では、具体的に上司を書き込むために必要なアクションを考えていきましょう。
良い上司は全体を考えています。ですから、まず問題を話す前に「こんなふうになったらいいですねぇ」とか「こんなことが実現できたら最高ですね!」というような感じで、変革の方法論を話す前に、全体の夢やビジョンに合意しておくとこの後の展開がぐっと楽になります。
要するに「総論」に対する賛同をまず確認するのです、そのうえで「お〜、あいつも結構考えてるんだなぁ……」と上司に良い印象を持ってもらうということです。
夢やビジョン、目的を確認した後は現実の姿について話します。しかし、いきなり「わが社の風土は……」や「方針上の制約が……」などととうとうとしゃべった瞬間、上司の扉はぴしゃっと閉まることは間違いありません。こういった中核的な話はもう少し先のステップで話します。
ここでの現状認識は結果として、いまどうなっているか、いい換えれば
「T(スループット)・I(在庫)・OE(業務費用)」が現在どういう状態にあるか、そしてそれが将来どう推移するか、それによって将来の夢やビジョン、目的の達成にどう影響するか」
ということに絞って話をします。
ですからここでは「わが社(わが部門)現状の業績(成績)はこうです」(そうすると)「(何か)良くない事象が発生し」その結果「このままでは将来のビジョンの達成が危うくなります」という順番(ロジック)で話すことが重要です。
そして確実に上司とコミットするために必要なことは、上司の大切にしているポイントを見つけ出すことが重要です。
上司がいつもいっていることは何か? なぜそれをいうのか、の2点を整理すればおのずとポイントが見えてくるはずです。
現在の業績「T・I・OE」か、将来の「ビジョン、ミッション(将来)」のうち何を最も重要視しているのかをよく見極めます。
皆さんは、自社や自部門の経営的な問題点をシンプルに話せますか、もし知らないとするならば、第一にすべきは自社を理解し、経営的な課題をつかまえることかもしれません。ここでは「確かにそうだよなぁ……何かしないといけないなぁ」と上司に思わせることが大切なのです。
ですからもしも、焦点が絞れていない上司ならば巻き込まない方が安全かもしれません。
ちなみに、この段階では「人(事)」のことや「金(予算)」の話はもちろんのこと、「誰が」という個人名は出してはいけませんし、自分が「こうします」的な決意も控えます。あくまで客観的に大所高所からの意見に集中することが重要です。
ここでもまだ、TOCなどの個別手法の話をする段階ではありません。改革・改善に合意してもらう基本は、ステップ2と同じように、因果のロジックで話すことです。そのときに大切なのは上司がいつもいっている(コミットしている)「キーワード」を入れ込みシンプルなロジックで話すことです。
リードタイムを短くすれば、利益が増えるんです
サーバを集めて管理すれば、開発効率が上がります
欠品を減らすには、在庫補てん型の生産計画が必要です
「えっ……、そうだったの……、なぜ?」と上司に思わせたら次のステップに進みます。
ここでようやくTOCなど手法の話をします。でも間違っても手法の説明をしてはいけません。それらの手法が実現できること(ソリューション)の特徴を具体的なポイントを絞って説明するのです。
○○社ではリードタイムを半減して、30%利益が増えたそうです
△△では開発工程のサバを管理するやり方で、開発の納期順守率が100%になったそうです
TOCーDBRという生産管理手法は欠品を減らすのにものすごい威力があるそうです
ここでのポイントは「ウチの会社にも有効そうだな」と思ってもらうこと、「ちょっと詳しく説明してよ」と上司に思わせることなのです。
ここまで、話を聞いてもらえればゴールはもうすぐそこです。しかし、ここで焦っては事をし損じますから慎重に説明していきましょう。
すべきことは、ステップ4で説明した具体的な成果の種明かしを行います。ここからはこの連載シリーズで説明している、TOCの各アプリケーションをよく読んで、説明を考えておきましょう。
実は、リードタイムが短くならないのは、全工程の生産性を追いかけることが原因なんです
実は、開発期間が長期化するのは各タスクがそれぞれ安全余裕を持っているからなんですよ
……というように、上司が「当たり前だ」と思っている日常的な「行動」が問題を発生させていることを理解してもらうことが重要なのです。
革新的なアイデアは実行した際の効果が見えなかったり、障害や副作用が大き過ぎて乗り超えるすべが見つからないと感じられるものです。まさに、「ブタが空を飛んでいる」ような荒唐無稽(むけい)なアイデアです。ブタの羽をむしって地上に引きずり降ろすには、実感できるメリットを十分に考え、リスク、障害、副作用を明確にし、リスクはより少なく、障害・副作用に対しては明確な対策を立案しておく必要があります。
上司も自信がないことだってあります、どうしていいか分からないときだってあります。そんなとき……、誰かに説得されたらどうでしょう? きっと、耳を傾けてくれるはずです。
本稿をヒントに、ぜひ皆さんもアクションを起こしてみてください。
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