需給計画によるサプライチェーンのレジリエンス強化を実現! PSI計画サイクルを週から日へ、10カ月でのクラウドシステム立上げ:SAP IBP導入事例
製造業がグローバルサプライチェーンの強化を図る上で見直したいのがPSI計画です。属人性を排し、可能な限り短サイクルで回していくにはPSIツールの導入が欠かせません。本稿ではTOAによるSAP Integrated Business Planning for Supply Chainの導入事例を紹介します。
業務用の音響機器やセキュリティ機器の製造、販売を手掛けるTOAは、グローバルサプライチェーンの強化に向けSAP Integrated Business Planning for Supply Chain(SAP IBP)をNTTデータ グローバルソリューションズ(以下、NTTデータGSL)の支援のもと導入。PSI※1計画の効率化と、経営、営業、生産部門の連携によるS&OP※2の実践により、より顧客ニーズに即した製品供給に取り組んでいます。
※1:PSI(Production Sales Inventory)
※2:S&OP(Sales & Operations Planning)
PSI計画の効率化による グローバルサプライチェーンの強化
1934年の創業以来、非常用放送設備、駅や空港の案内放送システムなどの業務用音響機器などを手掛けるTOAは、防犯/監視カメラなどの映像機器、ネットワーク機器へと事業領域を拡大しています。同社の製品は東京都庁や梅田スカイビル、ウィンブルドン・テニスコート、東南アジア最大のイスティクラル・モスク、アジア最大級のマリンテーマパークまで、世界中のあらゆるシーンで活用されています。
同社は世界を5つの地域に分け、地域の風土や文化にあわせて商品を開発する地域密着型のビジネスを展開し、それぞれに開発、生産、販売拠点を配しています。近年はアジア・パシフィック地域の経済成長に歩調を合わせる形で、アジアを軸としたビジネスに注力し、順調に売上高を伸ばしています。
同社のビジネスを支えるのは、グローバルに張り巡らされた物流ネットワークです。現在、5カ所の生産拠点(国内2カ所とインドネシア、台湾、ベトナム)と3カ所の在庫拠点(国内、シンガポール、オランダの倉庫)から、各エリアの販売会社を通して世界120カ国に商品を供給しています。
複数の生産拠点、在庫拠点が関わるサプライチェーンは非常に複雑です。在庫拠点では在庫基準値を下回った商品は2週間のリードタイムで在庫を確保し、生産拠点は見込み生産で部品を手配して適正在庫を確保してきました。それでも、4000品目にのぼる商品の生産、販売、在庫を同時に計画するPSI業務の複雑化により、業務負荷が増大していました。TOA SCM本部SCM戦略部長の上田昭則氏は次のように振り返ります。
「従来のPSI計画は、過去の販売実績から需要予測を行い、ExcelベースのPSIツールで生産数量や在庫計画を作成し、生産拠点とメールベースで調整を行って生産管理システムに反映させていました。計画を1週間サイクルで回す形のため、タイムリーな対応は難しい状況でした」(上田氏)
また、金額ベースの販売計画と、数量ベースの生産、在庫計画との間に乖離が生じることもありました。部品調達のリードタイムが長期化する中、生産効率を高めるにはS&OPを念頭に販売計画を生産計画と同期させ、PDCAサイクルを回して計画的な部品手配を行う必要がありました。
さらにコロナ禍で世界のサプライチェーンが混乱し、TOAの生産現場も大きな影響を受けたこともあり、同社はPSI計画の課題を解消してグローバルサプライチェーンを強化するため、PSIツールの刷新を決意しました。
SAP IBP導入にあたりNTTデータGSLの導入アプローチを評価
TOAはPSIツールとして、SAP IBPを採用しました。国内の基幹システムとしてSAP ERPを20年以上利用してきた同社では、SAP S/4HANAへの移行を2022年に完了しています。海外の販売会社もSAP ERPを利用しているため、SAPソリューション間の親和性と柔軟なデータ連携を評価しました。クラウドベースのため短期導入が可能で、四半期ごとのアップデートで継続的な機能拡張ができることもポイントになりました。
導入するうえではNTTデータGSLの支援体制も評価したと、TOA 情報システム部長の濱田健太郎氏は語ります。
「当社が目指していたベストプラクティスの活用と、レファレンス(過去の成功事例)を参照しながら導入するというNTTデータGSLのアプローチが合致すると考えました。提案時のプレゼンテーションやデモを通して、プロジェクトメンバーの知識の豊富さや能力の高さも確認できました」(濱田氏)
導入プロジェクトは2023年3月からスタートし、2024年1月にSAP IBPの本稼働を迎えました。クラウド特有のアプローチとして、要件定義はNTTデータGSLのデモ環境でのSAP IBPの設計思想の確認と、TOAのプロトタイプ環境での業務プロセスの見直しという2ステップで実施しました。
「SAP IBPは当社にとって未知の製品だったため、デモ環境で設計思想を学ぶことから始め、Fit to Standardによる導入イメージを持つことができました。その後のプロトタイプ環境での要件定義では、在庫計画、発注計画、生産計画それぞれで既存業務とのギャップを吟味しながら、基準在庫の設定方法や需要予測モデルを検討しました」(濱田氏)
キックオフや各フェーズの節目などはオンサイトで、定例ミーティングはオンラインでNTTデータGSLとミーティングを実施し、プロジェクトを進めていきました。
「要件定義、設計、開発は、日次ベースでNTTデータGSLの開発メンバーと連絡を取りながら進めました。業務面とシステム面の課題をそれぞれ一覧化し、定例会や日次ミーティングで逐次説明があり、特にプロジェクトマネジャーから1つ1つの課題について、業務に与える影響が大きい領域、小さい領域を切り分けて丁寧に説明をしていただき、安心感を持つことができました」(上田氏)
プロジェクト中に発生した課題についてもNTTデータGSLの的確な対応により、大きなトラブルなく乗り切ることができたといいます。「課題の早急な発見、的確な対応策の実施によって、予定通りに10カ月で本稼働にこぎ着けました」(濱田氏)
属人的なPSI計画の改善により計画サイクルを1週間から即日に短縮
現在TOAは、SAP IBPの本格活用に向けて取り組んでいます。PSI計画の作成で部門間の調整作業が不要になり、1週間サイクルではなく日単位で計画作成ができるようになる見込みです。また、販売実績や営業情報などに基づく需要予測の精度向上も期待されています。
また、経営、営業、生産部門の連携によるS&OPの精度向上も目指しています。従来の金額ベースの経営/販売計画を、品目×台数の販売計画として台数ベースの生産計画と同期させることで販売動向と連動した商品供給を実現し、さらなる利益の創出につなげる計画です。
「品目×台数の販売計画の作成には着手したばかりです、今期は実績と比較しながら検証を重ね、4000品目の商品の安定供給につなげていきます。また、SAP IBPのS&OPモジュールとSupply Chain Control Tower(SCCT)モジュールを活用し、特にSCCTの機能を利用して販売計画と実需の差をモニタリングしながら過剰/過小在庫を防いだり、販売計画を見直すための意思決定に利用したりしながら経営に貢献していきます」(上田氏)
海外の販社拠点にSAP IBPを展開しグループ全体のS&OPを実践
今後は、SAP IBPをベースにサプライチェーンマネジメント(SCM)戦略におけるデジタルシフトを加速していく方針です。
「SCM戦略の中で、サプライチェーンは利益の源泉であるべきと考えており、データドリブンを推進するツールとしてSAP IBPの豊富な機能を活用していきます」(上田氏)
現在、SAP IBPの適用範囲は国内本社のPSI計画が中心となっていますが、将来は海外の販社拠点にも展開し、グループ全体のS&OPを推進する考えです。
「事業規模や担当者のスキルレベルが異なる海外販社でも業務の均質化を図り、本社と連携しながら販売と同期した生産計画を作成し、グループ全体の利益創出に貢献していきます」(濱田氏)
導入ポイント
- 業務を標準機能に合わせるFit to Standard
- レファレンスを活用した業務の見直し
- プロトタイプ開発における日次ベースの会議の実施
会社概要
TOA株式会社
設立:1949年4月20日(創業:1934年9月1日)
資本金:52億7,900万円
本社所在地:兵庫県神戸市中央区港島中町7-2-1
URL:https://www.toa-global.com/ja
事業内容:音響機器、映像機器、通信機器、その他電子・電気機械器具の製造販売およびサービス事業
会社紹介
業務用/プロ用の音響機器と、防犯/監視カメラなどセキュリティ機器の専門メーカー。1934年に東亞特殊電機製作所として神戸で創業し、現在は国内外に拠点を配して、世界120カ国以上に商品を送り出している。企業価値である「Smiles for the Public −人々が笑顔になれる社会をつくる−」を実現するため、お客さまの持つさまざまな課題を解決し、「安心」「信頼」「感動」の価値を提供している。
※本記事は、NTTデータ グローバルソリューションズより提供された記事を許諾を得て再構成したものです。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- SAP IBPで実現するSCM計画業務の高度化
- データドリブン経営を支えるデータ活用基盤
- SAP BTPによるDX推進
- DXの価値を最大化するクラウド拡張基盤
- 基幹系DX基盤としてのクラウドERP
- ERPパッケージをフル活用する製造業は少数派?
- SAP IBPを活用した供給計画の立案作業
- SAP IBPを適用した需要計画の立案作業
- 化学業界におけるサプライチェーン計画業務の共通基盤の仕組み
- 化学業界のサプライチェーンが抱える現状の課題とあるべき姿
- ニューノーマル時代のグローバルサプライチェーンに求められるものとは
関連リンク
提供:株式会社NTTデータ グローバルソリューションズ
アイティメディア営業企画/制作:MONOist 編集部/掲載内容有効期限:2024年9月9日