナープログラム」を推薦されたのだという。このプログラムは自然エネルギーに関する製品開発を行う事業者を対象に、原則として最大5ユーザーライセンスをわずか1万円程度で提供するというものだ。
同社の若手技術者の中には、大学時代に3次元CADを利用した経歴を持つ人材がいた。
「自社では本格的な導入はしていないものの、使い勝手を忘れないよう、若手には勉強を継続させていたのです」
今回、このプログラムで得た3次元CAD環境は、主にこの若手技術者が使っている。社長自身も「3次元CADの世界は、勘や経験を生かして2次元CADでつくる世界とは異なる」とその利点は理解している。試作しなくてもデジタルモックアップ上で組みつけの検証ができるようになったことから、開発期間は従来の約半分で済むようになったという。
「2012年の2月に設計をスタートしたモノが、現在テスト販売を実施するところまできた。このスピードは3次元CADならでは」そういって、3次元図面化の良さを強調する。
あれ、ちょっと待てよ……。会社で唯一設計図を引く社長は2次元図面派だったはず。どうやって工数を縮めたのだろうか?
「実は、私自身は相変わらず2次元で図面を起こしています。それを渡して3次元図面化してもらっているんです。そこから先の工程で、実機を作らずにシミュレーションを進めてもらっているんです」
そこまでして3次元化する理由は、「なによりも事前にデジタルモックアップで組み付け検証や、強度シミュレーションが実施できること。今までは経験や勘に頼りがちだったことが、誰にでも分かる形で検証できる」といったことにあるそうだ。
いままでは安全率を見ながら経験則で設計していた、という廣林社長だが、それではままならない事情が出てきたことも、3次元CAD環境導入の理由の1つとなっているようだ。
同社の主力製品である、コイルを使った発電機は、マグネットを大量に使う必要がある。その素材はレアアースに分類される。レアアース輸出国が、供給量を絞ったことから価格が高騰した。
「2011年の3月末から8月ごろまでは原材料が高騰しました。4年前の価格と比較すると40倍にもなったのです」
磁石に使われるレアアースとしては、ネオジム、ジスプロシウム、テルビウムなどが挙げられる。これら磁石の原材料の価格が実際に高騰し始めたのは2010年7月のことだ。中国が、2010年第2期レアアース輸出枠を絞ったことが直接の原因だ。
実は、それまでの過去10年ほどは、中国は安値のレアアースを大量に輸出しており、世界中が価格の安い中国のレアアースに依存する構図が出来上がっていた。そうした状況が出来上がった中で、中国が生産量を絞ったために、価格が高騰したのだ。これらの原料を使った部品を調達している企業側に原料価格が転嫁され始めた時期は、レアアース自体の価格高騰の時期とはタイムラグがある。
当然、4年前と同じ設計で、同じだけの材料を使っていては利益を圧迫してしまう。顧客側にも転嫁しなければならなかったはずだ。価格面での顧客の声は廣林社長の耳にも届いていたようだ。
「今後はシミュレーションを使って、高価な原料を多く使わずに同じ性能を出すにはどうしたらよいか、といったことを検討できるようにしていきたい」
同社の3次元CAD導入は、顧客のニーズに応える形で進んでいる。最近では小型風力発電向けの製品の他、水力発電向けの納入も増えているという。「日本は山林や川がたくさんあります。川の水流を使えば、多段にして発電できるはずなので、今後も受注は増えるのではないかと期待しています」と、今後の自然エネルギー発電の盛り上がりに期待しているようだ。
次ページでは、太陽光発電パネルの架台(がだい)を製造している企業の話を聞く。
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