第6回 2010年が転換点となったAndroidEmbedded Android for Beginners(Android基礎講座)

移動体通信事業者に続き、固定系通信事業者やインターネットサービスプロバイダー、さらにはデジタルカメラや音響機器のメーカー組み込み機器にもAndroidが広がってきました。グーグルの新しいサービスをすぐに利用したければ、Android搭載機器を持っておくことという流れがごく自然に広がってくると考えられます。

» 2011年01月12日 11時00分 公開

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 2010年はAndroidというキーワードがお茶の間にも浸透し、Androidを搭載した機器の普及の速さには目を見張るものがありました。

 今回は、Androidの歴史でも重大な出来事が盛りだくさんだった、まさにAndroid元年とも言うべき2010年を振り返ります。今後のAndroidの展開について、特にビジネス上の観点からの考察も試みました。

移動体通信事業者がAndroidへ

 高機能携帯電話機(スマートフォン)での成功。これが、グーグルがAndroidに課した最初の目標でした。無名のソフトウエアプラットフォーム企業であったAndroidの買収から5年、グーグルによるAndroid OSの発表から3年、最初のAndroidスマートフォンとなった「T-Mobile G1」から数えると2年という非常に短い期間で、目標を十分に達成したと言って良いでしょう。2010年初頭から、「BlackBerry」の攻略に手こずっていた「iPhone」を尻目に、Androidは急激にシェアを伸ばし、ついに米国のスマートフォンのシェアで首位に躍り出たからです。

 日本国内を見ても、代表格の3大通信事業者はもちろん、イーモバイルや日本通信といった企業もそれぞれのアプローチでAndroidを手掛けています。

 まず、NTTドコモが2009年に日本初のAndroidスマートフォンである「HT-03A」の販売を開始しました。2010年に入ってからも、「Xperia」や「LYNX SH-10B」、「GALAXY S」、さらにタブレット機器の「GALAXY Tab」(図1)と次々に発表し、日本のAndroidスマートフォンを主導し続けています。

ALT 図1 Androidタブレット「GALAXY Tab」

 ソフトバンクは日本初のAndroid 2.1搭載機である「HTC Desire」を2010年4月に発売し、さらに日本初のAndroid 2.2へのソフトウエアアップデートを提供、最新バージョンで引きつけるというソフトバンクらしい手法を見せました。KDDIは最後発ではありますが、Androidにかなり力を入れており、販売戦略上もAndroidというキーワードを全面に押し出す作戦を採っています。

 Xperia発売時、NTTドコモは「Androidケータイ」という内容を全面には押し出さず、「iPhone対抗のソニー・エリクソン製スマートフォン」といった売り方をしました。結果的には消費者に訴求し、一時期、電車で特に女性がXperiaを使っている様子をよく見かけました。この手法をGALAXYシリーズにも継承し、AndroidそのものをこれでもかとアピールしているKDDIとは対照的に、エンドユーザにはAndroidを内蔵しているかどうか意識させない形で宣伝しています。

 各社のAndroidの扱い方の違いは製品仕様にも反映されています。一般的に、最新バージョンの早期投入を重視する場合はカスタマイズが少なく、リファレンス仕様に近い製品となります。逆にAndroid色を出さない場合は実際の使い勝手も独自色の強い製品になると考えられます。

 2010年12月にはイーモバイルが「Pocket WiFi S」という通話が可能なAndroid搭載携帯型機器を発表しました。イーモバイルは携帯型Wi-Fiルーター「Pocket WiFi」をすでに製品化しており、この分野では大きなシェアを持っています。ところが、AndroidスマートフォンでもWi-Fiルーター機能を提供できるため、シェアを脅かされつつあります。そこで、自社の製品系列にAndroidスマートフォンをそろえることで、現在の優位性を保とうとしています。なお、同社のAndroidスマートフォン「HTC Aria」はWi-Fiルーター機能のオンオフ切り替えが簡単にできるなど、Wi-Fiルーターとしての利用者向けにカスタマイズされています。

 日本通信はSIMロックを解除した(SIMロックフリー)携帯電話機向けにSIMカードを販売しています。最初、SIMロックフリーのiPhone 4向けに販売を開始しましたが、現在は品種が増え、Androidスマートフォンでも利用できます。

ALT 図2 Nexus One(左)とBlackBerry Torch 9800(右) いずれも日本では未発売だが、このようなスマートフォンも手軽に購入、利用できるようになった。

 もともと海外ではSIMロックフリーの携帯電話機が広く普及しています。日本国内でもこのような製品の購入が容易になり、Androidであれば日本語表示などにも問題がないために利用者が増えています。これまでは海外の最新機種を利用しようとしても、国内の通信事業者からの販売が始まるのをあてもなく待たなければなりませんでした。SIMロックフリーであれば、海外の最新機種をすぐに使えます(図2)。

 これまでも携帯電話ネットワークが3Gに移行したり、ボーダフォンがJ-PHONEの事業を引き継いだりしたとき、「黒船」という表現でニュースになりました。まだ大きく取り沙汰されてはいませんが、SIMロックフリーの携帯電話機は2011年以降、急激にシェアを伸ばすと考えられます。

組み込み機器にもAndroid

 移動体通信以外にも、固定系通信事業者やインターネットサービスプロバイダー、さらにはデジタルカメラや音響機器のメーカーの動向も見逃せません。本連載の第5回で解説した通り、NTTはAndroidを搭載した情報端末「光iフレーム」を投入しました。NECビッグローブは同種の試みとして「Smartia」を発表しています。どちらも、自社のインフラに対する付加価値として、既存顧客の継続性向上と併せて、新規顧客の取り込みを狙っています。

 タブレット型コンピュータにも大きな動きがありました。タブレットの先駆けとなった電子書籍用の専用端末は何年にもわたって消費者に広く受け入れられることがありませんした。タブレット型コンピュータという分野を生み出した「iPad」が2010年1月に登場し、それから1年足らずの間にアップルはiPadを400万台以上出荷し、各社はiPad改良版を開発ターゲットとして挙げています。

 これがAndroid搭載タブレット機器を開発しようとする動きと相まって、多種多様な機器が発表されました。当初はリファレンス設計そのままにAndroid 1.xを搭載した怪しげな中国製の機器が話題になり、半ば冗談のように扱われていました。ところが品質がぐんぐんと上がり、今ではまさに百花繚乱(りょうらん)といったにぎわいを見せています。

 このような機器の主要な適用分野として、まず汎用情報端末としての役割があります。中でも電子書籍が第1のターゲットとなりました。このような動きに呼応して、グーグルは2010年12月に「eBookstore」を立ち上げました(図3)。

ALT 図3 Google eBookstoreのトップページ 日本ではまだ著作権付きコンテンツの取り扱いは始まっていないが、著作権の期限が切れたコンテンツを楽しむことができる。

 今後は、スマートメーターのような新規の分野に利用されたり、カーナビのような既存の大きな分野に深く入り込むと考えられています。

真価を発揮するAndroidとグーグルの拡大

 グーグルのCEO、Eric Schmidtが、かつてアップルの社外取締役であったことをご存知でしょうか。2006年8月から3年間、アップルで活動してきました。アップルのプレスリリースではその間の功績をたたえるとともに、退任の要因として、Eric Schmidtの率いるグーグルがアップルのコアビジネス分野に参入していることを挙げていました。

 具体的な製品としてはAndroidやChrome OSの名前が挙がっていましたが、もちろん単にOSのシェアというだけの問題ではありません。グーグルがGmailをはじめとする多種多様なサービスを提供していることが要点です。

 2010年12月に発表された「GoogleMap 5.0」はナビゲーション向けに3D表示機能(ベクトルグラフィックス)を加えたことで、データ量を従来の70%減に抑えました。地図表示に要する時間が短くなり、さらに地図情報をキャッシュすることでオフラインでも利用できるなど、魅力的なメジャーバージョンアップとなりました。しかし、この新バージョンでは、「とりあえず」Androidアプリケーションだけが発表されています。他のOS向けの予定は明らかにされていません(図4)。

ALT 図4 Google Map 5.0の表示内容 図左は、Google Map 5.0 for Androidでの表示。ホテルニューオータニが立体表示されているのが分かる。図中央は、iPhoneで表示したGoogle Map。立体表示のように見えるが、ベクトルグラフィックスを使っておらず、それらしい表示をしているだけだ。図右は、等高線が刻まれた富士山。Google Map 5.0では地形レイヤなどにも対応した。

 「グーグルの新しいサービスをすぐに利用したければ、Android搭載機器を持っておくこと」。このような発言こそありませんが、このような流れになることはごく自然でしょう。そうなると、Androidの価値はがぜん高くなります。

 ライバルも負けっ放しではなく、例えばアップルは「iTMS」(iTunes Music Store)を持ち、動画や音楽などのコンテンツビジネスに強いために、コンテンツからの攻勢を最大限に仕掛けてくると考えられます。

 アップルやBlackBerryのResearch in Motion(RIM)はそれぞれ単独の企業が機器を供給していますが、Androidはサムスン電子、LGエレクトロニクスをはじめ、名だたる総合家電メーカーから5名〜6名の小さな町工場まで、おそらく数千社規模で機器を供給しています。

 2010年にスマートフォンでライバルを追い越したAndroid。2011年には他のあらゆる分野に急激に採用されていき、グーグルのサービスがさらに浸透することで、発展途上国を含めた世界中の人たちが、自分たちの生活が劇的に変わったと思えるようなインパクトをもたらすでしょう。世界規模のインフラとユーザーを手に入れたグーグルはより大きなエコシステムの構築を目指していくことでしょう。

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著者プロフィール

金山二郎(かなやま じろう)氏

株式会社イーフロー統括部長。Java黎明(れいめい)期から組み込みJavaを専門に活動している。10年以上の経験に基づく技術とアイデアを、最近はAndroidプログラムの開発で活用している。


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