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» 2009年12月07日 00時00分 公開

アーキテクトモデルの実現とアルパインの取り組みモノづくり最前線レポート(15)(3/3 ページ)

[原田美穂,@IT MONOist]
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技術ばらしで効率・提案力が向上、収益力アップに貢献

 「技術ばらし」とは、簡単にいうと、抽象的な要件をまず定義し、そこから詳細な機能にまで順次落とし込んでいく作業だ。

 例えば、技術ばらしのスタートは「快適な音楽を楽しみたい」のような漠然とした要件でいい。次のステップで「ドライブ中に快適な音楽を楽しむ」に含まれる要件を洗い出す。

 この要件の場合、「ラジオチューナーの精度がよい」「ノイズが少ない」「耳あたりのよい再生」……などが必要になるだろう。次のステップではさらにそれぞれの項目のために必要な要素を定義していく。こうした作業を組み合わせていくことで、最終的には、「○○の部分の回路設計は△△であること」「○○のS/N比は○○以上であること」などといった、個別の細かい仕様にまで落とし込むことができる。

 また、個別の項目についても相関関係を図として表現できるため、変更に伴う影響がどこまで及ぶかも瞬時に把握できるようになる。これにより、FTAなどの手法では難しい相互依存関係の整理・把握を促せるようにする。各要素はツリー形式で依存関係が確認できるほか、各設計要素のリスク度合いについても重み付けを設定できる。

 さらに、リスクの重み付けを行った設計要素とタスクリストを連携させることで、最も効率がよく、手戻りリスクが最小になる開発工程を自動分析して開発日程表に落とし込む仕組みを実現している。

 アルパインでは、まずトライアルプロジェクトに対して試験的に技術ばらしツールの導入を行った。トライアルプロジェクトでの適用で効果は明確に現れた。

「いままでよりも、仕様提案やリスク評価に時間をかけることができ、質の高い提案に結びつけることができるようになりました」(江尻氏)

 要件ばらしで作成した構造ツリーを「ベースツリー」として、製品構造の検討やDMM表作成などといったほかの検討工程で活用することで、検討フェイズの累積作業時間を27%削減に成功、トライアルプロジェクトにおける初期見積もりの精度向上により、3.6億円程度の収益性向上が期待できるという。

 江尻氏によると、通常、自動車メーカーへは平均して3回ほどの提案を求められることが多いそうだが、技術ばらしによる開発上流での要件の精査、精度向上が実現したことにより、2回の提案で済むようになったそうだ。

 「何よりもうれしかったのは、お客さまに提案したときに『いままでの提案とまったく違う』『いい提案内容』と、高く評価され、開発スタッフのモチベーションが向上したことです」(江尻氏)

 トライアルプロジェクトで成功を収めた同社では、今後、全社的にこのワークフローを定着させるべく、現在も活動を続けているという。

プロジェクト実施が企業組織の風土改革につながった

 この技術ばらしの段階で、開発担当者以外のメンバーを含めて、要件を整理していくため開発のポイントや流用可能な技術などがしっかり整理できるようになり、さらに、営業部門との対話機会も増えたため、開発者と営業部門という、ともすれば「水と油」の関係になりがちな両部門の連携が強化されつつあるという。

 また、この開発プロセスを定着させるために実施した社内セミナーに触発され、プロジェクトマネジメント、リーダーシップなどの能力を高めるためのセミナー活動も活性化したとのことで、DSMプロジェクトをきっかけとした社内風土の改革・活性化にも一定の手ごたえを得ているという。

 「いままで部門ごとに個別最適的な活動が多かったが、今後はより全体最適に視点を置いた改善活動が可能になっていくだろう」とし、同社の目指す、「ドライブ・アシスト」および「よき伴走者との自走・自立」という方向性への意欲を示した。

 ◇◇◇

 製品開発・設計工程のリードタイム向上には上流工程の整流化が必須だ。確度・精度の高い上流工程が実現すれば、各地域拠点での世界同時開発も最小のリスクで実現できるだろう。また、伊藤氏の講演にあるように、今後は機能競争ではなく、市場ニーズにいち早く対応できる企画力・提案力のあるモノづくりが重要となるならば、軸のぶれない開発体制も重要となってくるだろう。今回、事例として紹介したアルパインでは、技術ばらしを中心とした設計・開発体制の見直しによって、グローバル市場での展開をスピーディに実現し、市場ニーズに応えた製品をいち早く上市するための準備を整えた。製品ライフサイクルを考えるうえで非常に優位となることはまちがいないだろう。


 今回取材した「開発力セミナー」は、電通国際情報サービス、iTiDコンサルティングが共同で開催しているもの。毎年1回のペースで実施されており、今年で6回目となる。今回は「開発力向上による風土改革」をテーマとし、設計・開発プロセスなどの製品開発の上流工程の整流化を中心とした講演が行われた。

 セミナー開会挨拶にはiTiDコンサルティング 代表取締役社長 北山 厚氏が登壇した。

 セミナー当日のニュースでは、前日の為替相場で円が高騰、対ドルで84円を記録したと伝えられていたが、北山氏はこのニュースを例に挙げ、現在の状況を単純な不況ではなく経済的・社会的構造に大きな変化をもたらすものだ、とした。

 「従来であれば苦しい状況でも、作れば売れる構造でした。つまり、現場の優秀な担当者にある程度任せてフル稼働させておけば、何とかなっていたわけです。それゆえに問題が顕在化しなかったということもあります。しかし、時代は大きく変化しています。にもかかわらず、旧来のやり方を改めずに対応しているため現場の優秀な担当者は常に疲弊しており、また、現場には若手を育てる余力がなくなってきています。おそらく、今後景気が好転したとしても、元通りの状況になることはないでしょう」(北山氏)

iTiDコンサルティング 代表取締役社長 北山 厚氏 iTiDコンサルティング 代表取締役社長 北山 厚氏

 北山氏は、冒頭スクリーンに大きく「風土改革」の文字を掲げ、経済的・社会的構造が変化しつつあるいま、人・プロセス・システムも、それに対応した改革を行わなければ、景気好転後に従来どおりの収益を上げ続けることは難しい、それゆえに、企業の風土改革を行う必要がある、とし「2010年を明るい年として迎えるためにも、いまこそ風土改革を実践すべきとき」と提言した。

 また、イベントの主催である電通国際情報サービス、iTiDコンサルティングが共同で開発した「iPRIME NAVI」による「技術ばらし」による開発上流工程の効率化についても紹介された。本稿で紹介しているアルパインにおける設計・開発工程の改善も同製品を活用したものだ。製品企画から構想設計プロセスまでを合理的に整理し、開発プロジェクトの整流化が期待できる製品となっている。同製品の概要については「設計・開発工程を可視化するiPRIME NAVI Ver.2.0」を参照してほしい。



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