負荷がオーバーしていれば、当然ですが通常の納期では納入できません。そこで新規の注文に対しては、通常よりも長い納期回答をせざるを得なくなります。顧客に対応する営業も当然そのことを理解して商談を進めねばなりませんが、なかなかうまくいかず、営業にとっても製造にとっても頭の痛い問題です。
しかし、計画負荷の考え方を応用すれば、非常にシンプルな形で納期を算出できます。
計画負荷は「新しいオーダーがいつごろボトルネックを通過するのか」を簡単に教えてくれます。
図2を見てください。これは先ほどの計画負荷の表をオーダー単位に縦棒グラフで表現したものです。縦軸には生産能力、横軸には日付を置いています。グラフは顧客オーダー単位で分割されていて、生産に必要な時間が割り当てられています。一見生産スケジュールのように見えますが、これは計画されたものではなくて、特定の工程の負荷をオーダー単位で順次積んでいったものであることに注意が必要です。
このグラフの水色部分を読み取ると、このワークセンター(8号機)には現在3日分を少し超えるくらい――12月16日の途中まで仕事(計画負荷)があることが読み取れます。
従って、この時点で新しいオーダーを受けたとすれば、ボトルネック工程である8号機を通過できるのは最短で12月16日であることがすぐに分かります。ボトルネック以外の工程には渋滞がありませんから、通過日数をそれほど神経質に考えなくともよさそうです。とするならば、ボトルネックの通過日程である12月16日に対して、何日かを足せば良さそうですね。
この計算を自動的に行うために連載第2回で説明した「バッファの日数」を使います。もしボトルネックが生産プロセスの中心辺りにあるのであれば、登録されているバッファの1/2の値を足せば、十分安全な納期が算出できるということになります。
例えば、この製品のバッファが6日だったとすれば、ボトルネックの負荷を考慮した安全に出荷可能な期日は、
納期=ボトルネックの計画負荷+バッファの1/2の期間
=12月16日+6÷2日=12月21日
ということになります。
生産計画は、この納期回答に基づいて、納期からバッファ分だけさかのぼった日付――12月21日の6日前ですから12月11日に行われます。この一連の動作をまとめたのが下の図になります。
計画負荷を用いることで、ボトルネック工程の負荷を考慮した納期設定が可能になります。
一見すると、いいかげんにも見えるこの仕組みですが、工程全体のリードタイムを決めているボトルネック工程の混雑具合をコントロールするだけで、ほぼ正確な納期を見積もることができるという“コロンブスの卵”的な発想で、極めてユニークであり現実的なものではないでしょうか。
これまで多くの企業で行われてきた納期回答の仕組みは現実的にうまく機能しませんでした。あらゆる情報を基に詳細な計画を立てることは現実には不可能ですし、そのとおりに生産するということもまた現実的ではないのです。
この仕組みは、営業と製造とを結ぶインターフェイスとして強力に機能します。多くの企業では、納期回答に時間がかかり過ぎるので営業がヤマ勘で回答せざるを得ないという問題を抱えています。
この仕組みを用いれば、納期回答は著しく単純になります。確かに負荷がオーバーして通常納期に収まらないことを顧客に伝えることは決して簡単ではありませんが、納期が迫ってきてから遅れることを報告するよりははるかに親切なものです(連載一覧へ)。
ゴール・システム・コンサルティング株式会社 代表取締役社長
村上 悟(むらかみ さとる)
国際TOC認証機構 正式認定コンサルタント。
大手製造業にて経理、原価計算を担当、社団法人日本能率協会を経て株式会社日本能率協会マネジメントセンター分離独立に伴い移籍。1997年、TOC(Theory of Constraints)研究会を組織し、TOC研究とコンサルティングを開始する。2002年8月にゴール・システム・コンサルティング株式会社を設立し、代表取締役に就任。現在、法政大学講師、日本TOC推進協議会理事長。
ゴール・システム・コンサルティング株式会社は日本最大のTOC専業コンサルティング会社。導入企業に確実に利益をもたらすコンサルティング力はゴールドラット博士より多くの絶賛を受けている。
近著に『儲かる会社のモノづくり マーケティング 売るしくみ』(中経出版)、『問題解決を「見える化」する本』(中経出版)がある。
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