左右のタイヤの回転数を上手に振り分けるディファレンシャル。でも路面抵抗が極端に低い状態になると?
今回は自動車がスムーズに旋回を行うために必要不可欠な部品の1つである「ディファレンシャル」について解説します。
ディファレンシャルは「差動」という意味があり、一般的に目にする「作動」とは違います。あえて違う文字を当てはめていることを考えれば、何となく「差」という部分に大きな意味があることが容易に想像できると思います。
ディファレンシャルは通称「デフ」や「デフギア」と呼ばれており、スポーツ走行やドリフト走行などを行う人からすれば非常に意識する部品の1つでしょう。ディファレンシャルの特性1つで、車の性格が大きく変わるほどの影響力があります。目的に合致したディファレンシャルを選択できるかどうかは本当に大切です。
それではまず、ディファレンシャル=差動の基本について説明していきます。
そもそも差動という言葉になじみがない方が多数いらっしゃると思いますので、差動とは一体どういうことなのかをイラストを交えて見ていきましょう。
筆者より:
この項目では、差動の仕組みについて理解しやすいように、非常に極端な例を挙げています。実際の挙動とは少し異なります。
ハンドルを右にいっぱいに切った状態でゆっくりと旋回している状態をイメージしてください。途中でハンドルを戻すなどタイヤがスリップしてしまうようなアクセルワークはNGです。とにかくグルグルとゆっくり旋回し続けてください。
ではこのときの内側のタイヤ(右側)と外側のタイヤ(左側)が通る軌跡に注目です(図1)。
意識してみないと気が付かないことなのですが、内側のタイヤが通る軌跡と外側のタイヤが通る軌跡が作り出す円の大きさが違うことが分かりますね。今回は内側の円の円周を10m、外側の円の円周を15mだと仮定しましょう。さらにタイヤが1回転することで50cm進むと仮定します。
それでは計算してみましょう
内側のタイヤは、
10m÷0.5m=20回転
外側のタイヤは、
15m÷0.5m=30回転
つまり左右のタイヤを比べると同じ1周の間に必要な回転数が違うことが分かります。
さてこのとき、左右のタイヤが1本のシャフトでつながれていると、どうなるでしょうか?
少なくともこの円を1周するためには外側のタイヤが30回転しなければいけません。左右のタイヤが1本のシャフトでつながれているわけですから、内側のタイヤも30回転することになりますね。
要は20回転で1周できるのに30回転するわけですから、10回転も余分に回転してしまうことになるのです。この余分な10回転はスリップ(空転)となりますので、タイヤの摩耗が激しいのはもちろんのこと、シャフトへの負担も非常に大きなものになって、最悪な場合は破損します。これだけの負担がありますので、旋回すること自体が非常に難しい状態といえます。そこで必要となるのが差動装置、すなわちディファレンシャルということです。
ディファレンシャルは駆動輪(FFであれば前輪)の中心付近に配置され、左右輪の回転差を吸収してスムーズに走行・旋回させる役割を担っています(図2)。
FR車やトラックなどでは、後ろから車の下をのぞけばディファレンシャルケースを見ることが可能ですね。
「回転差を吸収する」という意味がなかなかイメージしにくいと思いますので、また簡単な例を挙げて説明していきます。
時速30キロで直進しているときのタイヤの回転数を、左右ともに500回転としましょう。それを踏まえて走行をしていると想像してみてください!
前方に右カーブがやってきました! ハンドルを切って右に曲がりますよ〜!(時速30キロのまま)
このときの回転数は「右タイヤが400回転、左タイヤが600回転」となっています!
さあカーブが終わり、ハンドルを戻して直進に戻りました!
直進なので「右タイヤは500回転、左タイヤも500回転」となっています。
勘がいい方は、もう気が付いたかもしれませんね?
少しまとめると、旋回時が「400:600」で直進時が「500:500」です。そうです、左右の回転数を足すと、必ず1000回転になるのです。
つまり、左右のタイヤの回転数を必要な分だけうまく振り分けているのです。これが「ディファレンシャル(差動)」という名称の由来です。もちろん右タイヤが300回転であれば左タイヤは700回転となります。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.