分析の目的と目標が決まれば分析に移りますが、問題の本質や要点と思われるものが分かったとしても、ただちに具体的な対策が立案できるとは限りません。従って、その問題について、さらに詳細な事実を集めて分類、計量、評価などを行って実態を正確に把握することが必要です。そして、取り上げた問題が本質的なものであるか否かを検討します。この分析の良否は、改善効果を大きく左右するもので、安易な分析は改善方向を誤り、間違った結論を導く危険性もあります。
また、現状分析の方法は、問題の状態や性質によって決定します。分析は目的に対して行うものですから、決して「手法のための分析」にならないように注意しなければなりません。分析の手順を大別すると、「表4 分析の手順」の3段階に分けられます。
No. | 項目 | 手順 |
---|---|---|
1 | 現状調査 | 目標に対して、原価、生産量、品質、製造期間(リードタイム)など、各関係項目の予備データを集めて、目的に適合した分析が行えるように準備する |
2 | 手法の選択 | 現状調査の結果を基に、目的に適合した分析手法を選ぶ |
3 | 分析 | 分析結果を具体的に検討できるように、すべて、数量(数値)として問題を摘出して、改善の方向が的確につかめるようにする |
方法改善を最も効果的に行う前提として、分析に先立ち、分析するための基礎資料を集め、改善の目標に対してどの手法を適用するか、また真の問題がどこにあるかなどを知るために事前の現状調査が必要です。
現状調査のためのデータ蒐集は、一般的には、
の3つの方法があります。データの内容は、分析の目的によって変わってきますが、一般に「表5 データ情報の蒐集」に示すデータを蒐集します。
No. | 項目 | 手順 |
---|---|---|
1 | 現状調査 | 目標に対して、原価、生産量、品質、製造期間(リードタイム)など、各関係項目の予備データを集めて、目的に適合した分析が行えるように準備する |
2 | 手法の選択 | 現状調査の結果を基に、目的に適合した分析手法を選ぶ |
3 | 分析 | 分析結果を具体的に検討できるように、すべて、数量(数値)として問題を摘出して、改善の方向が的確につかめるようにする |
表5 データ情報の収集 |
現状調査の結果を系統的に整理し、問題はどこにあるかを把握し分析しようとする範囲を明確にします。収集したデータは、管理、材料、設計、工程、設備、作業などの各項目別に整理すると問題の評価付けや分析範囲の検討に便利です。分析は、この評価付けの順序に従って行います。
分析を進めるに当たっては、各種の分析手法の中からどの手法を選ぶべきかを、まず慎重に検討をしなければなりません。分析手法は、各種ありますが、いずれも長所と短所を持っており、選択を誤ると労多くして何らの成果も得られない恐れが出てきます。
手法選択の基準としては、「分析目的」「対象作業(特質)」「分析費用(期間)」の3つが考えられるので、これらの3つの面から総合して判断をします。選択基準を内容別に示すと、「表6 手法選択の基準」のとおりとなります。
選択基準 | 内容 | ||
---|---|---|---|
1: 分析目的 |
作業分析 | 作業方法分析 | 1:主に作業動作を対象とするもので、動作経路、身体の動きなどの分析をしたい場合 2:作業のやり方、治工具の使い方、運搬手段などの方法の分析を目的とするとき |
多重活動分析 | 大勢の作業者同士、作業者と機械などの相互の関連、活動状況を分析したいとき | ||
工程分析 | 1:移動経路を中心とした作業者の工程手順の分析をしたいとき 2:製品の作業工程、移動経路を分析する |
||
稼働分析 (余裕率設定) |
1:対象者が毎日、1日をどのような仕事にどれだけの時間を費やしているかを分析したいとき 2:機械または作業者が実際に働いている時間は、1日のうち何%かを定量的につかむ 3:余裕時間を分析して余裕率を求める |
||
標準時間の設定 | 製品別、部品別などの単位当たりの標準時間の設定 | ||
2: 対象作業 |
組作業 | 1人作業か、組作業かによって選ぶ手法は異なり、同じ組作業でも人数によってさらに異なる | |
作業のサイクル (作業の完成期間) |
1:短時間で繰り返す作業と、長時間で繰り返す作業とでは適用手法が変わる 2:長期間を要するものは、ワークサンプリング法などの低精度でも費用の少ない手法、短期間ならストップウォッチ法などの費用のかかる手法でも選べる |
||
繰返し性 (作業の永続性) |
1:繰り返し行われる対象は、費用がかかっても精度の高い手法を選び非繰り返し作業は、精度をある程度無視して選ぶ 2:対象作業の将来性を考慮して、永続性のあるものは分析工数の大きな手法を選べる |
||
作業の単純生 | 動作が細かく、混み合ったものと、大まかな動作の作業とでは、選ぶ手法も変わる | ||
3: 費用 |
観測者1人当たりの被観測者数 | 観測者1人で受け持てる対象作業者数 | |
必要な機材 |
表6 手法選択の基準 |
各種の分析手法に従って分析を行う場合、観測者は「表7 分析のやり方」の手順に従って進めていくことが大切です。ただし、分析手法や手順におぼれて詳細分析を行うのではなく、簡易分析で目的の分析結果が得られればその方が経済的でいいわけです。また、そういう意味でも分析そのもの(観測方法や観測用紙の書式など)の改善を実施して、さらに分析効率を上げていくことも大切なことです。
区分 | 項目 | 内容 |
---|---|---|
1: 計画 |
計画 | 分析計画を立案する。問題のある職場、部品、工程、隘路、低能率、不良の発生などについて関係者(ライン管理者、上司など)と協議し、時期、期間などの実施計画を立てる |
作業者選定 | 対象作業者を選定する。分析すべき作業を何人かが同じ作業をしているときは、その上司に人選してもらう。また、前もって現場管理者と打合せをしてあっても、対象作業者の上司には必ず了解を得る。特に、調査が現場のあら探しとか、現場管理者の指導方法のチェックなどと、誤解され勝ちであるから十分に説明し、納得してもらうことが必要である | |
連携 | 対象作業者と打ち合わせをして協力を仰ぐこと。観測対象となった作業者は、勤務ぶりを測られるという感情が先行するから、前もって上司から分析の目的や、やり方について十分に話してもらう。さらに、観測を始める前に目的や主旨について、観測者自らが、平易に柔らかく対象作業者へ説明し、特別の意識を持たないように、了解と協力を得る | |
2: 観測 |
計画 | 計画に従って観測する。観測は必ず現場で行うこと。場合によっては動画などを活用することもよい |
客観的 | 客観的な観測であること。分析記録は、分析者だけが理解できるものであってはならない。一定のルールに従って、「誰が」「いつ」「どこで」分析・記録しても同一の結果が得られるような内容にすることが必要である。 | |
定量的 | 定量的観測であること。改善の効果を評価するためには、それを経済価値に換算して評価しなくてはならない。従って、すべてについて定量的に測定することが望ましいが、それができない場合でも、その意識を持って比較検討する考え方が大切である | |
事実 | 問題の焦点を把握し、事実をありのままに観測・記録すること(想像で記録してはならない)。また、作業の邪魔にならない観測位置を選ぶこと。データは、毎日整理する | |
3: 分析 |
事実 | 事実をありのままに分析すること。批判や推論、思い付きによって事実を曲げた記録や分析をしないこと。また、このことは他の要素との関係を追求するときに条件の不足をきたす恐れもある |
手落ちの ない分析 |
現状分析は手落ちなく、徹底して行わなければならない。そのためには、何のために(Why)、何を(What)、どこで(Where)、いつ(When)、誰が(Who)、どのようにして(How)の5W1Hの各項目を自問しながら行うことが大切である。現状を正確に把握できれば、対策はおのずと出てくるものである。特に、最初の「何のために(Why)行うか?」について、徹底した調査をしておくことにより、最も効果的な対策が得られる | |
まとめ | 1:統計的手法を用いて結果をまとめる 2:過去の実績または標準値と、測定結果を比較する 3:測定値の不足および追加測定の要点を決定する< |
|
図示化 | 各種の条件や改善の提案は、単なる数字の羅列ではなく、一見して重点や欠陥、傾向などが分かるように図表やグラフにして、視覚に訴える工夫が必要である。文章もなるべくカ条書きにして、主旨や重点を明らかにすること |
表7 分析のやり方 |
◇ ◇ ◇
以上、「方法改善」の手順における「目標の設定」と「詳細分析」について説明をしました。IEを身に付けるには、現場での実践を積み重ねていくほかはありません。ぜひ、地道に現場での経験を重ねて、改善技術を自分のものにしていく努力をしていただきたいと思います。
次回の「詳細分析-ii-」では、活用頻度の高い分析手法とその利用方法について説明します。ご期待ください!!
MIC綜合事務所 所長
福田 祐二(ふくた ゆうじ)
日立製作所にて、高効率生産ラインの構築やJIT生産システム構築、新製品立ち上げに従事。退職後、MIC綜合事務所を設立。部品加工、装置組み立て、金属材料メーカーなどの経営管理、生産革新、人材育成、JIT生産システムなどのコンサルティング、および日本IE協会、神奈川県産業技術交流協会、県内外の企業において管理者研修講師、技術者研修講師などで活躍中。日本生産管理学会員。
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