カーエレクトロニクスの進展により、高級車に搭載されるECU(electronic contorl unit)数が50個とも100個とも言われる時代となった。これらのECUのうち、最も高い性能を持つのがカーナビゲーションシステムである。最新のカーナビには駆動周波数が数百MHzに達するプロセッサが搭載されるなど、数年前のパソコンと同等の性能を持つまでになっているが、その一方で熱設計の余裕度も非常に小さくなっている。このような状況下で、カーナビ大手のアルパインが、開発部門を横断しての熱対策により成果を上げている。
自動車開発を行う上で、設計図面を作成するCAD(computer aided de-sign)や、解析シミュレーションを行うCAE(computer aided engineering)などのデジタルエンジニアリングツールを利用することが当たり前になって久しい。現在は、開発の最上流で3次元CADを使って設計を行う技術者がCAEを利用することにより、試作回数を減らすことのできる「開発のフロントローディング」がトレンドとなっている。実際に、大手CADベンダである、フランスDassault Systemes社、米PTC社、米Siemens PLM Software社などは、CAEベンダを買収することでCADの解析機能を拡充することに余念がない。
CAEを使った解析は、衝突シミュレーションなどに用いる構造系、外形デザインの空力などを計算する熱流体系、そして電磁ノイズの影響などを調べる電気系などに分かれる。そしてCAEベンダ(CADベンダ傘下のツールも含めて)は、これらの複数の物理現象を同時に連成解析する「マルチフィジックス解析」への取り組みを強化している。
自動車開発に携わる技術者のうち、3次元CADやCAEに親しんでいるのはいわゆる機械系が中心となる。構造系や熱流体系CAEは、自動車の機械系技術者が多用することで進化して来たと言っても過言ではない。一方、電装品メーカー中心の電気系技術者にとって親しみ深いCADと言えば、米Mentor Graphics社や図研などの回路設計に用いる2次元CADであり、CAEはEMC(電磁界適合性)対策のための電磁界シミュレーションツールを利用する程度である。機械系と電気系技術者の間に横たわる深く大きな溝を埋めることは、モノづくりにおける大きな課題の一つである。
この課題に対して積極的な取り組みを進めているのがアルパインである。同社は、2006年4月から、カーナビ/カーオーディオ開発の熱設計において、設計上流で問題解決を行って試作回数を大幅に削減するために、開発プロセス、使用するツール、技術者のスキル育成を融合する取り組みを開始した。
同社技術本部開発企画部次長の見山博之氏は「従来の熱設計は、電気設計側は使用する個別部品の消費電力や発熱を調べて機構設計側に渡すだけであり、機構設計側は渡されたデータをもとに解析を行って製品全体の放熱能力の最適化を行うという、一方通行的なプロセスだった。しかしこのやり方では、どうしてもカット&トライ的な設計となり、1次試作、2次試作と開発が進むに従って、問題発生件数が増えてしまう」と語る(図1)。
アルパインは、自社のカーナビ/カーオーディオ製品を、オーディオ、ビデオ、ナビゲーション、コミュニケーシ
ョンがかかわることから「AVNC製品」と名付けている。「かつてはCDとアンプが入っているだけだったが、今はA、V、N、Cすべての機能が入っている。しかし、車載機器の制約として外形寸法は決まっているわけで、開発する上でさまざまな問題が発生するようになった」(見山氏)。
ここで言う問題とは、熱に加えて、電磁ノイズ、振動による共振現象を含めた「3大問題」として知られており、同社でも2001年〜2002年ごろから意識するようになったという。見山氏は「3大問題の解決は、各設計分野で個別に行っていても効果がない。そこで、3年間の準備期間をおいて、2006年度から熱とノイズについての設計プロセス改革を開始した」と話す。
熱設計については、電気設計側の熱設計基準の明確化と支援ツールなどインフラの整理に加えて、詳細設計の前に電気設計と機構設計がリスク共有化と対策検討を行うための「熱DR(design review)」を開発プロセスに追加した。
通常、開発プロセスの中で行うDRとは、開発の各部門担当者だけでなく生産や販売側も参加して行う“設計審査”のことを指す。しかし熱DRは、サブシステムレベルの開発担当者が参加して行うサブDRとして位置付けられている。「従来も、サブDR的なイベントは、電気設計や機構設計などの各技術領域内でも行っていたが、同じ技術課題に関わる技術者を集めてサブDRを行うことに意味がある」(見山氏)。
例えば、熱に弱い光ディスク装置のピックアップレンズに関わる熱設計について、熱DRを追加することにより、回路基板の温度上昇を抑えるのか、レイアウトを変えるのか、冷却ファンの位置を変えるのかなど、開発の早い段階で電気設計と機構設計の両面から対策を検討することができるようになった。
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