HD-PLMよってシーメンスPLMは、モノづくり環境に大きな変革をもたらそうとしている。システムそのものに大きな変革が起きる場合、旧来のシステムとのデータ互換性が損なわれてしまうことも多い。こうしたケースでは利用者側が不利益を被る場合が多々あるが、フェルト氏はHD-PLMによって「いきなり新しい技術だけを押し付けることはありません」と明言、既存ユーザーの負担がない形で新しいPLM環境に移行可能であるとした。
HD-PLMの思想を具現化するのは前述のとおり、ユーザーインターフェイス側に設けられるアクティブ・ワークスペース層の存在だ。よって、表示系以下の諸機能については既存の製品や過去の製品の互換性は保証されるようだ。
シーメンスPLMは、テクノロジーのオープン性にもこだわりを持っている。現在も「Teamcenter」などの製品で他社のテクノロジーをサポートしており、シーメンスPLM製品と他社の製品を組み合わせて利用している企業は少なくない。もちろんHD-PLMでも、これまで同様に互換性は維持される。
シーメンスPLMのテクノロジーのオープン性に関してフェルト氏は、「われわれはオープンであることにこだわっています。他社のテクノロジーをシャットアウトして、自分たちの製品しか使えないといった状況には決してしません」と語る。
シーメンスPLMが提唱する3次元データフォーマットであるJTは2009年にISO/PASに承認されている。ISO/PASは、標準化団体であるISOの委員会で技術的に合意されたことを示す規範的な文書と定義される(一般仕様書)。ISO標準ではないが、それに準じたものであることが承認されている状況だ。JTフォーマットの仕様がオープンなものであり、自社内に閉じたブラックボックスではないということと、サードバーティ製の製品であってもJTフォーマット標準仕様に準拠しておれば互換性が保てるということは、シーメンスPLMの大きな強みとなっている。おそらく、アクティブ・ワークスペースからも、他社のテクノロジーにシームレスにアクセスできるようになるだろう。
また、HD-PLMは、現在シーメンスPLMのPLM製品がサポートしているすべての言語、プラットフォームに対応するという。さらに、今後はiPadやスマートフォンといったモバイル環境や、クラウドコンピューティングへの対応も視野に入っているという。
「技術はどんどん新しくなっていきますから、常に新しい技術に対応できるようになっている必要があります」と述べたフェルト氏は、8月上旬に開催された「Siemens PLM Connection Japan 2010」の基調講演において、iPadやスマートフォンなどのモバイル環境でのデモンストレーションを行っている。
HD-PLMのコンセプトは、非常にシンプルである。ユーザーごとに最適化された環境において、より簡単な操作性を実現し、必要な情報や機能を優先的に提供することのできる基本的な技術の総称がHD-PLMだ。しかし、シンプルなコンセプトではあるものの、これまで実現できていなかったのも事実だ。このコンセプトの根底にあるものは、ユーザー企業にとってのメリットを、シーメンスPLMがテクノロジーで実現するということである。
フェルト氏は、次のような言葉で表現している。
「われわれはお客さまが決して失敗しないように、成功していただくようつとめています」
アクティブ・ワークスペースをはじめ、HD-PLMに沿った製品のリリースはこれからである。その結果、HD-PLMのコンセプトが多くの企業に広く受け入れられれば、モノづくりの世界に大きな変革をもたらす可能性がある。
PLMシステム全体を通して各利用者のユーザーエクスペリエンスをここまで検討した製品は同社が初となるのではないだろうか。むろん、類似したUIをコンセプチュアルなデモとして提示してきたベンダーがないわけではない。しかしシーメンスPLMは、それを具体的に製品レベルに落とし込んで実現することを表明しているという点で、一歩抜きんでたといってよいだろう。今後リリースが予定されている実製品が注目される。
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シーメンスPLMソフトウェア HD-PLM製品担当副社長 ブルース・フェルト氏
現在、シーメンスPLMソフトウェアのHD-PLM担当副社長として、HD-PLM構想の製品への実装の指揮を執る。
シーメンスPLMソフトウェアのオープン・ツール担当バイスプレジデントとしてJTフォーマットのISO/PAS承認に尽力した経歴を持っており、データフォーマットおよびそのオープン性、互換性についての深い知識を持つ。
写真はインタビューの前に、プレス向けブリーフィングでHD-PLMビジョンを語るフェルト氏。
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